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ダブルワールド  作者: 東城陽一
3章:研究所
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47話:侵入

 星一達はエルヘイムに入り、中心に聳え立つ塔に向かって歩く。


 地下で悍ましい研究がされていることなど微塵も感じさせないほどに大勢の国民が笑顔で街を出歩いている。


 歩いていく中で、肉を焼いている音、子供達の明るい声、整備が行き届いた建造物、これらを目にした星一達は豊かで平和としか感じなかった。


 敗戦した国とは思えないほどに。


 塔の近くまで来ると、さらに通行人達は増加し、店通りも多くなる。まるで塔に集まっていっているように見える。


 塔内に入るとそこは5本の柱があり、教会のように人々が祈りを捧げている。


 エリュシオン。それがこの塔の名前である。500年前の英雄、エレメントマスター達に感謝する場所として建てられた。


 そして――魔術師を呪う場でもある。


 「俺やばくない?」

 星一は顔を伏せながらエレサに耳打ちする。


 「大丈夫ですよ。戦争の映像はエルヘイムでは、王城以外は見れないようになっていましたから」


 それを聞いて心底安心した様子で息を吐く。


 大陸全土に放映していたエルヘイムが自国では王城のみでしか放映されていないのは不思議である。


 「何で王城だけだったんだ?」


 「エリュシオンに限らず、エルヘイムは魔術師を嫌う人が集まりやすいところです。あの戦争でエルヘイムに助言した魔術師の存在を明かしても良いって言われていたので、その事を隠すためだと思います」


 「なるほど」


 エレサは5本の柱の裏側に行く。皆もついていくがそこには何もない。ただ暗い空間があるだけだった。


 塔に入ってくる人たちもそこには灯りが届きにくいため近寄ってこない。


 真ん中の柱の真後ろに位置する壁の真下をエレサは踏む。


 すると踏んだ箇所だけが凹み、だんだんと降りられる階段に変形していく。


 「こんな場所が……」

 右手の親指と人差し指を顎に当てながら響は深く覗き込む。


 灯りが全く届かず。灯す道具を持っていないと階段とすら認識できないほどに、この場所は研究所を隠すには最適であった。


 「行きましょう」

 エレサは右手を人差し指を立てて雷を少し放出し、光を照らす。


 「俺が先頭を行こう」

 センリは自ら名乗り出る。


 「それがいい」

 響もそれに賛成する。


 「センリはとても耳がいいから何かあれば早めに察知できるかもしれない」


 センリの耳を頼りに階段を進み、しばらく暗闇の空間が続く。階段を降りていく足音だけがひたすらに響き、その音が不安を煽るかのように。


 「降りきったな」

 段差が無くなり、センリ後ろに声をかける。

 少し先に薄く光っているのが見える。


 そして星一達はある空間にたどり着く。


 その空間は薄い緑がかった照明に照らされ、気味が悪く、空気も澱んだ空間であった。


 そして、その光景を見た星一達は、絶句する。


 ガラス張りの部屋とも言えるが、ほぼ独房に近いその部屋が何個も連なっており、その中には苦しそうにうずくまっている人が何人もいた。


 「……」


 「……」


 「……」


 本当に誰も声が出なかった。このことを知っていたエレサでさえ、顔色が悪い。


 「進んでください」

 エレサはセンリそう言って先に進む。観察する中で分かったことがある。部屋に入っている人の年齢層は子供から老人まで幅広い。


 「部屋の上にポンプのようなものがあります。あれが体内の魔力を吸い続けるものです……」


 エレサは渋い声でみんなに説明する。


 その説明に皆はいちいち反応しなかった。吸い上げた魔力が何に使われているのか、当てることはできないが、嫌な想像が脳内を侵食する。


 「止まれ」

 前方から足跡が聞こえ、センリは立ち止まって右手を横に出し、後ろに知らせる。


 目の前には一人の老人が立っていた。白衣を身に纏い、穏やかな目、白髪、薄茶色のズボンをした、優しそうな外見をしている。


 「先生!?」

 エレサは目の前の老人を見た瞬間驚いた声を出す。


 「エレサっ!? 無事だったのか!?」

 エレサ以外の皆は予想外の展開に頭を悩ませる。


 その老人の側まで行き、エレサは皆んなに説明する。


 「この人は、私の主治医です」

 そんな説明で全てが通じる訳もなく、多くの質問が思いつくが、長居するわけにもいかない。


 響は大事なことだけ聞く。


 「その人は、信用できるの?」


 「はい。私に唯一優しくしてくれた、そんなひとです」


 「君たちがここに来た理由もだいたい予想がつく。信用してくれとは言わないが今は矛を納めてほしい」

 その言葉に偽りはないが、罪悪感のこもった声が星一達を煽る。


 「わかりました。では、この場所を破壊しても文句はないですね?」


 「無論だ。こんな場所はない方がいいと、わしも思っている」

 

 「わしはミューストン、医者兼研究者じゃ」


 ミューストンは名乗るがそれに対し、星一達は何も言わない。それは、善人だったとしても研究に加担しているからである。


 「研究所の構図を教えてください」

 響は目的のためにやることだけを優先するため、研究所の把握を急ぐ。

 

 「わかった。この研究所は、大きく3つに分かれている。全てのシステムを操る支配コントロール区、実験を主にする試行トライアル区、対象を観察する監視ベイランス区」


 「今いるのが、監視ベイランス区じゃ」


 「その3区を壊せば建て直すことは無理ってことですよね?」

 

 破壊のために最速の選択を取ろうとしている響の計画性が光り、星一達は怖しいとも思う。


 「その通りじゃ。じゃが、支配コントロール区だけは破壊しないでほしい」


 「なぜです?」


 「あそこには自爆装置がある。エルヘイムの、国そのものを吹っ飛ばす自爆装置が……」


 なぜそんなものがあるのか、星一達は、考えもつかない。自衛のためなのか、この場所の存在を隠すためなのか、真相は聞かなかった。


 「……わかりました。では、そこを除いて破壊します」


 「うむ……エレサ、少し変わったか?」

 今一目見た時になぜかそう感じた。


 「そうですか?」

 自覚はなかった。だが、間違いなくエレサは以前より話すようになり、表情も豊かになった。


 「そうか……では、わしは避難する。わし以外の研究者はイカれている。気をつけるんじゃぞ」

 そう言って塔の出口の方へ歩いていく。


 「まずは、部屋の人たちを解放しよう」

 響は皆に指示する。そうして、中に入っている人に当たらないようにガラスを壊して部屋を開けていく。


 「っ!? セナ!!」

 センリは地面から軋む音が聞こえ、いきなり声を上げる。


 するとセナの立っていた場所が崩れ落ち、セナはさらに地下へと落ちていく。


 「問題ないですーー!!」


 そう言い残し、深く落下していった。

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