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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 2章:EXTRA

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56話:ホテルのオーナー

 --朝が来る。

 久しぶりにゆっくりと眠ることができた作見は、体を起こしてベランダに出て大きく息を吸った。


 心地の良い水の流れる音、目が癒されるほどの絶景、半袖が気持ちいいくらいの気温--全てが完璧だ。


 ホテルと湖の間に通る道路も車で賑わっている。夏休みで、出かけている家庭も多いのだろう。


 「にしても車が多いな……今何時だ?」


 作見は布団の横に置いた携帯を見ると、時刻は13時を迎えようとしていた。


 「う、嘘やん……」


 昨日作見が布団に入ったのは、20時過ぎだ。ということは、約17時間寝ていたことになる。

それに、まだ千咲と麻希薙は睡眠中だ。


 「これは、起こすべきだ」


 裏を返せば、これだけ寝れるほど疲労が溜まっているということだ。幸せそうな表情で眠っている二人を起こすのは心苦しいが、「なぜ起こさなかったんだ」と詰められるよりはマシだ。


 「千咲さ〜ん、麻希薙さーん」


 名前を呼びながら肩を持って揺らした。すると、2人はすぐに目を覚ました。


 「うぅ、もう朝になった?」


 千咲は上体を起こし、目を擦りながら呟く。その声はいつもよりガラガラで低かった。


 「あー、頭いて〜〜」


 麻希薙も上体を起こし、3つの枕を重ね合わせてもたれかかる。そして、右手で頭を押さえながら唸っている。

 昨夜のお酒が響いているのだ。


 「もう13時回りました」


 「もうそんな時間かー」


 「ご飯行きましょうか」


 作見とは違い、2人は時間にそこまで驚くことはなかった。経験でもあったのだろうか、と思いながら3人はホテルの館内着に着替える。


 そして、ホテル内にあるレストランに向かった。昼時ということもあって、店内は多くの人で賑わっていた。


 「混んでますね」


 「時間が時間だしな」


 ビュッフェ形式のレストランであり、麻希薙と千咲はお皿を持って、先に料理を取りに行った。作見はというと、席の確保に苦労している。


 丸い机に椅子が三つ用意された席を確保した作見は、椅子に座って、2人が帰ってくるのを待つ。


 「席取りご苦労ー」


 「ありがとう」


 「俺も、取ってきますね」


 帰ってきた2人は満ち満ちの料理を乗せたお皿を置いて先に食べ始めた。作見も料理を取りに行く。


 自分の好きなものだけをお皿に盛り付けた作見は、席に戻ると、2人は食べながら何かをじっと見つめている様子だった。


 「どこ見てんすか?」


 「あれだよ、あれ」

 

 麻希薙が指をさした方角は、レストランの入り口だ。正確には、レストランの入り口の前に立つ謎の着ぐるみだった。


 「マスコットですかね?」


 「リアムくん。このホテルのイメージキャラらしいよ」

 

 フロアマップを隅まで読んだ千咲が答えた。

 丸い顔に塗られたような漆黒の髪。丸い目と鼻の下には赤く明太子のような厚い唇。とても人気が出るとは思えないデザインだ。


 宿泊客の子供たちが手を引っ張っている様子を見て、


 「意外に人気そうですよ」


 と作見は食べながら言った。


 「中に入ってる奴も大変だな」


 麻希薙は人事のように言って、もう一度料理を取りに行った。

 リアムくんへの疑問が解消し、そのまま食事を進めた作見たちはレストランを出る。


 エントランス付近にあるおしゃれな椅子に座り、麻希薙は今日から始まる調査について話す。


 「今日の夜から本格的に調査を始める。それまでは自由時間だ」


 「了解です」


 「具体的には、どんなふうに調査するんですか?」


 千咲が返事をした後に作見が質問をした。調査といってもイメージがつかなかった作見は内容を把握しておきたかった。


 「初日は3人で分かれて調査しようと思ってる。作見と千咲でこのホテル内を回って欲しい」


 「麻紀薙さんはどうするんですか?」


 「私はホテルを出て周辺の建物とかを調べようと思う」


 「なるほど……」


 作見は顎を触りながら、何か考えている様子で理解した。


 周辺の調査も立派な任務だ。

 だが、麻紀薙がホテルを出るのには理由がある。それは夜のホテルという不気味な空間に居たくなかったからだ。


 暗いところが苦手というわけではないが、明確に苦手なものが一つある。


 それは--幽霊の類いである。


 麻希薙は幽霊を信じている。暗闇のホテルの探索になると、少しの物音などが幽霊の仕業と捉えてしまい、パニックなってそこら中を斬り刻んでしまうかもしれない。

 

