23話:宣戦布告
「隣国?」
飛行船が飛び去って行くのを見ているフキに対してそう聞く。
「......ああ」
フキは何かを胸の内に秘めながら返す。
「隣国なんてあったのか?」
星一はメルベリアがこの大陸の唯一の国だと思っていたため、衝撃を受ける。
「ここから境の山脈をを超えたところに、エルヘイムという国がある......」
下を向き、何かを考えるフキは、淡々と答える。
星一はそんなフキを察して、深くは聞かなかった。
「ちょっと様子を見て来るよ」
星一はそう言って国へ向かう。
「......わかりました」
ドラセナは了承する。
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一方メルベリアの人々は、飛行船が近づいて来るのを眺めている。
外出していたフランとマヤセも飛行船を視認する。
「何あれ?」
マヤセは空を見上げて不思議がっている。
「あれは......エルヘイムの紋章?」
飛行船に描かれていた紋章を見たフランはそう呟く。
フランとマヤセは立ち止まって空を見上げ、飛行船が王城に向かって行くのを黙って見ている。
そして、巨大な飛行船が王都の上空から王城前にゆっくりと降下する。
その姿はまるで空を支配する城のようで、周囲の市民はどうゆうことか状況が掴めていなかった。
王城の正門前では急遽メルベリア王国の兵士たちが整列していた。
王城に居合わせたラスカも警戒を露わにして飛行船を見上げる。
「……やはり、国王自らの来訪ですか。面倒なことになりましたね」
ラスカは眉をひそめ、そう呟く。
飛行船の中央部が開き、タラップが下りる。
その先から現れたのは、荘厳な衣をまとった一人の男。威圧感だけで場の空気が張り詰める。
「あれが……エルヘイム国王……!」
ラスカの後ろに控える護衛の兵士たちが言葉を漏らす。
国王の背後には4人の精鋭部隊が控えている。
彼らの風格はメルベリアの兵士よりもはるかに洗練されており、ただ立っているだけで兵士たちの膝が震えた。
「なんて圧なの......師団長全員でかかっても勝てないかもしれない...」
ラスカは、精鋭4人を見て直感でそう思った。
「エルヘイム王! 此度はどのような要件でこの国へ?」
ラスカは師団長としての威厳を放ち、エルヘイム王に対して要件を尋ねる。
エルヘイム王はその言葉を聞き口を開く。
「急に押しかけて申し訳ないが、メルベリアの王に話があってな...」
「......」
「わかりました......案内しますので着いて来てください」
ラスカはエルヘイム側に攻撃の意思はないと感じ、王の元へ案内する決断をする。
国王は堂々と歩みを進め、玉座の間へと入る。
メルベリア王が玉座から立ち上がり、ぎこちない笑顔を浮かべる。
「これはこれは……エルヘイム国王陛下。本日はどのようなご用件で?」
赤く高貴なマントを羽織り、渋いヒゲをしているメルベリア国王が挨拶する。その隣には薄ピンクのドレスを纏った王妃様も出席していた。
「単刀直入に申そう。我が国はメルベリア王国と“同盟”を結びに来た」
場がざわつく。ラスカも目を細める。
「……同盟、ですか?」
ラスカは小さく呟く。
エルヘイム国王はにやりと笑う。
国王たちの話が始まった時に星一は王城に到着する。
王城の外壁に乗り、でかい窓から見下ろすように星一は観察する。
そして、その視線は、エルヘイム国王の背後に並ぶ4人の精鋭たちへと注がれる。
「あいつ......やばいな......」
星一はその中の一人に目を奪われる。
黄色く輝く髪は肩にかかる程度で、整った中性的な顔立ち。まるで“少年”とも“少女”ともつかぬ美しさを漂わせている。
「あいつだけ別格すぎる......下手すりゃ俺と同等か、それ以上......。あんな奴もいたのか...」
息を飲む星一。その時、少年がゆっくりとこちらに顔を向ける。
