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ダブルワールド  作者: 東城陽一
3章:研究所
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51話:溶ける王女

 研究所のさらに地下、二人の存在感がこの空間を支配する。


 暗く、冷たく――まるで冥界を想像させるように。


 再び距離を詰めたクラネは撃ち合う。


 剣に魔力を注ぎ続けることで氷剣を保っているが、それ以外に注力できていない。


 クラネとの会話で内心が乱れまくっているのか、攻撃が単調になっていた。


 振り下ろす氷剣を一歩身を引いて躱わし、ラスカの顎部をバク宙の要領で蹴り上げる。


 「くっ!!」


 高く空中に舞い上がり、クラネはそれを追う。


 打ち上げられたラスカは追ってくるクラネを凝視する。


 その瞬間、風の斬撃が絶え間なく襲ってくる。


 「ッッ!」


 身体中から魔力を放出し、一時的に風の斬撃を跳ね除ける。


 「うっとおしい!!」


 右手に氷剣を構える。それから凄まじい魔力を感じたクラネは心から警鐘を鳴らす。


 ラスカはその氷剣をクラネに目掛けて一直線に投げる。


 恐ろしいほどに魔力が籠ったその剣を闇で吸収する気にはなれず、体を左に反らして回避した。


 「っ!? 飛んで!!!」


 万が一のことを考え、壁際にいたフキに叫ぶ。


 クラネは氷剣が横切った瞬間、嫌な想像をした。当たってほしくない嫌な想像を。


 しかしその予感は的中する。


 氷剣はそのまま地面に突き刺さる。そして突き刺さった場所から一気に洞窟全体が凍結した。


 凍結までに1秒もかからない。


 今までの薄暗い地下洞窟が白い世界に変化する。


 辛うじてフキはクラネの声を聞き取り、宙に浮いていたおかげで、氷漬けにされずに済む。

 

 凍結の衝撃により、この純白の世界がひび割れていく。


 そして、爆発でもしたかのように一瞬で崩壊する。


 クラネとラスカは氷の塊に四方八方囲まれながら、さらに地下へと落下していく。


 フキの身を案じて周囲を見渡すが、溢れるほど氷塊で姿を確認できない。


 ラスカが強烈な魔力を放っているが故、魔力で感知することも不可能だ。


 フキなら大丈夫――そう考えて迷いを取り払う。


 2人は落下する氷塊に乗り、互いに見つめ合う。


 静かに。だがその眼光からは闘志しか感じない。崩落する純白の世界の中でも存在感は薄れることはない。


 氷塊を強く踏み込み、クラネは突進する。


 予想以上のスピードにラスカは驚くが、氷剣で受けきった。


 しかし、そのまま後方に押され、落下している氷塊に押し込まれる。


 この時、ラスカはクラネのスピードとパワーが格段に上がっていることに気づく。


 その衝撃を利用し、クラネは落下する別の氷塊に着地して走り出す。それと同時に気づかれないように闇を展開する。


 いくつもの氷塊の向こうにいるラスカを目掛けて、黒い霧のように素早く氷塊を蹴り上げて再び突進する。


 ラスカは剣を構える。

 突進してくるクラネを迎え撃つ。

 足場にしていた氷塊の中心に穴が開き、2人はその後ろで落下している氷塊の端っこに着地し、端から端まで剣を撃ち合う。

 