 そうなればホテルが確実に倒壊する。そんな自分を理解している麻希薙は、ホテルにいるべきではないという判断に至った。


 調査の話はこの辺で終わり、千咲はあることを麻希薙に提案する。


 「師匠、一緒に露天風呂行きませんか?」


 「おっ! 昼風呂もいいかもな! 作見も夜までゆっくりするなり、自分の時間を過ごしてくれ」


 そう言い残して、2人は露天風呂のあるホテルの最上階である9階へと向かったのだった。


 1人になった作見は、特にすることもなかった。


 「あー、どうしよかなー。探検でも……するか」


 暇つぶしに散歩がてらホテル内の探検でもするか、と立ち上がって足を運んだ。


            ◇

 緑がかった短い黒髪に剣のピアスが特徴的な女性がホテルに足を踏み入れる。

 スタッフオンリーと書かれた扉を開けて中に入ると、壁一面に館内カメラの映像が映し出されていた。数十個の画面たちと睨み合っている4人の女性は、入ってきた女性に気づいて姿勢を整えた。


 「調子はどうだい?」

 その黒髪の女性は――ムウと呼ばれるシカバネにしてカルマのメンバーだ。


 「お久しぶりです。オーナー」

 赤い髪の女性、アカは敬礼するかのように眉に手を当てている。


 「少し厄介なことになりまして……」

 緑色の髪を女性、アサは慎重な声色と表情で発言する。


 「ちょうど、オーナーの意見を聞くべきだと思ってたところです」

 青色の髪をした女性、アタは少し嬉しそうにしながら腕を組んだ。


 「普通にこっちから仕掛ければいいと思うんだけどな」

 紫髪をした女性、アナは3人とは違って強気になっている。


 「はいはい! 喧嘩しないで、状況を教えて」


 カラフル4人組は、このホテルに魔術師が3人きていることを話した。


 「吹上麻希薙に高切千咲か〜」


 ムウは頭をぐるぐる回しながら、困った様子で腕を組む。


 「どうされますか?」


 「撤退!! って言いたいけど、後2日様子を見てから判断するよ。それに、もう1人にも会ってみたいしね」


 ムウはそう言い残して、その場を去った。その表情は何かを企んでいる様子だった。


            ◇

 作見は一通り、探検し終えるも時計の針は少し進んだ程度だった。


 「暇だー」


 麻希薙と千咲はまだ帰ってこない。1人だとこの大きな部屋はとても広く、儚く感じる。


 「そういえば、一階にカラオケがあったな……。行ってみるか」


 と思い立った作見は部屋を出る。


 階段で降りようとして、廊下の角を曲がると、ある女性とぶつかりそうになる。


 「ああっ! すいません」


 「こちらこそ申し訳ございません」


 作見がぶつかりそうになったのは、このホテルの従業員の人だった。緑ががった短い黒髪に剣のピアスをしている。


 その従業員は深く頭を下げて謝罪してくれた。


 「いえ、俺もボーッとしてたんで」


 「当ホテルは満足していただけているでしょうか?」


 「そ、それはもちろん!! とてもいいホテルです!」


 「左様ですか! 大変嬉しいです。それでは、ごゆっくりお過ごしください」


 従業員との会話を終え、作見は足を進めて階段を降りようとする。


 すると、何か禍々しい気配を後ろから感じた。しかし、これはただの直感だ。振り返るほどでもないと思い、振り返ることはなかった。


 だが、実際背後には、さっき話をした従業員が不気味な笑みを浮かべている。そして、手を伸ばして作見の肩を掴もうとしていた。


 この場には2人--誰も寄せ付けないように手を回したムウの策略だ。この場で作見を行動不能して誰かに肉体を譲渡すれば、今後の選択肢も広がる。


 しかし、作見が階段を降り始めた時--1人の少年が階段を上がって歩いてきた。


 茶色い髪にツンツンとしながらも、柔らかそうな髪質の少年だ。


 ムウは一目でわかる。あの少年はただの一般人だ。この現場を見られてパニックにでもなられたら、麻希薙や千咲にバレてしまう。


 それだけは避けなければならない。


 ムウは伸ばした手を引っ込め、舌打ちをしてその場を去った。


 すると、階段を登ってきた少年が口を開いた。


 「お前……今狙われていたぜ?」


 声が聞こえた作見は、振り返る。


 「え?」


 作見の鈍い反応に、少年はポケットに両手を入れながら、


 「今、お前が落ちるのは面白くない。でもまぁ、ただの気まぐれだ」


 と少年は背を向けたまま、そう言い残して姿を消した。


 「…………」


 いったい何が言いたかったのか、何がしたかったのか、作見には理解ができないまま、あの少年のことを胸の奥にしまう。

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