36話:俺たちの敵
冷たい鉄の感触が残る手を見下ろしながら、星一は案内人の後ろを歩いた。
「ここに王が居られる」
「ありがとうございます」
星一とエレサは玉座の間の扉の前に立つ。
星一は深呼吸し、エレサは少し不安そうな顔をしながら、扉を開けて中に入る。
中は広々としており、王は玉座に腰掛け、両隣には魔法師団師団長のラヌイとメグリが立っていた。
星一とエレサは王の目の前まで進み、話しかける。
「話の場を設けていただいてありがとうございます」
「よい。礼を言うのはこちらの方だ。この国を救ってくれてありがとう」
王は星一に少し頭を下げ、深く感謝する。
「しかし、なぜ敵国の兵を連れてきた?」
エレサを連れてきたせいで、二人の師団長は警戒している。
「これからする話を彼女にも聞いて欲しかったからです」
「そうか......なら許そう」
王はエレサの同席を許し、星一の話を聞く準備はできていた。
「魔術師よ、話とは一体どのような内容なのだ?」
今まで軽そうな目をしていた星一はキリッと顔つきを変え、話し始める。
「話の内容は、魔術師の現状です。その話を聞いた上で、俺たちに協力するか否かを決めてもらいたい」
王は真剣な目をしながら清聴する。
「俺は数ヶ月前にこの大陸よりずっと北の大陸から来ました」
「ああ。知っている。こちらではその大陸を魔術大陸と呼んでいる」
「そうですか。ではこれから魔術大陸と呼びます」
「魔術大陸では、ここの人たちと違って魔力を持った人はごく少数です」
「なんと!」
王は目を見開いて驚く。師団長の二人も驚いている面持ちをしている。隣にいたエレサも同様に驚いていた。
「俺がここに来た理由は協力者を探すこと。つまり、魔術師はその数も少なく、かなり人手不足ということです」
「人手不足......協力者を欲しているのはわかった。では一体なんのために人手を増やしたいのだ?」
「俺たちは...ある生物?なのかは分かりませんが、あるものと戦っています」
「......」
「俺たちはそれをバネと呼んでいます」
バネは黒い煙のような見た目で人間の体内に侵入して、肉体を乗っ取ることができる。
「......バネ?」
「そうです。体を乗っ取ったバネは元の体の人格を上書きして自在に操ります」
「そんなことが……」
「体を手に入れたバネを俺たちはシカバネと呼び、日々俺たちはバネとシカバネを相手にしている毎日です」
ここまでの話を聞いている四人は顔に汗を浮かべ嫌なことを想像しているかのように目が曇っていた。
「シカバネは、乗っ取った体の魔力を開花させる力を持ち、特に魔術の素養がある体を手にしたやつは相当厄介です」
星一以外の人は目を大きく揺らしながら、想像を超える内容に言葉が出ない。
「そして...一番厄介なのは...バネは魔力を持たない人には視認することができない...」
それを聞き王は立ち上がる。
「では、魔力を持たない人はどうやってバネから身を守るのだ!?」
「それは......俺たち魔術師が飛び回って防ぐことしか......」
星一は表情を曇らせながら答える。
星一の回答を聞いた王は絶望したかのように再び玉座に尻をつく。
「一体バネとはなんなのか未だにわかっていません。分かってることは奴らは日の出てる時間は現れないということです」
「ということは、そなたら魔術師は毎日夜間にバネから人々を救っているということか?」
「救えていたらいいのですが、溢れた命は数え切れません。それにシカバネは時間関係なく現れます」
「では、いかなる時でも人々を守るために少ない人数の中動き続けていると?」
「......そうです」
「これが...俺たちの現状です......」
星一は暗い顔で話し合える。
◇
王城へ出発した星一を確認したセナはフキを呼び出す。
「なんだよ?改まって」
セナはソファに座るフキの目の前に立ち話し始める。
「フキくんはエルヘイムに助言した魔術師って誰かわかりますか?」
「いや、全然知らなかった」
