24話:戦前
星一は、王同士の話を一部始終聴き、嘆息する。
「なんかやばいことになったな......」
正直勝ち目は殆どないだろう。あの精鋭たちを目にした星一は、真っ向から勝負して嫌な想像をした。
星一が思ったことはこれだけでは無かった。エルヘイムの王が強引すぎることに引っかかっている。
そして去り際の王の表情。まるでここまで計算の内のような面持ちを見た星一は、戦争以外に目的があるのではないのかと考える。
さまざまな思考を巡らせながら、星一は森の家に帰るのだった。
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エルヘイム王が去った後、玉座の間は長い静寂が続いた。
重苦しい空気感が漂う中、メルベリア王は青ざめていた。その視線の先には、冷静な表情のラスカが立っている。
「......ラスカ。率直に言って欲しい。勝算はあるか?」
ラスカは一瞬だけ目を閉じ、深く息を吐く。その仕草が答えを物語っていた。
「正直に言うと--厳しいです」
「……ッ!」
ラスカは淡々と続ける。その声には微かに焦りが滲んでいた。
「魔法師団3人の師団長が揃えば、まだ可能性はあります...。しかし数時間ほど前に私を除く2人が迷宮に遠征に出ております」
「......」
ラスカは淡々と説明を続ける。
「迷宮は不安定で、前回の遠征では10日ほど時間をかけています。今から急いで使者を送り、すぐに引き返しても2日後までに戻るのは不可能です」
王は玉座に崩れ落ちそうになる。王妃も手で口を覆いながら震えている。補佐官たちがざわめき、広間は混乱に包まれた。
「つまり、2日後の戦争は......ラスカ、お前1人に全てを託すしかないと言うことか......!」
「......はい。ですが、私1人で守り切れる保証はありません」
ラスカの拳が小さく震える。それを見て王の顔色はさらに悪くなる。
ラスカは一瞬だけ視線を上げ、王をまっすぐに見据えて言い切る。
「しかし……私は必ず、ここで食い止めます。それが、師団長としての責務ですから」
王はその言葉に縋るしかなかった。
「戦争の準備をするぞ!今いる魔法師団員と学園にもこのことを伝えろ!」
王は周りにいる重鎮たちに告げ、戦の準備を整えるのだった。
星一は家に戻るとフキの姿は無かった。
「フキは?」
「深く暗い顔をして、寮に戻りましたよ」
フキは星一が様子を見にいった直後、重い顔をして寮に帰ったと言う。
「そっか......」
星一はソファに座り、何かあったかを話す。
「隣国のエルヘイムとメルベリアが戦争することになった」
それを聞いた、ピリィは身を乗り出して驚き、ドラセナは、何も動じてはいなかった。
「メルベリアは勝てそうなの?」
ピリィは再びソファに腰掛けて聞く。
「いや、かなり厳しい」
腕を組んできっぱりと答える。
「星一さんはどうするんですか?」
ドラセナのその一言は部屋の空気をさらに重くする。
「俺たちが戦争に出れば、おそらく勝率はかなり上がる」
「じゃあ、わちはメルベリアのために戦ってもいいよ!」
ピリィは割と戦う気満々だった。
「けど引っかかることが1つある。あの王を見た時、戦争は表向きで裏に何か目的があるんじゃないかって思った......」
星一はあの王の顔がどうしても頭から離れなかった。
「いいですか?」
ドラセナが手を少しあげて話を始める。
「私は、この戦争に参加するべきではないと考えます」
「理由を教えてくれるか?」
星一は冷静にドラセナに質問する。
「星一さんとピリィが戦争に参加するということは、自分の正体を大勢の人にバラすということです。魔術師と分かればメルベリアだけでなく大陸中が星一さんを警戒することになります」
「......」
無言で聞いているが、眉を寄せて険しい顔をしている。
「そして、ピリィ。竜族は本来ここにはいないはずの存在なの。フキくんや星一さんが優しいだけで他の人は、あなたを利用しようとする人多くいるんだよ」
ピリィは一瞬目を伏せるが、よくわかっていなさそうな顔でドラセナを見る。
「参加するなら、星一さんが言う敵国の本当の狙いがわかるまで傍観しているのがいいと思います」
「最もすぎる意見だな......」
下を向きながら少し笑い、真剣な目でドラセナを見つめる。
