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ダブルワールド  作者: 東城陽一
3章:研究所
41/54

41話:面影

 しんとした空気の中、二人の少女は対峙する。


 マヤセは険しい顔でラスカを見つめた。


 今までとは全くの別人。そうとしか感じられない。


 「ラスカ……さん……。何があったんですか?」


 誰よりも優しかったラスカの行動をマヤセは信じたくなかった。


 「……」

 ラスカは無言でマヤセを見て、氷剣を生成する。


 「くッ……」

 話し合いもできない。そう思ったマヤセの悲しみは増大した。


 「あなたがその気なら、私も全力でいきます」

 マヤセはラスカをメルベリアの敵と判断し、風魔法が身体中を吹き荒れながら覚悟を決める。


 ラスカが足を一歩踏み出した瞬間、疾風の如くマヤセは姿を消す。


 一瞬にしてラスカの背後に回り、足に風を纏い肩に踵を蹴りおろす。


 「硬い!」


 ラスカは氷化してマヤセ攻撃を防御する。接触した肩からマヤセの足が凍りついていく。


 「っ!?」


 すぐに足を離し、距離を取る。


 「クソッ……」


 右足が少し凍りついて動かすことができなくなる。


 だが、右足に激しい風を集中させて足に付いている氷を全て吹っ飛ばす。


 それを見たラスカは驚いたのか眉が少し動く。


 「長く触れると一瞬でやられる……」


 接近戦は部が悪すぎると思うが、遠距離で攻撃したところで氷を纏ったラスカには通用しない。


 「ふぅー」

 マヤセは目を閉じて深く息を吐く。


 『マヤちゃん』

 大好きだったラスカの姿を思い出す。


 そんなラスカと戦うことは心底考えられない。しかし、こちらが殺す気でいかないと止めることはできない。


 マヤセは右手に風を集中させて、風の剣を作り出した。触れずに決定打を与えるにはこれしかないと考える。


 「あなたから教わったんですよ……」

 ラスカから教えてもらった魔法で剣を作り出す術を見せつけ、様子を伺う。


 だが、ラスカは微動だにしない。


 互いに構えて、見つめ合う。


 ラスカが瞬きをして目を開けた瞬間、そこには振り下ろされた風剣しか写っていなかった。


 「!?」

 左肩に直撃すると思い、氷化してガードする。だが、風剣の出力が氷の硬度を上回り、肩から斜めにぶった斬られる。


 勢いよく血が噴き出る。声を漏らすことはないが想定外の表情を見せた。


 ラスカは一歩後退して踏み込んだ瞬間、足から何本もの氷柱を出現させ、目の前が白い世界で広がる。


 ラスカの魔法の放出スピードは桁違いだが、マヤセのスピードはそれを上回り、空へ回避できた。


 「なんて魔力……」

 空に浮かぶマヤセは、桁違いの魔力量に驚愕しながら近くの建物の上に降りる。


 風剣を喰らったラスカはその傷を凍らせて、流血を止めた。


 「そんなことも……」

  渾身の一撃があまり効いていないことに初めて絶望感を覚える。

 

 「なあ、あれって……」


 強大な魔力を感じて様子を見に来たフキ達が到着する。


 「うん。マヤセと戦ってるの、この国の王女だ」

 三人は到底信じられなかった。決死の覚悟でこの国を守るために戦ったラスカが、今この国を滅ぼそうとしていることに。


 「まさか……だから居なかったっていうの」

 セナは震えながら心の中で呟く。


 「加勢しよう」

 フキは遠目で戦闘を見つめながら、恐怖の混じった顔で二人に提案するが、魔力を感じ取れるようになった今だからわかる。


 ラスカは星一やエレサと比べても桁違いの強さだということを。


 その言葉を聞いた二人は即答できずに曇った顔で俯く。


 「いえ、今加勢するのは辞めましょう」

 セナは冷静に告げる。


 「私たちはまだラスカさんの戦法を見てません。無闇に突っ込んでも返り討ちにされるだけです」


 「……」


 セナの言い分にフキは返す言葉もない。


 だが、セナにとっては戦わないための言い訳でしかなかった。例え、ラスカの戦法を知っていたとしても、三人とも瞬殺されると感じるほどに驚異的な強さは想像できる。

 

 「私が極式に至れば、もしかしたら……」

 そんな淡い希望を抱くだが、極式に至る前に殺されるだろう。


 「けど、マヤセはどうするの?」

 ピリィは心配した顔で二人の服を引っ張りながら言う。

 

 「彼女も覚悟の上であそこに立っているのでしょう」


 「見てることしかできないのか、俺は……」


 フキは自分の無力さを痛感しながら拳を震わせる。


 そんな時フキはマヤセと目が合う。


 ゆっくりとマヤセは首を横に振る。


 「どう言う意味だ?」

 フキにはマヤセの仕草に何の意味があるのかわからなかった。


 「手は出すな。と言っているのではないでしょうか?」

 

 「なんで!?」

 ピリィにもマヤセが勝ち目がないことはわかっていた。


 「わかりません。何か考えがあるのか……」

 マヤセ自身のただのわがままの可能性もある。


 「見守ろう……」

 フキは二人にそう言ってマヤセと再び目を合わせて頷く。


 「ありがとうございます」

 マヤセは心の中で感謝する。

 

 そしてラスカを見下ろし、風剣を構える。


 流血を止めたを氷の部分を見たマヤセはこう思った。


 「血が止まっているだけで、傷が癒える訳じゃないのか」


 そう思考を巡らせていると、ラスカは一瞬で間合いを詰めて、氷剣を振るった。


 風剣で何とか対応し、その場で撃ち合う。


 凄まじいスピードで繰り広げられる剣撃のやり取りによる衝撃が周囲にも影響を与え、土煙を上げながら建造物が崩落していく。


 「何とかついていけるけど、攻撃できる隙がない」

 マヤセのスピードはラスカの剣技を超えるが、一撃の重さで次の動作が遅れる。


 ピキン。と音を立てて、マヤセの足が凍りつく。


 撃ち合いの中ラスカは足から氷を展開し、地面を白く塗り替えていた。


 「しまったっ!」

 受け切ることに集中していたマヤセの集中は足元まで回っていなかった。


 すぐさま足に風を集中させるが、風剣の出力が落ち、形を保てなくなる。


 その瞬間を逃すはずもなく、ラスカは氷剣でマヤセの左肩を貫く。


 「うっ! ぐっ...」


 痛みで静止すれば死ぬ。マヤセの身体は瞬く間に氷を剥がすことに動き、凍らされる前に後ろに飛んで剣を抜く。


 ラスカは後ろに下がった所へ氷塊を放つ。


 それも何とか、上へ飛ぶことでマヤセは回避する。


 「はぁ……はぁ……」

 左肩から血が流れ落ち、左手を挙げることはもうできないだろう。


 だが、絶対にやらせない。その気持ちだけは消えてはいなかった。


 「私が……止めるんだ!!」

 

 その時マヤセの魔力が湧き出るように身体からみなぎる。


 そして、次第に――赤く染まっていく。


 マヤセは赤い風剣をラスカに突き立て、言い放つ。


 「あなたが守ろうとしたこの国を! 決して壊させはしない!!」

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