王子であるフキでも見当もつかなかった。
「星一を捉えることが目的だってことは敵だよな?」
「敵ということは間違いありません。でも、星一さんという魔術師がこの大陸に来ていることは予想外だったと思いますよ」
フキはその言葉を聞いて、あまりピンと来ていなかった。
「ん? どういうことだよ?」
「エルヘイム側が言っていた、メルベリアに潜伏している魔術師は...多分私のことです」
フキはすごい勢いで立ち上がり、セナを見下ろす。
「魔術師!? それは...星一は知っているのか......?」
「......いえ」
二人のいる空間からあらゆる音がなくなったかのように、静寂に包まれる。
「......どうしてそれを......俺に?」
フキは座り、両肘を膝の上に置いて話す。
「私にも、私のことを知っている協力者が必要です」
「......なら星一も」
「それはダメです。今の所頼れるのはフキくんとピリィだけ......」
お前も知ってたのかよ、っていう顔でフキは寝ているピリィに目線を向ける。
「今から全てを話します。信じられないかもしれないけど、全て事実です」
フキはゴクリと息を飲み、無言で話を聞く。
「私の本当の名前は——————」
◇
フキは全てを聞き、魂が抜け落ちたように呆然と座っている。
「そんなことって......」
「どうか信じて欲しい」
フキは両手で顔を覆い考える。
「だから......仮面をしているのか......」
胸の内で呟く。
正直こんな話を聞かされたら、協力する他ない。
「わかった......協力するよ!」
フキはセナの話を信じることにし、協力することを誓う。
「本当!?」
「ああ!」
「本当に......ありがとう......」
仮面の内から涙を流しているのが分かるくらいホッとしている。
◇
星一が話を終えた玉座の間に沈黙が続く。
「この話を聞いた上で、どうか俺たちに協力して欲しい!」
「......」
王は考えている。そしてその決断をどうするのか、師団長の二人は気になる様子で王を横目で見ている。
「よかろう。そなたら魔術師に協力しよう!」
「ほんとですか!?」
星一の表情は一気に明るくなる。
「ただし、条件がある」
その言葉を聞いて星一は息を呑む。
「行方不明の我が娘ラスカを探して欲しい」
「それなら! お安い御用ですよ!」
「それとこっちからももう一つお願いがあります。隣にいるエレサを開放して欲しいです」
そのお願いを聞いた王は顔つきをキリッと変える。
「なぜだ?」
「エレサも一緒に協力してくれることになったんですよ」
王はため息をこぼし、そして告げる。
「そいつはこの国を危機的状況に陥れた人物だ。そんなやつと我らは協力はできん」
メルベリアを恐怖に陥れたエレサと協力することは王にとって絶対にあり得ないことだった。
「なっ!? じゃあどうしろっていうのですか!?」
星一は酷く動揺して、聞き返す。
「そいつは処す。そなたがそれ受け入れれば協力してやろう」
エレサは膝から崩れ落ちる。
「......嫌だ!」
「星一......私は大丈夫です。私がいなくなれば、君の目的が達成される。少しでも希望というものを見せていただきましたし、君のためなら……」
エレサは運命を受け入れ、震える手で星一の指を掴みながら言う。
「いいわけあるか!俺がなんとかして......」
ここで魔封鎖をつけたことを後悔する。
「くそ!」
「やはり魔術師は野蛮で危険な存在か.......」
「うっ!?」
星一とエレサは二人の師団長に頭を掴まれ、地面に押し付けられる。
「どうすれば......!」
星一は本気で焦りながら、考える。
———その瞬間。
玉座の間が暗闇に包まれる。
「なんだ!?」
ラヌイは黒くなる地面を警戒して辺りを見回す。
星一とエレサはその暗闇に飲まれていき、姿を消す。
そしてラヌイとメグリの目の前に白髪の少女が現れる。
「何者だ!?」
「その二人は死なせない」




