35話:再会
星一は森を抜けてメルベリア国内に入る。
崩壊した建物がそこら中にあり、あの日の戦闘を思い出しながら歩く。
魔法師団が瓦礫の撤去など作業をしているが、中には民間人の姿もあった。
変わり果てた街中を進み、往生までたどり着いた星一は門番の人に話しかける。
「王様に呼ばれたんだけど入っていい?」
「少し待て、確認してくる」
門番の人はそう言ってその場を離れる。
少ししてから門番の人は戻ってきて言った。
「まずは礼を言おう。この国を救ってくれて感謝する。」
「別にいいよ」
そっけなく返すが少し嬉しそうな星一だった。
「中に入るにはこれをつけてほしい」
門番の人が手に持っている道具を見せる。
「これは?」
「これは、魔封鎖という魔力を封じる道具だ。なんで?って思うかもしれないが、我々も魔術師を完全に信用できないところがある。だから念のため、これをつけてほしい」
「わかった」
星一は話すだけで魔力を使うつもりもなかったから、魔封鎖をつけることにする。
一言で言うと手錠のような形をしており、両手に魔封鎖をつけて、星一は王城に足を踏み入れた。
門番の人に案内されるがままに進む。
「王の準備がまだ整っておられない。準備ができるまである部屋で待っててもらいたい」
「はーい」
両手を頭の後ろで組みながら返事をする。
城内の階段を降り、地下地下の部屋に案内される。
「いや、ここって」
まさに、牢屋のような薄暗い部屋に案内され、星一は少し動揺する。
「本当にここですか?」
「ああ、すまないがここしか通せないようになっている。だが安心してほしい。君を捉えるわけじゃない。準備が整い次第必ず迎えにくる」
門番の人はそう言って鍵を掛けてその場を後にする。
「大丈夫かな」
星一はそう呟きながら鉄格子をコンコン小突く。
「誰ですか?」
すると薄暗い部屋の奥から声が聞こえる。
「え? 誰かいるのか!?」
星一は急に声が聞こえ、びっくりする。
星一は奥へ進み、部屋の角で三角座りをしている黄色い髪の少年を見つける。
「おまえは!?」
「え?」
そこにいたのは、2日前に殺し合いをした、エルヘイムの雷魔法の使い手だった。
「なんでお前がこんなところにいるんだよ!?」
「わかりません。目が覚めたらここにいました」
「連れて帰ってもらえなかったのかよ」
星一は可哀想だと思ってしまう。
「......はい」
エレサはひどく落ち込んでいる様子だった。顔色も悪く、三角座りで動こうとしない。
「まあ!あの時は敵同士だったけど、俺はお前のこと色々知りたいな!」
薄暗い部屋に光を灯すかのように、星一の声は響く。
「俺は西早星一。お前は?」
「......エレサ・リエルロード」
エレサはボソッと名乗る。
「エレサかぁ。いい名前だ。にしてもエレサはめっちゃ強いな」
星一はエレサの隣に座り話を続ける。
「強いのは、私じゃありません」
下を向いて目を合わせてくれないエレサだが、質問すればなんでも返してくれた。
「私じゃないってのはどういう?」
「私の中には、兄がいます」
「うぇ!? 二重人格ってやつ?」
星一は驚きながらもなんとなく勘付いてはいた。
「はい。黄色い雷の時は私で、青い雷の時は兄が身体を動かしています」
「へ〜だから雷の色が変わってたのか」
エレサ自身は弱いと言う感じで話すがラスカを追い詰めていたのはエレサだった。そんなエレサを星一は充分強いと思っている。
「生まれつき人格が二つあるのか?」
「いや、後天的にそうなりました。」
エレサには、グライという兄がいた。
グライはいつも優しくて、どんな時でもエレサを守ってくれる、妹想いな男だ。
「私はそんなお兄ちゃんが大好きでした」
「......でも」
エレサはここで少し詰まり、下を向いて息を吐く。だが、少し間をおいてから話出す。
