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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第一部 魔法編 1章:学園
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17話:星一の提案

 星一は、街へ行っている間に起きた出来事をフランから説明を受ける。驚いている素振りは見せていないが、心の中では動揺しているのだった。


 「ヘレンは死んではないんだよな?」


 「うん。マヤが止めに入ってくれたから、死者は出てない……」


 星一は安堵し、街でラスカに買ってもらったお土産をフランに渡し、フキの居場所を聞く。


 「フキは、今どこに?」


 「多分寮の部屋にいると思うよ」


 「そっか……」


 星一はそう言って寮へ歩き出す。


 フランは渡された袋の中身を確認して、「え!?」と思わず声を出す。


 「ありがとう!」


 フランは背を向けた歩く星一にお礼を言う。星一もそれが聞こえて、振り返らずに手を振る。


 星一は部屋の前に着き、ドアを開ける。


 フキは、窓際に椅子を置いて座り、窓から見える海を静かに眺めていた。


 「よおー」


 星一は優しく声をかける。


 「星一……」

 静かに星一の方を見たフキは、ひどく怒っているのではないかと思い、震える手を握りしめる。


 「派手に暴れたみたいだな」


 星一は、窓に腰掛け、フキの隣で話す。


 「フキは自分のやったことをどう思ってる?」


 「自分が間違ってたと思うか?」


 一瞬部屋は静寂に包まれるが、フキは弱々しく答える。


 「何でだよ……」


 フキは、殴られる覚悟で星一を部屋で待っていた。しかし星一の態度はその真逆である。怒っている様子はなく、優しく話しかけてくる。


 星一が優しく接してくれてほっとしている反面、心の隅では、叱って欲しかった。フキはそう思う。


 「俺はな、フキ。確かにやってくれたな、とは思うよ。でもお前を裁くのは俺じゃない。それに、お前が考えてやったことだったら、俺は責めない」


 星一は、フキの目の前に椅子を持ってきて、目線を合わせる。

 

 「もう一度聞くぞ。フキは自分のやったことをどう思ってる?」


 「俺は……後悔はしてない。友達があんな目に遭わされて、黙ってることはできない。でも……結果的には、みんなに迷惑をかけることになって申し訳ないと思ってる……」


 フキは、本心を星一に話す。海風が部屋に通り、フキの黒い髪が靡く。


 「そうか……なら俺は何も言わないよ」


 「けど……!俺はヘレンを殴り殺してたかも知れない……」


 フキの目は曇り、声はひどく震えている。


 星一は少しだけ目を細め、陽が沈んだ空を見上げる。


 「お前は成長してる途中だ。失敗することだってあるさ。でもその失敗は、二度と繰り返さないための失敗になる」


 フキはゆっくりと星一の方を見つめる。

その瞳には、静かな決意が宿り始めていた。

 

 「それに、俺はちょっとすごいと思ってるよ」


 「え?」


 フキは、自分の身勝手な行動に対して、星一の言葉がわからなかった。


 「フキは自分の思いを行動に変えた。これは案外簡単そうに見えて、できないことなんだぜ」


 「それだけで?」


 フキは、すごいなんて微塵も思っていなかった。


 「いや、それができればもっと成長できるよ」


 「ありがとう。俺……もっと強くなるよ。みんなを守れるくらいに」


 「ああ……そのために、俺たちがいるんだろ?」


 二人は陽が沈み月明かりだけが照らす部屋で、

それぞれの心に新たな決意を刻むのだった。


 「まだ消灯時間じゃないけど、寝よう。今日は疲れたろ?」


 「うん。そうさせてもらうよ」


 フキはそう言ってベッドに入り、すぐさま眠りについた。


 「ほぼ気絶だろそれ……」


 一瞬で寝たフキに星一はありえなそうに呟く。


 「さて……」


 星一は、部屋を出て歩き出す。

 

 寮を出て、学園に配置されている地図を見ながら、歩いて教師達が使う会議室を目指す。

 

 星一が、会議室に着き、ノックをしようとするが、中から教師達が声が聞こえ、その会話を盗み聞く。

 