「わかった......!ひとまず、戦争には関与しないことにしよう」
「ピリィもそれでいい?」
「わかったよー......」
頭の後ろで手を組んでソファーに深く腰掛けて、少し不貞腐れている。
◇
戦争前日
学園では、朝のホームルームでメルベリアとエルヘイムが戦争の件がクラスごとに伝えられる。
ミアレは歯を食いしばりながら話す。
「明日、メルベリアとエルヘイムは戦争することになった...」
生徒たちは、驚愕と沈黙に包まれる中、フキは、すごい勢いで立ち上がる。
「フキ君?」
ミナ自身も衝撃を受けるほどに驚いているが、フキの表情からとてつもない怒りを感じる。
ミアレから戦争の布陣が言い渡される。
「前衛は師団と教師陣であり、後衛は魔法が使える生徒であり、使えない生徒、回復魔法が使える生徒は避難所に待機と命令が出た」
メルベリア王国全体が不穏な空気に包まれる中、学園の教室でも異様な緊張感が漂っていた。
戦争に参加する者と避難所に行く者、その線引きが発表された直後だった。
「ふざけるなよ! お前らは安全な避難所でぬくぬくしてる間に、俺たちは前線で命を賭けるんだぞ!」
「じゃあどうしろって言うんだよ! 俺たちが前線に出たって足手まといになるだけだ! 死にに行けってのか!?」
魔法を使える生徒と使えない生徒は口論を始める生徒もいれば、静かに顔を手で覆い、絶望して泣きじゃくる生徒もいた。
ミアレはその様子を見て、次第に目に涙を浮かべていく。
そんな殺伐とした雰囲気の中、フキは、座りながらずっと何かを考えているような顔で窓から外を眺め、心ここに在らずの様子にあった。
教室での口論は、フキたちのクラスだけでなく、1年生のクラスでも起こっていた。
教室は混沌としていた。
机が倒れ、怒号が飛び交い、戦場さながらの混乱。教師も止められずにいる中、マヤセが一歩前に出た。
「--いい加減にしてください!!」
彼女の声は決して大きくはなかったが、
その鋭い響きが教室中を貫いた。
「ここで言い争っても……何も生まれません!明日は必ず来ます。戦争は--もう避けられないのです」
マヤセは強い瞳で一人一人を見渡す。
「だからこそ、今は体力を温存すべきです。不安なのは分かります。でも……私たちが争えば敵の思う壺です!」
魔法を使える生徒は、不満を口にしながら黙っていく。
魔法を使えない生徒は涙目でうつむき、震える拳を握り、教師は安堵の息を吐く。
マヤセの言葉を聴いたフランは、少し下を向き、マヤセのことをすごいと思う。
自分だったらこうはならなかった。フランはそう思う。それほどまでにマヤセの存在は大きかったのだ。
「いつか私もマヤの隣に立ちたい」
フランは小さく呟き、戦争への覚悟を決める。
フキの教室ではまだ口論は続く。
誰かが止めることはなくただただ暴言が飛び交う。
するとミアレは生徒たちの言葉をかき消すように話し始める。
「……すまない……! 本当に……すまない……!」
床に手をつき、土下座した教師の肩が小刻みに震えていた。生徒たちからは驚きと動揺の声が漏れる。
「せ、先生!? な、なんで土下座なんか……!」
ミアレは顔を上げられないまま、声を震わせ、目に涙を浮かべながら続ける。
「本来なら……君たち生徒を戦場に立たせるなど、あってはならないことだ……。 だが--国の決定は覆せなかった……! 我々教師陣は……戦争に君たちを駆り出す以外の手段を取ることができなかった……!」
「………」
生徒たちは静かにミアレの話を聞く。
「……師団の戦力は迷宮遠征で分散している……!この国は今、絶望的に人手が足りないんだ……。君たちの力に頼るしか……頼るしかなかった……!」
ミアレは涙を流しながら立ち上がり、生徒一人一人の目を見る。
「どうか......この国のために......戦って欲しい......」
ミアレは深く頭を下げ、言いたくないことを言いお願いする。
生徒たちは再び沈黙し、中にはミアレの言葉に涙する者もいた。戦わないといけないという心の片隅にある思いと覚悟が己を煽り出す。
「先生......俺たちは死なないために戦ってもいいですか?」
1人の生徒が勇気を振り絞り言葉を上げる。
「もちろんだ......」
その言葉で他の生徒たちも、自分のために戦うという、思いを前面に持ち、戦う覚悟を決める。
そして、明日を迎えた。




