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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第一部 魔法編 2章:エルヘイム
30/56

30話:青雷

 星一は倒れるエレサを見つめ、もう立ち上がることはできないと判断した。


 そして、戦場を見渡す。


 「このままいけば、勝てそうだな.......」

 残りの精鋭はマヤセとピリィが倒してくれると考えた星一は魔獣の大群を懸念する。


 誰かがコントロールしてると思った星一は、おそらく残りの精鋭の誰かが制御してると考え、それならマヤセ達に任せればいいと考えた。


 「じゃあ、魔獣を減らしに行くか......」

 

 星一が動き出そうとした瞬間だった...



 背後から青い何かがバリバリと音を立て、空高く上昇する。


 「なんだ!?」


 星一が振り向いた瞬間、視界には青い拳しか写っていなかった。


 「うっ」

 顔面に拳をもらった星一は雷の如く国の端まで吹っ飛ぶ。


 「何が起きた......?」

 仰向けに倒れ、右手で顔を押さえながら呟く。


 顔を押さえていた右手にはベッタリ血がついている。

 

 立ち上がると、前にはエレサが立っている。


 先ほどとはまるで雰囲気が違うと星一は感じ取り、質問した。


 「誰だ......お前」


 「あまりにやられてるもんだから、交代したんだよ」


 エレサはそう言って青い雷を纏う。


 「青くなってる.......」

 今までは黄色い雷だったのが、青く変化している。


 交代の意味がだんだんとわかってくる。さっきよりも冷静な対応で返すエレサを見て思う。


 「くそ、どうなってんだ……」


 信じられないことだが、人格でも変わったようなエレサを前に、夢でも見てるみたいだ。


 エレサは前髪を上げて言う。


 「次はこっちから行くよ」


 エレサは距離を詰め、拳を振りかざす。


 星一は一瞬で自分の目の前に現れたエレサに反応できず、モロに拳をもらう。


 「くっ」


 自分を重くして飛ばされないように踏ん張り、その場で打ち合う。


 エレサも呼応するように打ち合い、速すぎる猛攻に星一は辛うじて捌いている状況だが、神経を全て注いで防いでるため、魔術の使用で大事なイメージまで思考が行き届かず、エレサに魔術を使う暇がなかった。


 「ほとんど見えない......」

 何度か攻撃を喰らうが、身体を部分的に軽くしたり、重くしたりして飛ばされることを防ぎ、エレサの猛攻に対処するが、それもずっとは続かなかった。


 撃ち合いの末、星一は腹に拳をもらい、高く空に打ち上げられる。


 凄まじいスピードで空を登っていく星一の背後にエレサは追いつく。


 「マジかよ!?」


 「お返しだ」


 エレサは両手で拳を作り、全力で振り下ろし、上空から目にも止まらぬ速さで星一は落下する。


 星一は地面に落ちる前に無重力状態にしようとするが、意識が朦朧として、発動できなかった。


 だが、せめてダメージを軽減するために、顔の前で両手をクロスに重ねて魔力を集中させる。


 これは星一が地面に到達するまでの3秒という時間の中での思考だった。


 そして星一が地面にぶつかる直前、青い稲妻の拳が星一の顔面を捉えている。


 「うそ、だろ......」

 それ以外の言葉が出なかった。


 エレサは落下する星一のスピードを上回るスピードで追い越し、拳を構えていたのだ。


 ガードする隙もなく、星一は直角に曲がり、国を囲む城壁を貫いて海まで吹っ飛ぶ。


 海岸で打ち上げられたように倒れる星一の姿を、画面越しに見ている国中は絶句する。


 「星一さん!?」

 ヒュダと交戦中のマヤセは一瞬集中力を欠く。


 「よそ見する暇はあるのかぁー!」


 そう言ってヒュダは拳に炎を纏い、凄まじい火力で炎を放つ。


 「っ!?」


 マヤセは動揺して業火の中に包まれる。


 「......」

 ヒュダは無言で炎の中を見つめる。決してマヤセを侮ってはおらず、この程度でやられる相手ではないと思っている。

 

 炎の中から影が現れ、風を纏い炎を弾くマヤセが炎中から姿を見せる。


 「お前名前は?」

 ヒュダはただならぬ実力者だと認める。魔法師団でもないただの学園の生徒である彼女に少し興味が湧く。


 「......マヤセ・ヴォルスーン」

 渋そうな顔をしながら答える。


 「ヴォルスーン? そうか、お前が噂のナギの孫か!!」

 少し嬉しそうにヒュダは言う。


 「もう......いいよ、それ」

 マヤセの顔が少し暗くなる。


 名を名乗れば、誰からもナギの孫と言われ、マヤセはうんざりしていた。


 おばあちゃんであるナギが凄いのはわかってる。けれどーー


 「私は私であって、ナギじゃない」


 ナギを知る人は、みんな私にナギを求める。マヤセにはどうしようもできないことだった。どんなことをしようが、ナギの孫だからと正当な評価はもらえない。


 だから、自分という存在をナギとして見る人は嫌いだった。そして、それを受け入れている自分も嫌いだった。


 だが、マヤセをマヤセとして見てくれる人はちゃんといる。


 「マヤちゃん」


 「マヤー!」

 

 「よぉ! マヤセ〜一緒に飯食う?」


 目を瞑りながら、ラスカやフラン、フキや星一を思い浮かべる。


 私は私を見てくれる人が大好きだ。


 あの人たちが、マヤセとして接してくれるだけで私は自分が自分でいていいと思えた。


 だから必死に戦ってるみんなのために、私も戦うんだ。


 「ここからは本気で行くよ」

 マヤセは構えてヒュダに言う。


 「こっちもそのつもりだ」


 マヤセは突進し、風を放つ。


 ヒュダは飛んで回避し、拳に炎を纏わせてマヤセを狙う。


 だが、マヤセは地上から空を蹴るように足を回し、斬撃を放つ。


 「なに!?」


 ヒュダは咄嗟にガードの体制を取るが、斬撃は上半身を斬り、血が吹き出していた。

 

 「ガハッ!」

 地面に着地し、その場で跪く。


 「王族として負けるわけにはいかないんだ!」

 ヒュダは咆哮の如く自分を鼓舞し立ち上がる。


 「戦争を仕掛けてきたあなたの父もあなたも王族じゃない!」

 真剣に見つめて言い放つ。


 私は知っている。本当の王族とは、優しく、気高く、そして諦めない。誰よりも国を思う強い人のことだ。


 それを私の友達とその姉が教えてくれた。


 あの人たちこそが本当に王族と呼べる人たちだ。

 

 「あなたみたいに、自己満足で人を殴ったりするようなことは絶対にしない!」


 「黙れ!」

 ヒュダは言い返す言葉が出てこなかった。


 「俺がお前を倒して、そして戦争に勝ち、国の英雄になるんだぁ!」


 マヤセはため息をこぼし、蔑んだ目で見る。


 ヒュダは斬られた身体を震わせながら、マヤセに突撃する。


 そんなヒュダの姿を見ながら、冷静に待ち構えた。


 「借りますよ......」


 友達のために戦ったフキを思い出す。


 マヤセは魔力を拳に集中させて、風を纏う。


 「風穴!」


 ヒュダの突撃は意味をなさず、土手っ腹に風穴が開いたように、マヤセの拳が直撃する。


 「あっ......」


 ヒュダは微かな声を漏らし、倒れた。


 「そんな考えだと、一生私には勝てないよ」


 マヤセは手についた埃を叩いて告げる。

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