 「……今回の件は看過できない。生徒会長を瀕死に追い込んだとなれば、処分は退学が妥当だろう。」


 「だが、フキには情状酌量の余地も――」


 「いや!前例を作るわけにはいかない。ここで甘い判断をすれば、学園全体の秩序が崩れる!」


 フランの言った通り、フキの退学で話が進んでいた。


 (あの声はミアレ先生か...退学反対の声は出してくれているが、覆そうにはなさそうだな)


 「失礼します」


 星一は、会議室に入り、コの字型に座る教師達を見渡す。


 教師たちは一斉に星一を見る。突然現れた編入生に、場の空気が一瞬で張り詰めた。

 

 「今の所フキはどうなりそうですか?」


 星一は現時点でのフキの処遇を聞く。


 「フキの処分は退学が妥当だろう。ヘレンは現役で魔法師団に所属し、国が総力を上げて開拓中の迷宮でも重要な戦力だ。そのヘレンを瀕死に追い込むとは...前代未聞だ」


 「あの事件は、王国全体への挑戦と見られても仕方がない」


 真ん中に座っている一番偉そうな教師がそう答える。


 「ですが……!フキは友達のために戦ったんです!それにヘレンを超える強さとなると、国にとっても多大な損失です!学園に置いて成長の機会を与えるべきかと私は思います!」


 「実力は認める。だか、今回の件は別だ」


 ミアレは抗議してくれているが、その他の教師は聞く耳を持たない。


 会議室はフキの退学で決定しそうになる。星一は静かに、一歩一歩力強く前へ進み、教師たちの前に立つ。


 「――なら、俺が代わりに退学になります。」


 会議室が一瞬にして静まり返った。

教師たちの視線が一斉に星一へ集中する。


 「……何を言っている?」


 「フキはこの国にとって、これから必ず必要になる人間だ。だから退学なんて愚かな判断はさせない。罰が必要なら――全部、俺が背負う」


 教師たちが息を呑む。


 星一の声には、いつもの軽い調子は微塵もなく、重く冷たい覚悟が滲んでいた。


 「な……なにを言っている?」


 「お前には関係ない話だろう!ふざけるな!」


 教師達は声を荒げる。


 「そうだぞ!君が退学する必要はないよ!」


 ミアレは星一に諭すように言う。


 「先生、こうでもしないと...フキの退学は無くなりませんよ」


 「でも...」とミアレは自分の無力さを恨むように下を向く。


 「それに、関係なくないですよ。おれはフキのパートナーだ。こいつを戦いに巻き込んだのも...俺なんだ」


 教師陣は息を呑み、互いに顔を見合わせる。

星一はさらに一歩踏み込み、言葉を続けた。


 「先生達からしても、将来有望なフキを失うより、魔法も使えない俺を失った方がいいはずだ」


 その場にいた教師たちは言葉を失った。


 あまりにも理に適っている。それは、誰も反論できない魅力的すぎる案だった。


 「まあ、フキは俺が連れていくけどな...」と星一は表情を変えずに心の中で呟く。


 教師長が重い沈黙を破った。


 「……お前、本気で言っているのか」


 「ああ。本気だ。退学者が一人必要なんだろ? だったら俺でいい」


 教師たちがざわめく。


 彼らは確かにフキの才能を惜しんでいた。だが同時に、ヘレンという迷宮開拓の重要な戦力を瀕死に追い込んだ罪を軽くすることはできない。


 その板挟みを、一瞬で解消する提案――それが星一の言葉だった。


 「だが……前例がない……!」


 「前例なんて関係ないだろ。俺を退学させれば、それで帳尻は合う。誰も損をしないんだ」


 教師たちの顔に迷いが浮かぶ。それはもは「退学処分」の議論ではなく、星一を受け入れるか否かの議論にすり替わっていた。


 「何を迷ってるんですか?魔法も使えない編入生一人を消すだけで、フキの未来を救えるんだ。――簡単な計算だろ?」


 教師陣は返す言葉を失った。


 最後に教師長が深く息を吐き、決断を下す。


 「……わかった。その案を前提に、再度話し合おう」


 「ありがとうございます」


 星一は深々と頭を下げ、会議室を後にする。


 部屋を出て、会議室の扉を閉めた瞬間静寂の廊下にひとりの影が立っていた。


 「聞いてたのか?マヤセ」


 「聞いてましたよ……。全部」

 

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