16話:嵐の子
星一が街に出た後のことだ。
フキはまだマヤセと鍛錬をしている。そこへ、星一との鍛錬を終えたフランがやってくる。
「そっちはもう終わったのか?」
「良い時間だったよ!」
フランの声は、かなり嬉しそうだった。
「じゃあ俺らも切り上げるか」
フキは、鍛錬の終わりを告げた。
「はい。お疲れ様でした!」
マヤセはそう言って、フランと校内に歩く。
鍛錬が終わり、学園を歩いていたフキは、騒がしいざわめきを耳にする。
なんだ?と思い、人が集まっている方へ足を運ぶ。
近づくと、ざわめきの中から断片的に言葉が聞こえてくる。
「ひでぇ……」
「あれが生徒会のやり方かよ……」
フキは不安を覚えながら人垣をかき分ける。
そして目に飛び込んできたのは――
地面に倒れ、ズタボロの状態で息を荒げるミナの姿だった。
「ミナっ!?」
フキは慌てて駆け寄り、ミナを抱き起こす。服は破れ、腕や足は打撲と火傷のような跡もあった。フキの手にもミナの血がべっとりとつく。
「しっかりしろ! 何があったんだ!?」
ミナは薄く目を開き、フキの顔を確認する。
震える唇からかすれた声が漏れる。
「負け……ちゃった」
「負け……? 一体誰に!」
「……生徒会……長……ヘレン……ごめん……生徒会を……抜けることになった……」
ミナは言葉を最後まで言い切れず、気を失ってしまう。
「ミナ!!」
フキはミナを抱き抱えて立ち上がって周囲を見渡す。
「何でこんなことに?」
フキはなぜこんなことになったか、周りにいた人に説明を求める。
人垣の中から、一人の生徒が震え声で説明する。
「生徒会で魔法の対決があったんです……内容は先生会メンバーと会長が戦うものです」
「会長に認められたら、生徒会に残れる、負けたら脱退するルールで……」
別の生徒が続ける。
「でも……あんなの対決じゃない!開始と同時にヘレンが全力で襲いかかって……ミナさんは防戦一方で……降参しても攻撃をやめてなかった……」
フキは奥歯を噛みしめ、怒りを抑えきれない。
とても穏やかではない目をしている。
フキはミナを抱えて、歩き出し、医務室へ連れて行く。
フキはミナをベッドに横たえ、深呼吸もままならない彼女の顔を見つめる。
ミナはまだ意識を取り戻さず、うわ言のようにフキの名前を呼ぶ。
「フキ.....君.....ごめん....」
「謝るなよ……悪いのはあいつだ」
フキは心の中でそう思い、震えるミナの手を握り、そっと置く。
フキは医務室を出て、学園の廊下を駆け抜けながら、すれ違った生徒に問う。
「生徒会の塔はどこだ?」
驚いた生徒はしどろもどろになりながら答える。
「えっ!? あ、あそこをまっすぐ行って、中央広場を抜けた先……!」
「ああ、ありがとう」
フキはその場を離れ、全力疾走で駆ける。
夕暮れ時、赤く染まる空を背に、生徒会の塔が威圧的にそびえ立っていた。
「あれか……」
フキは扉の前で立ち止まり、扉に手をかざす。
扉越しに中を突風で埋め尽くす勢いで魔法を放つ。
フキは、風を纏いながら中に入る。
風の衝撃で生徒会役員達が集まり、ざわめき立つ。
「ヘレンはどこだ?」
フキは静かに問う。
「何だあいつ!? 目が本気だ...」
生徒会役員達がフキの圧に圧倒されている。
すると正面にある大きな階段から足音が聞こえた。
上階からゆったりと階段を降りてくる男。
その足取りは余裕に満ち、笑みは冷たい。
「騒がしいと思えば、俺の誘いを断った編入生じゃねぇか」
ヘレンはフキを見下ろすように立ち止まり、薄く笑いながら問いかける。
フキは拳を強く握りしめ、荒ぶる心を押さえ込むように深く息を吐く。
声を荒げず、静かで力強い声で言い放つ。
「あそこまでする必要はあったのか?」
「あ?」
「お前がミナを引き抜いたんだろ?実力がついてこなかったら、辞めさせるのか?」
ヘレンの目が一瞬だけ細められる。
フキはさらに踏み込むように続けた。
「だったら……お前が俺に負けたら、生徒会長を辞めるんだな?」
その場にいた役員たちが一斉にざわめく。
ヘレンは一拍置いた後、愉快そうに口角を上げる。
「ほう? 面白いことを言う」
階段を降り切り、フキと対峙する。
「新入りごときが、この俺様に勝てると思っているのか?」
「勝つんじゃない、倒すんだ」
ヘレンはしばらくフキを観察するように沈黙した後、不敵な笑みを浮かべる。
「よかろう。貴様の無謀な挑戦……受けてやる」
首を鳴らし、ヘレンは戦闘態勢に入る。
「だが忘れるな――もし貴様が負ければ、お前は俺の下についてもらう」
フキは一歩前に踏み出し、真っ直ぐに睨み返す。
「望むところだ……!」
二人の視線がぶつかり合い、その場の空気が張り詰めていく。
「貴様の無謀、ここで終わらせてやろう」
ヘレンは魔力を練り上げると、床のタイルが砕け散り、凄まじい熱気が吹き荒れる。
だが――フキは一歩も動かない。
その眼は、静かに燃えていた。
「――消えろォォッ!!」
ヘレンが先手を取って一気に詰め寄る。
その拳には圧倒的な魔力が宿っていた。
だが、フキは微動だにせず――星一の声が脳裏をよぎる。
「簡単でいいんだよ。例えば魔力を右手に集中させて風を纏ったパンチとか」
フキは拳に魔力を集中させる。
「風穴!!」
次の瞬間、フキの拳が閃光のように走り――ヘレンの懐に一撃を叩き込む。
轟音と共に、ヘレンの巨体が床を滑り、壁に叩きつけられた。
「なっ……嘘だろ……!?」
「一撃で……会長が……!」
その場にいた生徒会役員たちが震え上がる。
フキは荒い呼吸を整えながら、
倒れたヘレンにゆっくりと歩み寄る。
ズタボロになったヘレンはまだ息があった。
そんなヘレンの前にフキは立つ。
「もうやめてくれ.....俺の負けだ...!」
その言葉を聞いた瞬間、
フキの中で抑えていた感情が爆発する。
「……ミナを……あんな目に遭わせて……!」
拳を握りしめ、全身が震える。
「ここで……お前を……終わらせるッ!!」
フキは最後のパンチを振りかぶり――その拳が振り下ろされた。
だが、その拳を受け止めている手が目の前にあった。
フキが、前を見るとそこにはマヤセが立っていた。その瞳には強い意志が宿っている。
「これ以上は……死んでしまいます!」
「ヘレンはもう戦えません……!
どうか、頭を冷やしてください、フキさん!」
フキはマヤセを見つめ、
しばらく震える拳を止められたまま、動けずにいた。
やがて――フキは深く息を吐き、拳をゆっくりと下ろす。
「この場は私が預かります。あなたがここで暴れ続ければ……フランや星一さんにも迷惑がかかります。」
「……わかってる」
フキは苦々しげに吐き捨てると、
その場を後にした。
生徒会役員たちは圧倒され、誰一人声を上げられない。
フキは自分のやったことを振り返りながら、考え、部屋に向かって歩いていく。




