49話:開幕
――極式。
赤い魔力が、薄暗い鍾乳洞ともいえるその空間を優しく照らす。
セナにとっては何度目かの極式。数多くの修羅場を潜ってきたことによって、命とも言える赤い魔力が前面的に現れる。
まさに――燃える命の主張。
「なんだよ! それぇ!!」
初めて見る赤い魔力にトウキは動揺が隠せない。
それもそのはずだ。トウキは今までに死にかけるような経験をしたことはない。
「でかい声が出すな。響くんだからうるさい」
セナがそう呟いた瞬間、トウキの目の前には振りきった足があった。
顔面にモロに喰らい吹っ飛ぶが、足から岩を出して引きずらながら衝撃を軽減した。
だが体勢を立て直した瞬間、蹴りをもらったところからさらに衝撃が走る。
「っ!? どう、して!?」
二度目の衝撃を感じた時は触れられていなかった。しかし、遅れてきた二度目の衝撃にその場から吹っ飛ばされる。
意味がわからない。思い返せば、蹴りを打つ前だ。どうやって目の前に現れた?速いとかの次元ではなかった。
様々な思考がトウキを混乱させる。だが、これだけはわかった。
――強すぎる。
「一度退いて体勢を立て直すか……」
岩にもたれかかるように座っていたトウキは敵わないと判断し、すぐさま撤退の準備をする。
立ち上がり、下から上へ岩を高く押し上げることで、上層階へ逃れようと岩達がトウキを高く逃す。
隙だらけ。そんなことは承知していた。だからこそセナと自分との間に岩を展開する。分断するように突起した岩により、初動が少しでも遅れるように。
「どうせ、見てるんだろ……加勢くらいしてくれてもいいじゃないか!」
上昇している間にトウキは静かな声で嘆く。
すると一枚隔てた巨大な岩が雪崩のように落ち、セナはトウキを見上げる。
「……バケモンがっ」
そう呟いた瞬間、トウキは乗っている岩に叩きつけられたように倒れる。
「ぬっ!? お、もい!」
手足を広げながらうつ伏せに倒れ、立ち上がることはできない。次第に岩にひびが入っていき、30mほど高く上がった岩の中心に穴が空いたようにトウキは落下する。
周囲に岩の破片が飛び散り、土煙が舞う。
「ご、ごぼっ!」
土煙の中、吐き出した鮮血が綺麗に映る。
トン。トン。足音が聞こえる。トウキ背後には薄い人型の影が浮かんでいた。
「はっ!?」
気配を感じ、後ろを振り返った時にはもう手遅れだった。
どこから出現したのかわからない鎖に囚われ、跪きながら、目の前のバケモノを見つめる。
土煙が鬱陶しくてセナは風を纏って放出し、土煙を晴らす。
そして静かに右手の人差し指と中指の先をトウキの胸に密着させる。
最小限の動作で定めた右手を拳に変え打撃を送り込む。
「……!!!」
あまりの痛みにトウキは声も出ない。拳を喰らったその場所から身体が壊死していくかのように、そのまま前方に倒れる。
「あ、」
セナは怒りが解消し、冷静になる。
「尋問……すること、忘れてた」
右手から急に仮面が出現し、装着する。
「まぁ、いいか……」
もう過ぎたことを悔やんでも仕方ない。そう思いながらも少ししょぼんとする。
左手から黒い手袋を出し、装着して倒れるトウキに触れた。
すると突然消失したようにトウキは姿を消す。
「よし……」
一息ついたその時――ドゴォン!と音が鳴り響き、周囲が震えるように揺れる。
「近い」
地震とは違う。人がぶつかり合う――そんな衝撃音だ。
◇
キイィィという音を立てながら扉が開いていく。
冷気が漏れ出て少しひんやり冷たい空気がクラネとフキをゾッとさせる。
何に使われているかわからない動線が数多くのあり、ガラスでできた器具が撒き散らされている。
広大な空間が広がり、天井は40m程と高い。
そして、カプセルのようなものに入っているラスカの姿があった。そしてその前に立つ二人の男性。
白衣を見に纏い、いかにも研究者を想像させる身なりだ。
「もうここまできたのか……」
一人の男性が口を開く。声が聞こえた瞬間二人は身構え、警戒する。
「まあ、待て。時期にこいつのメンテナンスが終わる」
もう一人の男性も口を開く。その声は低く不気味沙を感じる。
「名乗っておこう。俺はレーベ」
「ルインだ」
灰色の髪と瞳に、研究者とは思えないがっちりした体つきをしたレーベ。
藍色の髪に黒い瞳。背はあまり高くなく、覇気を感じない無機質な雰囲気のルイン。
「残党が来ることは予想していたが、早かったな」
「なあ。お前らはなんでこんなことをするんだ?」
フキは聞く。
「何でって、この国の王との契約だ。俺たちは研究が好きだ。特に魔力に関わることはな」
「だけど、流石に非人道的すぎる。けどね、王様は目的の為なら何をしてもいいと言ってくれた」
レーベとルインは交互に話す。
「だから、俺たちはなんでもする。ミューストンのじじいは、甘いから否定的な意見も言ってきたけど。俺たちからしたらここは最高の環境ってわけだ」
レーベは楽しそうに話す。もはや研究のこと以外頭にない。だからこのような所業に手を染めることができる。
だがそれは、これまでの話だ。
話している間に、ラスカの目が開く。
「お、終わったか」
「研究所を破壊したいならこいつをなんとかしてみろよ」
「傷は治ったけど、声のコントロールは戻っていない……」
ラスカの精神を支配し、メルベリアに送り込んだが、マヤセとの戦闘で制声が外れ話せるようになっていた。
「フキ、距離をとって」
クラネは既に戦闘態勢に入っている。
カプセルが開き、ラスカが出てくる。
「こいつらの始末を頼むぜ」
レーベはそう言ってルインと奥の部屋に身を隠す。
「……」
背を向けて歩いていくレーベ達をラスカは無言で睨みつけている。
「ん?」
その表情を見たクラネは少し不審に思う。
戦闘が長引けば勝率はどんどん下がる。
初めから全開で決めにいく。そうでないと一瞬で殺される。そんな圧をラスカは垂れ流している。
「全力でかかれば数十分は拮抗できるかもだけど……期待はしないでね」
クラネはフキに一声かけ、ラスカの前に立つ。
そんなクラネの声を聞いたフキは、息を飲み、後ろへ下がる。
「……行くぞ」
ラスカの小さな呟きと共に、瞬時に生成された氷剣が振り下ろされた。




