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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第一部 魔法編 3章:研究所
45/60

45話:休息

 話し合いが終わり、皆は森の家で休息を取ることになった。


 一部屋三人ほどが寝ることができるスペースはある。2日後に備えて各々体を休める。 


 そんな中、気が緩み始めた頃、星一はマヤセの亡骸の前に立つ。


 「フランが起きたら、ちゃんと弔いをしよう」


 そう言って、星一はマヤセを抱き抱えて森の家まで連れて行く。


 気を失ったフランを抱き抱えてフキも星一の隣に立つ。


 「マヤセはこうなったことを後悔せず、満足していたよ……」


 「……そうか」


 その言葉のトーンと表情からは星一の感情を理解することは難しかった。


 だが、これだけはフキにもわかる。


 涙を我慢している。


 無機質な表情の裏には辛い、悲しいといった感情は必ずあった。


 星一はそれを表に出さず、静かに押し殺している。


 「星一……俺は泣いたっていいと思うんだ」

 マヤセが死んで悲しい。それはここにいる全員が思っていた。


 悲しい、辛いという感情は蓄積され積み重なる。それで自分の心の器を満たしてはいけない。


 もしその器から(あふ)れることがあれば立ち直ることは一人ではできないだろう。


 だからこそ悲しい、辛いという感情を自分で流すことで保つことができる。


 その為に人は、涙を流す。


 自分で泣くことができないのなら、誰かを頼ればいい。一人で抱え込むことが一番自分を追い詰める行為だということわかって欲しい。


 そんなことは星一自身が一番知っている。


 だが、これまでの環境がそれを許さなかった。


 「俺たちは、今隣に居る奴が明日には居なくなってるかもしれない。そんな生活を続けてた。だから仲間が死んだくらいでいちいち泣いていられない」


 この考えが星一には染み付いていた。


 「星一がそう言うなら、いいんだ……」

 あえて自分の意見は言わずにフキは、その考えを否定しなかった。


 それは、フキ自信が魔術師の世界を知らないからである。


 そして、一同は森の家に到着し、セナは響達に中の案内をした。


 部屋は3つ。セナとピリィはソファで寝ることにし、2階はフキと星一、センリと響、クラネとエレサ、そしてフランのペアで部屋を使うことになった。


 先にフランを抱えてエレサが部屋に向かう。


 マヤセは二つあるソファーの一つに寝かせる。


 「あの!」

 部屋を振り分けて、皆が階段を上がり、部屋に向かおうとした時、セナはクラネに話しかける。


 「はい?」


 「クラネさんにはお姉さんはいますか?」


 唐突な質問である。


 セナの隣にいるピリィもひりついた顔で見つめていた。


 「……ごめんなさい。昔のことはよく覚えていないんです」


 「そう、ですか……」

 両手でをグーにしていた拳が解かれ力が抜ける。


 「じゃあ、苗字は!?」

 ピリィは名前はわかるだろうと、再度質問する。


 「そうです! 苗字!」

 それだ。という感じで再びセナに力が入る。

 

 「苗字……ですか?ストレイジです」


 「っ!?」

 セナは苗字を聞いた瞬間身体中が震え、深く息を漏らしながら跪き、クラネの両手を握りしめる。


 「やっぱり……会えて良かった……」

 そんなセナの姿を見てピリィは目に涙を浮かべる。


 「んー? どうかしたんですか?」

 なんのことかさっぱりわからなかったクラネは首を傾げる。


 「いえ、ただ嬉しいんです!」


 「そうですか? 話は他にも?」


 「いえ、名前が聞けて満足です」


 セナは立ち上がって、そう告げる。


 「それじゃあ部屋に行きます」

 そう言ってクラネは階段を上がる。


 「あとは……」

 クラネが上がっていったのを確認し、ソファーに腰掛けて呟く。


 「ピリィ。センリさんを呼んできて欲しい」


 「え? クラネだけじゃなかったの?」


 ピリィはある程度セナの事情を知っているが、センリとの関係性については知らなかった。


 「話しておきたいことがあるの」

 仮面をつけた外見からはセナの考えを読み取ることはできない。だが、その声はあまりにも重く聞こえた。


 「……わかった」

 そう言ってピリィは階段を上がり、響とセンリの部屋に行く。


 その間セナは胸に手を当て、深く深呼吸をする。


 「何かようか?」

 階段を少し降りて、1階を覗き込むようにセンリは言う。


 「はい。話があります」


 「……」

 返事はしない。セナの重い声を聞き、何かを察したのか階段を降りて、話を聞く姿勢をとる。


 そして、セナはゆっくりと付けているフードと仮面を外す。


 「私が、分かりますか?」


 「っ!? なんでお前が!?」


 口が裂ける勢いで驚き、目の前の光景が信じられなかった。


 「いや、おかしいだろ! お前人間だろ!」


 「……これまでのことを話します」


 こうして、セナは包み隠さず全てを話した。


 「そうゆうことか……」

 センリは全てを理解し、緊張を解く。


 「あの時は敵だったかもしれないが、今はお前に協力しよう。コニスとサアサにも伝えておく」


 「ありがとうございます!!」

 誠心誠意感謝を伝えるセナだったが、緊張していたのか手が震えていた。

 

 「今日はもう休みましょう」


 「ああ、そうさせてもらう。後また会えて嬉しかった」


 その言葉を聞いたセナは口元に笑みを浮かべ、再び仮面とフードをつけるのだった。


 2階の一番右にある部屋からは明日の対策の声が聞こえてくる。


 「俺は、ラスカ相手にどう立ち回るべきだと思う?」

 不安そうな顔をしながら、星一に助言を求める。


 「どうって? 近接戦は多分クラネがやってくれるから、フキは邪魔しない程度に援護だろ」

 何当たり前のこと聞いてんだよ。みたいな顔で星一は返す。


 「そうわかっていても、やれるかどうか不安なんだ」


 ベットに腰掛けながら俯き、拳を震わせている。


 「不安な話をするなら、クラネの立場になって考えてみろよ」


 そう言われたフキは少し考える。


 「……クラネの方が不安なはずだ」


 「だろ? 不安なんて誰しもが抱きやすい感情なんだから、深く考えすぎても良くない」


 「うん……」

 星一との話でフキの顔が晴れることはなかった。


 「じゃあ、これ持っときな」


 そう言って、星一は手錠を渡す。


 「これって?」


 「魔力を封じることができる道具らしい」


 以前に星一が付けた魔封鎖という魔道具を念の為捨てずに取っておいたのだった。


 「使えるからわからないけど、無いよりマシだと思うぜ」


 「あぁ、ありがとう」


 この時フキの表情が少し柔らかくなる。


 こんな自分のために考えてくれた星一のことを自分にはもったいないとも感じた。


 「もう寝ろよー」


 布団を被った星一は寝ようとする。


 不安は残る。だが、やると決めたフキは横になりながら深く目を瞑り、明日を待つのだった。

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