 ラスカは押されて受けることしかできない。端まで到達したところで、クラネは左手で両刃剣を振り下ろし、ラスカをさらに地下へと落とす。


 クラネはすぐに追うが、ラスカの氷剣が白く光り輝く。さらに暗い地下で自分の存在を露わにするように。


 「嘘でしょ!?」

 内心で叫んだクラネは魔力の底を感じさせないラスカが信じれなかった。


 氷剣からまるでレーザーのように白い光が振り払われる。


 避けるしかない――あれに触れれば生命活動が停止する。そんな気がして、後方の氷塊を巧みに移動しながら回避に動く。


 ただひたすらに、回避することだけ考える。


 そして、前方を見ると2回目のレーザーが足元に飛んできていた。


 咄嗟に足を浮かせて、命中を避けるが、周囲の凍結による衝撃で突風が巻き吹く。


 細かい氷の粒が吹き荒れ、クラネの額をかすめ、流血が右目に垂れる。


 「ギッ!」

 別の氷塊が左の脇腹に直撃し、唇を噛み切ってしまい、血が溢れていくが、その血すら周囲の風で凍っていく。


 前を見ると巨大な雪の結晶が出来上がり、クラネは目を奪われてしまった。


 未だ地面まで到達していない。落下する氷塊を足場にした戦闘の終わりが近づく。


 3回目の攻撃が来ない。おそらくリロードまでに時間がかかると考えたクラネは再び距離を詰める。


 空中で魔法を放っていたラスカは氷塊に着地するが、目の前から闇が迫って来ていた。


 氷塊上での2回目の撃ち合い。クラネは周囲の落下する氷塊を行き来するように変則的に剣を振る。


 そのトリッキーさに対処できず、ラスカは防御することしかできない。


 押され続けるラスカはなんとかクラネの剣を弾き、氷剣をその場し突き刺し、爆発させて距離を取る。


 反応が早かったクラネは後方に飛んで回避する。


 爆発した氷剣は巨大な雪の結晶となり、周囲を照らす。


 空中でそれを見ながら、クラネは右手をかざす。


 「っ!?」

 するとラスカの周りにブラックホールのような黒い円が次々に現れる。


 かざした右手を拳に変えると同時に、今まで溜めていた氷塊達を一気に放出する。


 ラスカは埋め尽くされて、氷塊と共に落下していく。


 「はぁ、はぁ……ふぅ」


 ここで地面に到着したクラネは息を整えた。


 そして両刃剣を両手で握り、左足を前に突き出して剣を後ろで構える。

 

 「ラストマジックッ!!」

 小さく呟く。けれど力強い声で剣に魔力を集中させる。


 ズン、と周囲の岩が弾け飛ぶ。


 氷塊を脱出したラスカは正面に立つ。


 「っ!? 最終奥義か!」

 そう言ってラスカも迎撃体制に入る。


 氷剣を生成し、左手と左足を前に突き出し、突き刺すように剣を構える。


 2人の準備は整った——正真正銘、これが最後のぶつかり合い。


 「シャドウゲイルっ!」

 後ろに構えた闇の両刃剣を振り上げる。


 「ホワイトリングレイ!!」

 右手で構えた氷剣を突き出すように押し出す。


 霧のような闇の槍が一直線に飛ぶ。


 先ほどと同様に氷のレーザーが互いにぶつかり合う。


 ――拮抗。


 そう見えるが、次第に闇が氷を覆っていく。


 お互い、自分の魔法で相手の姿が見えない。ラスカは魔法がぶつかっても手応えを感じていなかった。しかし、魔法を放つと同時に周囲が凍てついていくのを見て、錯覚してしまっていた。


 逆にクラネはラスカの魔法を侵食してる感覚があったかもしれない。今はただ、がむしゃらに放出する。


 横から見れば白い光はもうほとんどなかった。


 正面から見ているラスカはそのことに気づかず、急に自分の魔法が解除される。


 「はっ!?」

 目を大きく見開いて、闇の槍が直撃して、一直線に後方に吹っ飛び続ける。


 氷の外装を撒き散らしながら、何重もの壁を貫いてようやく勢いが止まり、壁際に倒れ込む。


 「はぁ、はぁ、」

 右目は完全閉じ、左目を半開きにさせて、倒れるラスカを視認する。


 「これで……倒れて欲しい」


 そして、後方にある岩の壁にもたれかかって、座り込みながら祈る。


 しかし、そんな祈りは届かない。


 身体中が切れて血を流し、震える右手で氷剣を前に突き出すラスカの姿があった。


 そして、氷の魔力放出。レーザーが放たれる。


 「これは……避けれないな……」

 小さく呟きながら、目を閉じる。


 そして、やりきったのか誇らしげに笑う。


 氷のレーザは完璧にクラネを捉えている。もう動くことはできない。


 命中を避けることは不可能だった。


 だが突然、そのレーザーの前に1人の人物が急に姿を現す。


 黒いフードをし、仮面を装着した人物が。


 その人は、抜刀の構えを取る。


 「――弍剣にけん!!」

 何もない手から急に剣が出現し、レーザーを真っ二つに斬り離す。


 斬ったところから氷のレーザーは消えるように姿を消す。


 そのおかげで、クラネはレーザーを免れることができた。


 「はは、たす、かりまし、た」

 安心したのか、もうほとんど開いていない目でセナを見て感謝し、クラネは意識を失う。


 「約束なんです。あなたは、絶対に死なせません」


 振り向いて、クラネを見下ろしながら呟く。


 「クソ……」

 攻撃が命中しなかったことを見て、溢れるように呟きながらラスカは気を失う。


 土煙が周囲に舞っているその中から、人影が現れる。


 土煙を掻き分けながら飛び出したフキは、ラスカの前に立ち、手に持った魔封鎖を急いで両手にはめ込む。


 「はぁー、これで……」


 疲れ切った、なんとかやりきった。そんな風な声だった。


 後半は氷塊の嵐に押しつぶされて、動くことができなかったフキは頭から血を流している。


 ラスカを抱えて、クラネのところへ歩く。


 歩きながら周囲を見渡す。


 すごい光景だった。土煙が漂う中、美しい氷が光るような絶景とも言える。


 「なんとか、勝ったね」

 向かってくるフキに対して、座っているセナが声をかける。


 「え!? どっから出て来た?」

 

 「あるんだよ、そういう力が」


 「そっか」

 少し微笑みながらフキは答え、ラスカを下ろす。


 「俺は先に行ってる」

 目つきを変えてフキは歩き出す。


 「あの後ろ姿……そっくりだ」


 心の中でセナは呟きながら、その場で腰を下ろす。


 一歩一歩強く踏みしめながらフキは研究所へ戻るため、上を目指す。

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