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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第一部 魔法編 3章:研究所
43/59

43話:託される蛍火

 ラストマジック。文字通り自分にとって最終奥義である技を構える。


 この技はおそらく、周囲にも甚大な被害をもたらす。


 メルベリアの民がまだ地下シェルターでの生活を続けていることがマヤセにとっては好都合だった。


 左手は挙がらないが正面にかざし、右手に風剣を持って突きの体勢をとる。


 全魔力を右手に集中させ、周囲は目の壁のように凄まじい風が吹き荒れる。


 ラスカとマヤセ、二人が立つこの場所が台風の目のように隔絶された穏やかな領域がそこにはあった。


 美しい髪を靡かせながら、ラスカは身体の防御を固め、氷を纏いながら、マヤセを見つめる。


 マヤセはいつでも撃てる準備はできていた。だが、一瞬深く目を閉じてしまった。


 その瞬間、今までのラスカとの思い出が脳内の隅々に広がる。


 目の前にいるのはそんな思い出とはかけ離れたラスカの姿であった。


 「取り戻すんだ!!」

 目を開け、みなぎる眼差しで見つめたマヤセの目は一寸の迷いもなかった。あらゆる思いをこの一撃に込める。


 「ウインゲチェスタァァーー!!!」


 赤みがかった旋風の中に一筋の光のような剣が差し込み、一直線にラスカを埋め尽くし、国を超えて水平線の彼方まで旋風が飛んでいく。


 「はぁ、はぁ、、はぁ……うぐっ!!」


 魔法を放ったマヤセは目や鼻、口から血を流す。


 バキバキとすり潰されたような、決して身体から聞こえてはいけない音が身体中を奏でる。


 立っていることすらもうしたくないほど、マヤセは限界である。血は止まらず流れる速度はさらに増す。


 だが、結果を見るまでは倒れるわけにはいかない。そこには強い意志があった。


 土煙の中から人影がだんだんと見えてくる。


 氷の鎧は砕け、初めて生身の姿を見せるラスカだった。


 「ごぼっ!!」


 口から血を吐き散らし、息を切らすもた倒れることはなかった。


 「あの攻撃でも、倒れてくれないか……」

 満身創痍のマヤセはそう思う。


 ラスカは攻撃を受ける直前に氷で足と地面をくっつけて、飛ばされないようにしていた。


 ラスカは一歩前に出て、何かを言おうとする。


 「――流石は」


 「えっ?」

 マヤセはあの言葉が脳裏をよぎる。彼女にとっては呪いの言葉とも言えるあの言葉を。


 「――流石は、マヤちゃんだね……」

 ラスカは優しく微笑みながら言う。


 「今日は……もう退くよ」

 そう言ってラスカはその場を去る。


 マヤセはラスカの言葉を聴いて、満足そうに笑いながら、仰向けに倒れた。


 「はぁ、はぁ、これは……ダメかもな……」

 身体がもう動かない。血も大量に流しすぎている今、自分の運命を悟る。


 「マヤぁぁ!!」


 飛ばされたフランはフキに回収された後、こちらへ向かってきていた。


 フラン達はマヤセの側までいき、その姿に絶句する。


 「マ、ヤ?」

 

 「フキさん! 今すぐ回復できる人を連れてきて!!」

 フランは今まで見せたことがない表情で焦っている。


 「これは、もう……」

 フキにもわかるほどにマヤセの損傷は激しかった。

 

 「「……」」


 ピリィは険しい顔で察している。セナは無言で見守っていた。

 

 ここでマヤセから魔力が感じないことにフキは気づく。


 「まさか!」

 ここで星一の言葉を思い出す。


 『極式は限界を超えた力を使える。ただ注意点がある。限界を超えた力は、身体がついていかずに自滅するんだ。だけど赤い魔力を纏うことで補強されて、身体が壊れるのを防いでくれるんだ』


 極式を発動させたマヤセは最後の技で、身体に纏う魔力すら残らずに身体が崩壊していっているとフキは思った。


「みんなが呼んでくれないなら! 私が行く!!」


膝をついてマヤセを見ていたフランは立ちあがろうとするが、なんとか動く右手でフランを止める。

 

 「フ、ラン……ありがとう。け、ど大丈夫だよ」

 声を振り絞り、マヤセは話を始める。


 「何言ってんの!?」

 フランはもう涙が止まらなかった。心の底ではわかっていたのだ。もう手遅れなのだと。


 「聴いて……フラン」

 マヤセは右手でフランの頬を触る。

 

 「私……はね、後悔、してないの……」

 泣きながらマヤセを手を握り、話を聴く。


 「自分の……ために戦うことができたから……。フラン……約束して……ほしい。どうか……憎しみを、持たないでほしい。それは、私が……一番、見たくないものだから」


 「ごばっ!」

 マヤセは咳と共にさらに血を吐く。


 「いやぁ! いやだよ! こんなの!! 私は! マヤに憧れて、いつかマヤの隣に立つって!!」


 「そう、思って……もらえて、ほんとにうれしいよ……」


 だんだんとマヤセの瞳から光が消え始める。

 

 「フランは、きっと……強くなる。だから……諦めちゃ、だめだよ……」


 いつか、フランがマヤセに辿り着き、共に並んでただ書く姿がマヤセの中で想像できた。


 そんな幻想が現実になればいいのに。そう思いながら、涙が溢れる。


 もうほとんど見えていない目でフキを見る。


 フキも涙を流し、マヤセを見つめる。


 そして再びフランを見つめて声を振り絞る。


 「いつか、成長した……姿を、見せて……ね」

 右手で触れていたマヤセの手が離れて落ちる。


 静かに目を閉じ、満足したように笑っていた。


 「じゃあね……私の、親友……」

 火が消える寸前、最後の言葉を呟くが、声には出ていなかった。


 「マ、ヤ? ねぇ! ちょっと! マヤ!!」


 フランは泣きながらマヤセの身体を揺さぶるが目を開けることは二度となかった。



 「あ、ああ……あああぁぁぁぁ!!!!!!」


 メルベリア中にフランの叫び声が響き渡る。


 そして、フランの身体が魔力が無意識に垂れ流され、その魔力がだんだんと、燃えるように熱くなっていく。


 「なんだ!?」

 フキ達は、フランの魔力の変化に驚愕する。


 その魔力は広がっていき、次第に炎へと変化していく。


 こうして、フランは最悪の形で魔法に目覚めたのだった。

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