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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第一部 魔法編 3章:研究所
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48話:追跡者

 「追うぞ!」

 地下へ落下したセナの心配をして星一は声を上げる。その声からは焦りと怒りが混じっていた。


 その声に一同はついて行こうとするが、全員で行くわけにはいかない。


 なぜなら、既に人々を解放し始めているからだ。


 響は考える。ここでどうメンバーを分けるか。


 星一だけを行かすべきなのか、何人かで行くべきなのか。的確に判断ができず、顔に汗を浮かべながら考えていたその時――


 「あいつなら大丈夫です」


 フキの掛け声が皆んなの思考をクリアにする。迷いが混濁したこの場において、フキの確定的なその声は、誰もが賛成したいと思わせる力があった。


 「セナ自身も大丈夫だと言ってたし」


 「ああ。俺たちは目の前のことをやろう」


 響はフキに救われ、内心感謝している。星一とエレサは囚われている人たちの解放を続けるが、心配の表情は残る。


 「クラネ。そしてフキ、二人は試行トライアル区を目指してくれ」


 「了解」


 クラネはそう言って先に進む。フキも頷いてクラネの後を追う。


 響は解放し終えた後のことを考え、人員の配置をどうするか、答えを出す。


 「いつここが襲われるかわからない。センリは出口を確保してくれ。僕は先頭で星一君とエレサはその間に立って続けてくれ」


 返事はしない。三人ともわかっていると言っているように行動に表す。


         ◇


 先に進んだフキ達は連なるガラス張りの部屋を抜け、入り組んだ機械が視界に広がる。これが一体何に使われているのか見当もつかない。だが、これだけはわかる。


 ――気色悪い。


 一歩一歩進んで行くたびに、クラネの鼓動は早くなっていく。


 それもそのはずだ。


 今からとんでもないバケモノと戦うのだから。勝てる保証はない。もしかしたら死ぬかもしれない。


 そんなことを考えながら、深く一歩を踏みしめる。


 その緊張感はフキにも伝わる。二人は会話をせず、ただただ進んで行く。

 

 一直線に進んできた二人は突き当たりを右に進む。


 さらに奥へ行くと一つのドアが見えてくる。厳重なロックがあり、分厚い鉄で作られた大きな扉。


 ロックが付いているが全て外れている。私たちが来るのを待っているのか、誘い出しているのか。


 ただこれだけはわかる。いるのだ。


 この扉の奥に――


 恐ろしい。怖い。そんな感情になったのは——これが初めてだった。


 「開けるよ」


 扉に手を立て、フキにそう言う。


 ゴクリ。そう息を飲み返事をする。


 「ああ」


         ◇


 「あいたたた……」

 落下したセナはしりもちをつきながら、服についた埃を手で払う。


 周囲は岩が数多く点在している。気温は低く、息を吐けば白い煙が出る。天井には今にも落ちてきそうな氷柱が何本もある。


 そんな神秘的な空間に一人、異質な空気が迷い込む。


 「まるで鍾乳洞みたい……」


 「おい!」


 周囲を探索していたところにでかい声が響く。


 「あなたが、私を落としたんですか?」


 後方を見ると、そこには少年が立っていた。


 短い黄色い髪、鋭い翡翠色の瞳に、黒い服。


 そして――揺らいでいる魔力。


 「あなた、シカバネですか?」

 感じ取った魔力に乱れを感じる。本来の使い手ではそんなことは起こり得ない。


 だが体を乗っ取り、バネとその人の魔力が合わさったことで、不自然な魔力を感じさせた。


 「なんだ、そんなのもわかるのか……」

 

 「俺はトウキ。お前の言う通りの存在だ」

 高い岩に立ち、見下ろしながら名を名乗る。


 「あなたが、助言したんですか?」

 

 いきなり核心に迫る。戦争を引き起こした張本人であるか否かを。


 「戦争のことか? なら答えはイェスだ。だけど、俺は魔術師じゃない。この辺の奴らの体を奪っても使えるのは魔法だ」


 魔術大陸の人間でなければ、魔術を発現させることはできない。空気に含まれる濃い魔力を吸って生活してきたここの人間にはどうやっても魔法しか使えなかった。


 「なら、私が目的ってことで間違いないね?」


 「その通りだ。フードに仮面、長いマント、連絡通りの外見。お前で間違いない。まさか、エレメントマス――」


 言葉の続きを待たず、何もない空間から純白の剣が生まれ、セナの右手に収まる。


 「どこでそのことを!」


 一瞬で距離を詰めて斬りかかるが、トウキの足場から岩が湧き出し、斬撃が止められる。


 岩魔法。それも相当な練度の。


 「なぁに、かまかけただけだ。でもその反応――まさか本当にそうだとはな。よく生きてたもんだ」


 まんまとしてやられた。焦りと動揺は人の思考を狭める。そんなことはわかっていたはずなのに治らないもんだ。

 

 「ふぅー」

 深く深呼吸をし、画面の隙間から白く呼吸が散る。鋭い眼光でトウキを見つめる。みなぎる圧が仮面をしていても分かるほどに。


 「あなたはここで絶対に倒す」


 「やってみろよ」


 この会話の中で今になって異変に気づく。トウキは足から魔力を分散させ、周囲の岩に纏うように広がっている。


 魔法は本来自分の魔力を変換させ発生させる。だがこの場合、周囲の岩に纏った魔力を操作することでこの鍾乳洞全ての岩を操ることを可能にした。


 「……」

 セナは無言で観察する。自分のアホとも思うが、負ける気はさらさら無い。


 その時、囲まれている岩達が一斉にセナに向かって突起する。


 身体をかろうじて逃すが、回避できない岩は右手で持った剣で受け流す。


 完全に切ることはできないほど硬かった。


 ここの岩とトウキの魔力が合わさり、この硬度を誇ることができる。


 「っ!?」

 その場を離れるが、視界に広がる無限の岩達が何度でも追ってくる。


 次第に受け切る余裕もなくなり、空中に飛んだ瞬間、四方八方囲まれていた。


 そして、セナは岩に埋め尽くされるように潰され、宙には松ぼっくりのような岩の形で止まっている。


 「案外呆気なかったな」

 相当な手誰だと踏んでいたトウキはすぐに片付いてしまったことにため息をつきながら落胆する。

 

 セナの遺体を回収するために岩を退け、歩きながら近づく。


 すると――そこには何個もの盾にうずくまっているセナの姿があった。


 だが、相当なダメージを負った様子である。ピクピクと身体を震わせている。仮面は砕け、その見せそうで見えない顔から血が流れ出る。


 「どっからそんな盾を――」

 盾もそうだが、思い返せば初めに手に持っていた剣はどこから出てきたんだ。


 それがあいつの魔術なんだろう。


 だが、それを解明することは不可能に近いことだ。

 

 「ごぼっ! 痛いなお前」

 血を吐きながら怒っている様子で睨みつける。いつもの丁寧な言葉遣いをしているセナはそこには居なかった。


 魔力を練り上げ、だんだんと大きくなっていく。


 そして――赤くなる。

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