一瞬、目が合った--そう錯覚するほど、強烈な視線。
星一はすぐに隠れ、気配を消す。
「......?」
「おい、エレサ。何キョロキョロしてんだよ」
精鋭の一人である。大柄な男が黄色髪の少年に声をかける。
「……いや、視線を感じて、誰かに見られている気がしました」
「はっ! お前、また気にしすぎだろ。ここは敵国だぞ?視線くらい山ほどあるに決まってんだろ」
エレサはわずかに眉をひそめたが、やがて視線を落とし、短く答えた。
「そうですか.....?それにしても、ガインは呑気ですね」
「おい!お前ら静かにしろ!もうじき王が話される」
精鋭たちのまとめ役である、ルオラが二人を叱る。
「第二王子が何も言ってないんだからいいじゃねーか」
ガインは、エレサの右隣に居られる薄赤色の髪をした第二王子の少年ヒュダを見ながらルオラに言い返す。
その様子を星一も息を殺しながら傍観する。
エルヘイム王は重々しく息を吐く。
精鋭たちは王の息の音を聞き、会話をやめる。
「メルベリア王よ。我が国は近年--魔術大陸と呼ばれる伝説の地の存在を確信した。魔術大陸というのは、ここよりずっと北にある大陸のことだ。そこには未知の科学力や魔術師という魔法以外の手段で戦うものたちがいるとされている」
メルベリア王が眉をひそめる。
「貴国はそのような伝承を信じているのか?」
「信じている、というよりも……既に痕跡を発見していると言った方が正しい。私がここへ来た理由は一つ。我らと共に、魔術大陸を目指さぬか--という提案だ。」
重臣たちがざわめく。
「……おぬしらが単独で向かえばよい話ではないか。 なぜ我が国を誘う?」
「未知の地に挑むには、多くの知恵と人材が必要だ。そして--これはただの冒険ではない。」
エルヘイム王は少し間を置いて続ける。
「魔術大陸には、強大な魔術を操る者がいるかもしれぬ。もしも彼らがこちらの世界へ来れば……大陸全土が混乱に陥るだろう。それを未然に防ぐためにも、我らは“確かめ”に行く必要がある。」
メルベリアの王は神妙な面持ちで聴き続けている。
「これは貴国にとっても利益になる話だ。未知の資源、未知の魔術……もしそれらを発見できれば、我ら両国は新たな時代を築くことができるだろう」
エルヘイムはここまで話し拳を突き立てる。
「さあ、メルベリア王よ--共に夢を追わぬか?」
エルヘイム王の提案を受けた王座の間に、重い沈黙が落ちる。
メルベリア王は深く目を閉じ、しばし考え込む。
「……申し訳ないが、貴国の提案は受け入れられぬ。」
「......ほう?」
王の厳しい声に、場の空気が張り詰める。
重臣たちも、思わず息を呑んだ。
「確かに未知の大陸への探索は夢がある。だがそれは同時に――魔術師たちとの接触を意味する」
500年前に1人の魔術師によって、5人のエレメントマスターが命を落とした。そんな魔術師たちとの接触は——
「それはこの国滅亡を意味する。我が国にはそのようなリスクを犯す覚悟はない」
「……なるほど。魔術師を恐れてのことか」
彼は口元にうっすら笑みを浮かべた。
「ならば、メルベリア王よ。貴様は、我が国に従う機会を捨てたということだ」
重臣たちがざわめく。
「な……何を言っておる!」
「まさか……!」
エルヘイム王は手を広げ、誇らしげに宣言する。
「我がエルヘイム王国は--2日後、貴国を侵略する!」
「っ......!?」
ラスカとメルベリア王、その他の人も皆驚愕する。
「エルヘイム王! 我が国に剣を向けるというのか!」
「剣を向ける? 違うな……これは未来を奪い取るということだ」
もはや何を言ってるのか、メルベリア陣営には理解ができなかった。
「これは我が国の未来のための戦いだ。貴国の意志など、もはやどうでもいい--次に我が声を聞く時、メルベリアは炎に包まれているだろう」
言い終えて、背を向けた王はニヤッと笑い、精鋭たちと飛行船に戻り、王座の間から姿を消すのだった。