「エルヘイムの実験に参加させられることになって全てが変わりました」
エルヘイムの実験というのは、一人が複数の魔法を所持できるかというものであった。
雷魔法を使えるグライを軸に実験は進み、エレサの全魔力をグライの体内に直接注ぐことで、エレサの水魔法を継承できるという内容だった。
「でも兄は、私を庇って自分の魔力を私に注ぐようにしてくれていたのです...」
魔力を持った人間の魔力が0になると死に至る。それを知っていたグライは自分を犠牲にしてエレサを守った。
「兄の魔力が体に流れてから雷魔法がだんだん使えるようになりました」
それと同時にエレサの中でグライの人格が生まれ、今のような状態になる。
「それから私はエルヘイムの戦闘兵器として訓練され、誰にも負けない最強の戦士として育てられたんです......」
今回の戦争で敗北したエレサは国に捨てられたんだと思い込んでいる。
ここまでの話を星一は無言で聞いていた。
「ひでぇな。それ」
その一言しか出なかった。
「でも本当に国に捨てられたのか?」
「使えない道具はもういらないと思われてるかもしれません...」
「エレサは道具じゃないだろ!エレサは...人間だよ...」
「人間.......もう人間らしいことなんか随分してないですね。食事の味もしませんし、最後に笑ったのはいつかもわからないです......」
エレサの精神は壊れる寸前まで追い込まれていた。
兵器として育てられ、生きる意味を失ったエレサを星一は見てるだけなんてことはしたくなかった。
だが、星一はこう思った。自分もこうなっていたかもしれないと。
星一もこれまで戦いの毎日を過ごしてきだが、仲間に恵まれ、映画やゲームのような娯楽も知っている。
過酷な環境ではあるが、楽しかった。星一はそう思っている。
エレサにはそれがなかったのだ。
「なあエレサ。この世には楽しいこともいっぱいあるんだぜ!映画にゲームそして、仲間との会話とかな。映画は特にいい!見せてあげたいよ」
「映画?」
知らない単語にエレサは初めて首を傾けた。
「戦うことだけが人生なんて面白くないだろ!いっぱい遊んだり、仲間とバカ言い合ったりして笑い合うのがすごい楽しいんだ!もう生きる意味はないみたいな顔をやめて、楽しく笑って生きてみないか?」
「楽しく......?」
「ああ!ピンとこないなら俺が教える!だから、俺と来ないか!」
星一はそう言ってエレサの前に拳を出す。
「......私が......笑って生きる?......そんな未来あるのですか?」
エレサは震える声で返す。
「あるに決まってんだろ。だから俺を信じてついてこい!」
そう吐き捨てた星一の言葉でエレサの瞳に光が宿る。
「はい……!少しだけ、楽になりました」
エレサはそう言って、拳を出している星一に、チョンと拳を当てる。
「よし!一緒に映画とか見よう!」
「映画とは?」
「知らないのかよ?」
星一はそう言いながらエレサの胸をポンと叩いた。
「むにゅ?」
星一は慌てて手を離し、顔を真っ赤にして後ずさる。
そして震える声で尋ねる。
「お、お前、もしかして、女の子か!?」
エレサは一瞬ポカンとしたが、すぐにジト目で返す。
「はい。私は初めから女です。男の子だと思っていたのですか?」
星一は顔を両手で覆い、絶叫する。
そんな星一を見てエレサは表情を柔らかくし、少し微笑んでいるように見えた。
すると門番の人が現れる。
「準備が整った。ついてきたまえ」
「あ! はい。エレサも一緒に行っていいですか?」
星一はエレサにも同席してほしかったため、確認を取る。
門番は少し考えるが、すぐに答える。
「いいだろう」
おそらくエレサも魔封鎖をしていることから攻撃してくることはないと考え、了承してくれた。
「行こう!」
「はい」
星一とエレサは牢屋のような部屋を出て玉座の間へ向かうのだった。




