39話:最高傑作
星一が王城に向かってから丸2日が経った。
一向に帰ってくる気配がなく、フキ達は心配を募らせる。
「何かあったんじゃないのか?」
家を出てから2日後の昼過ぎ頃にフキ達は何故星一が帰ってこないのか話し合う。
「城で泊まってるんじゃないの?」
ピリィはソファに座り、スナックのようなお菓子を頬張りながら言う。
「それなら……いいんだけどさ……」
「もし、何かアクシデントが発生したとしたら、すぐに逃げる約束をして出ていきましたし、呑気に城に宿泊してる線はまあまあありますよ」
セナはピリィの食べているお菓子を後ろから一つ取り、フキにそう告げた。
「あー! それわちのーー!」
お菓子を取られたピリィは振り向いて手を伸ばす。
「いいじゃない。1個くらい」
その光景を見ているフキは、自分だけ星一を心配のが馬鹿らしくなり、大人しく星一の帰りを待つことにする。
お菓子を食べ終わったピリィは暇になりソファに座りながら天井を眺めている。
ふと視線を右にある棚に向けると何か青い物が目に入り、ピリィは立ち上がって棚まで歩く。
ピリィは青いものを手に取るが、それがなんなのかわからなかった。
折り畳んである機械を手に取りながらフキに聞く。
「これなにー?」
「んぁ? あーそれは星一の物だから変にいじったりするなよー」
フキは一度だけ星一がそれを使っているのを見ているため、知っていた。
そう言われるが、ピリィはフキに見えないように背を向けてその機械を開く。
上の画面の部分が光を放ち、下の部分にはボタンがたくさんついている。
ピリィはどう使う物なのかわからず、すべてのボタンを押して使い方を探った。
するとその機械が振動し始める。
「うぉ!」
ピリィは一瞬驚き、声を上げるが、バレないようにすぐに口を手で抑えた。
そして、その機械から微かに声が聞こえてくる。
「んー?」
ピリィはその機械に耳を近づけて耳を澄ます。
「もしもしこちら海里。何かあったのか!? 星一」
耳を近づけて聞くと思ったより声が大きく聞こえたピリィはびっくりしてその機械を閉じる。
そして、元々置いてあった場所に置いて、キッチンにいるセナのところへ行く。
置かれた青い機械の真ん中に2と刻まれていた数字が1に減る。
フキは外に出て、鍛錬をしようと思いソファから立ち上がった瞬間――メルベリアの方からものすごい音が聞こえ、直後に恐ろしく冷たい風が吹き荒れた。
そして、とんでもない魔力を感じたフキとセナはその場で立ち尽くす。
「なんの音?」
ピリィは頭を傾けながら、2人を行ったり来たりと視線を送った。
「なあ、これって」
フキはセナのところへ行き、確認する。
「……はい。エレサちゃんや星一以上の魔力です」
「……」
フキは額に汗を浮かべながら、メルベリアの方を眺める。
「というか、精王級の魔力……」
セナは心の中で呟く。
「行ってみるか?」
恐る恐るフキは尋ねる。
「……そうですね。何が起きているのか、確認しましょう」
三人は家を出てメルベリアへ向かう。
◇
王城の玉座の間にて王とラヌイとメグリが会話をしている。
「魔術師に協力することになっていたらどうなっていたんでしょうかね?」
星一との問答が終わってからも、ラヌイはそのことが頭から離れない様子でいた。
「私にもわからない。彼の強さは桁違いだった。お前達が二人でかかっても手も足も出ないかもしれないほどに……」
星一のおかげで戦争に勝利することができたことを感謝しているからこそ協力してあげたかった。
だが、あのレベルがゴロゴロいるであろう連中に協力するのが恐ろしい。それが王の本心である。
「それほど強いのですか」
戦争の映像も見ていないメグリは、あの時魔封鎖をしていてくれて本当に良かったと心の底から思った。
「それより今はラスカの捜索が最優先だ」
王の顔つきがいっそう強張る。
「……」
「そうですね」
二人はメルベリアの軸をラスカ一人に任せてしまうことになった件を悔いている。
「フランちゃんはどんな様子ですか?」
メグリは姉が行方不明になりフランの様子を心配する。
「心配はしている。だが、以前のように一人でなんでも抱え込まないようになった気がする」
「彼女の中で何か変化があったのでしょうね」
ラヌイはフランの様子を聞いて、少し嬉しそうだった。
「フランの憧れはラスカとラヌイの二人だ。どうか導いてやってくれ」
フランが剣を持つ理由は、ラスカとラヌイが剣を使うことに憧れたからである。
三人の雑談の中、城の重鎮が慌ただしい様子で部屋のドアを開く。
「王よ! このような紙が!」
重鎮が、何か焦ったような面持ちで一つの紙を持ってきた。その紙は王城の前に落ちていたらしい。
「最高傑作ができた。ぜひみてくれ」
その紙には、その一言だけが綴られていた。
「どう言う意味だ?」
そう言いながらラヌイとメグリの顔を見る。
「いえ、私たちにもさっぱり……」
ラヌイとメグリは一瞬見つめ合うがわからなかった。
――次の瞬間。
メルベリアの海岸からものすごい音が聞こえてくる。
ラヌイとメグリは警戒態勢に入り、窓から海を見渡す。
海岸線の少し先に穴のようなものが見えた。
その穴から霧が立ち、人のような影が一つあった。
「なんだ?」
二人は何かがいる。そう感じるが、よく見えず、さらに深く凝視する。
「海が、凍っていってないか?」
穴から徐々に海が凍っているように見え、霧の中から一人の女性が姿を現す。
そして、氷の剣を作り出し、メルベリア目掛けて剣を振るった。
「王ぉぉーー!」
二人は急いで王に駆け寄る。
氷の斬撃は信じられない衝撃と揺れを引き起こし、メルベリアそのものを切り裂いたと言えるほどに、強力だった。
「何が起こった!?」
王は状況が理解できずにいた。
「凄まじい氷塊がメルベリアを貫きました……」
メグリは、焦燥した様子で告げる。
王は膝から崩れ落ち、放心してしまった。
「くっ!」
ラヌイは再び窓からそいつを睨む。
だんだんと姿がはっきりしたところで、ラヌイは絶句した。
薄青く長い髪で、氷を見に纏った女性。
ラヌイが知る限り、そんな人は一人しかいなかった。
「うそ……だろ……」




