27話:本当の狙い
「次はあの人か......」
4人の中でも一段と異質のオーラを纏い、感情を押し殺したような目がラスカを震わせる。
「......行きます」
そう言ってエレサは、ラスカに突進する。
水の刃を右手で持って斬りかかり、ラスカは氷剣で打ち合う。
「速い......!」
エレサの速さはラスカの想像以上であり、受けきるので精一杯である。
だが、氷剣と接触していくと徐々に水刃は固まっていく。そしてエレサの右手まで凍っていった。
エレサはそこで距離を取るために後ろに引き下がる。
「接近戦は部が悪いですね......」
エレサは、自分の右手を見つめながらそう呟く。
「危なかった......」
打ち合いが続いていれば、やられていたかもしれないと、ラスカは内心思う。
「それなら、こんなのはどうでしょう?」
エレサは左手の親指と人差し指を立て、銃を打つようにラスカに向けて水弾を放つ。
「ぐっ!?」
水弾はラスカの右肩をした。右腕に血が溢れて指先から地面に落ちる。傷を左手で押さえながら、ラスカは膝をついた。
「嘘でしょ......ほとんど見えなかった」
この瞬間ラスカは力の差を明確に痛感する。
肩から溢れ出る血を凍結して止血した。
頭を狙われていたら、終わっていた。
だが、ラスカはそんな相手が目の前にいても、戦意を失うわけにはいかなかった。
身体中に氷を鎧のように身に纏い、水弾の対策をする。
「凄いですね......」
即座に水弾の対抗策を考え、実行したラスカをエレサは称賛する。
ラスカは動く。右足を前に出し、氷塊をエレサに目掛けて、放出する。
エレサは上に飛んで回避するが氷塊はまだまだ広がっていき、エレサを追いかける。
「なんて魔力量だ!?」
エレサはラスカの魔力量に驚き、目の前に迫る氷塊を水刃で斬り刻む。
斬り開いた氷塊の前に出ると、ラスカは構えている。
氷の弓を形成し、矢に一点の魔力を注ぐ。
「しまった! 私はまだ浮いている。今撃たれたら避けられない」
エレサは初めて焦りを感じる。あの一撃は喰らえば間違いなく自分を貫く。そんな焦りの混じる汗を浮かべた表情でラスカを見つめる。
ラスカは目の前の氷塊を突き破り、エレサは現れると踏んで、攻撃の準備をしていた。
ラスカが誇れるのは魔力の量。これだけは誰にも負けたことはなかった。
まさに好機。これを外せば、勝ち目はない。この状況を作り出した、自分に最高の自信がついてくる。
「ホワイトレイ!!」
放った矢は、確実にエレサを捉え、貫いたように見える。矢はそのまま夕刻の空の彼方へと飛んでいく。
「やった......」
魔力のほとんどを使い果たし、後の2人をどうするか考える暇もなく膝をついて息を切らしている。
「ラスカ様が......2人目を倒したぞぉぉ!!」
周囲の兵士達が声を上げて、宣言する。
それに呼応するように国中から声が上がった。
「危なかったです......」
膝をつくラスカの隣から声がした。
ラスカはその声を聞き、身体中が震え上がり、声の方を見上げる。
そこにはエレサが立っていた。
「どうして......」
渾身の一撃だった。エレサを見上げるラスカの目は絶望に染まっている。
「どうして? 攻撃を避けたんですよ」
ラスカには理解ができない一言だった。
あの体制から高速の矢を回避する術は思いつかず、ラスカの不安と絶望は身体中を駆け巡る。
「教えてあげましょう」
エレサはそう言って身体中がバリバリ光出す。
それを見たラスカはこう思った。
「雷......?」
「その通り。雲から雷はどうやって現れますか?」
はっとしながら反則だと思う。
「雷のようにその場から落ちて回避しました」
エレサの落ちるスピードはラスカの矢を上回り、回避することができた。
「そんなことって......」
水と雷。二つの魔法を操る人は存在しないと歴史が証明していた。目の前で私を見下ろすこの人は一体何なんだ。
エレサはラスカの肩を持ち、放電する。
「うああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
とてつもない痛みのあまり、ラスカは大声で叫ぶ。
そしてその場で横たわり、痙攣している。
エレサは、ラスカを持ち上げ、建物の上にあるタンクのようなものにもたれかかるように座らせる。
意識はかろうじて保っている。だがラスカに動く力は残っていなかった。
そんなラスカの姿を見たエレサは追い詰めるように口を開く。
「あなたは、それでいいのですか?」
ラスカはその問いかけの意味がわからなかった。
「この戦争は、大陸中に放映されています」
その一言を聞き血相を変えて、顔を上げる。
「総大将であるあなたがこのような姿を晒して、この国の民間人はどう思ってると思いますか?」
「あ.あぁ...!!」
ラスカは涙が止まらなかった。エレサの言葉で責任感に耐えられなくなる。
この国を守りたい。けれども自分の力ではどうすることもできない敵が目の前にいる。そして無様に敗北した自分の姿を国民に見られている。
「私は......私は!!」
震える両手で目を覆うが、溢れる涙は止まらない。
「ラスカ......!?」
「お姉ちゃん!?」
「ラスカ様......」
その様子を見る、ラスカの両親、学園から応援しているフラン、そして兵士たち、みんなの憧れであるラスカの姿を見て失望する。
そんな人はどこにもいなかった。この国の命運を1人で背負い、戦場の先頭に立ち、兵士たちを率いたラスカを皆が尊敬し、その姿に涙した。
「ありがとう......」
地下シェルターで見守る民間人達も国のために戦うラスカを見て、涙を流しながら深く感謝する。
だが、その思いはラスカには届かない。
「行くぞぉ!! お前らぁ!!」
あんなラスカの姿を見たにも関わらず、兵士たちの士気は上がる。
「どうして......」
エレサは総大将を討ち取ったというのに、士気があがっていくこの国がわからなかった。
「ですが、問題はありません。聞きたいことがあるのですが、まだ話せますよね?」
エレサは、さらに真剣な表情でラスカに問う。
「この国に潜伏している魔術師はどこにいますか?」
「え?」
衝撃の質問のあまり、ラスカは反応に困る。
「その反応ということは、知らないということですか?」
首を少し傾げながらエレサは言う。
「何を......言ってるんですか?どこの情報ですかそれは......」
涙の勢いは少し止んだが、目を腫らしているラスカはエレサに返す。
「どこって......私たちの国ですけど。自国にそう助言した人が居ると王は仰っていました」
「助言......?」
「助言をした人も魔術師を名乗っていたみたいです」
淡々と話すエレサの声には感情がこもっていない。まるで操られている人形のように。
「私は......知りません。この国に魔術師なんかいるはずありません!」
震える身体で搾り出すように告げる。
「魔術師が言ってるなら信憑性は高いとおもうのですが...知らないのなら貴方は用済みです」
エレサは雷で短い剣を作る。雷光が空気を裂き、金属音のような震えを伴って形を成す。
「さようなら、貴方は強かったですよ」
エレサは剣を振り下ろす。
ラスカは下を向き、目を瞑りながら動かない。
映像を見ている人たちは皆目を大きく開け、放心している。
--その時だった。
エレサの振り下ろした腕が弾かれ、雷剣が吹っ飛んでいき、建物が爆発する。
「っ!?」
エレサは驚き一歩身を引く。
「なあ、その助言した魔術師について詳しく教えてくれよ」
エレサの目の前には、自信満々な顔をした少年が立っていた。
「せ、星一さん......?」
ラスカはそう言って気を失う。
「いいだろ?」
「--何者ですか?」
「さあ、誰やろな」




