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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 2章:EXTRA

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55話:休めるうちは休もう

 目的地の駐車場に到着した一行は、ホテルを目の前に言葉を失っていた。

 建物の中央にある入り口は和と洋を感じるデザインに設計され、自然と足が向かってしまいそうなほどだ。


 目の前には大きな湖が広がり、数時間眺めていても飽きが来そうにないくらい不思議な気分にさせる。これが自然の力なのだろう。


 そして、その力を最大限発揮させているのが、頂上を白く輝かせている富士山だ。


 少し頭を上にすると、巨大な山――自然の父とでも呼びたくなるほどの絶景が広がる。

 そんな富士山が湖に反射し、更なる味を出していた。


 「はぇ〜こりゃあーいいとこだなー」


 麻希薙は頭の上に手をかざしながら、あたり一面を見渡たしている。


 「空気も美味しいですね」


 千咲も同調しながら、大きく息を吸った。


 2人の反応とは違い、作見はその景色に感動して言葉を忘れている。そして、少し微笑みながら2人と顔を合わせて頷き合った。


 「そんじゃあ、チェックインするか」


 3人は車のトランクから荷物を取り出す。麻希薙と千咲は青いキャリーケースを片手に小さなカバンを肩から下げる。作見は大きめの鞄を1つ背負って、自動ドアを通った。


 中は焦茶色の木の床が広がり、少しばかり木材の匂いが漂う。

 

 「鍵もらってくるからフロアマップでも探しといて」


 「わかりました」


 麻希薙はチェックインしにフロントへと向かった。

 作見と千咲は、小さな棚に刺さったフロアマップを2つ取り、大きな木を囲む正方形の椅子に座りながら熟読している。


 「いらっしゃいませ!!」


 「あぁ、えーっと桐生で予約した者です」


            ◇


 「ここ9階まであるみたいですよ」


 「カラオケもある」


 フロアマップを見ながらぶつぶつと呟くように会話をしている2人は、設備の豪華さに心躍らせていた。


 「おーい、鍵もらってきたぞー」


 「ありがとうございます」


 帰ってきた麻希薙にお礼をしつつ、作見は手を出した。


 「なに? 何もやらんぞ」


 「えっ?」


 多くて3部屋、最低2部屋で予約をしていると思い込んでいる作見は、渾身の疑問が出た。

 流石に男女で部屋を別れるはずだと、作見はもう一度手を大きく出した。


 「俺の部屋の鍵は……?」


 その言葉に、麻希薙は3cm程の長方形の石に数字が刻まれたアクセサリーがついた鍵を一つ持って答えた。


 「3人一部屋だ」


 作見の背筋に衝撃が走る。はたしてそんなことがあっていいのだろうか。大人の女性1人に二つ上の先輩と同じ部屋で過ごすということは――あんなことやそんなことが、と都合のいい妄想が頭の中に広がる。


 「部屋行くぞ」


 「何にやけてんの? きもいぞ」


 先に歩き出す麻希薙の後ろでにやけながら立ち止まる作見は、千咲に頭をしばかれて我に戻る。


 「あの2人にそれは……ないか」


 関わった時間は少ないが、あの2人の本質を知っている。作見の脳内は桃色から徐々に暗くなっていった。


 諦めて2人の後を追う。


 3人はエレベーターに乗って4階へと向かった。宿泊する部屋は、一番右にある部屋だ。

 廊下は黄色混じりの赤い絨毯敷かれ、足が少し沈むのが感じる。本部9階のEXTRAが使う階の廊下と少し似ている。


 「ここだな」


 部屋の番号は408。焦茶色のドアに金ピカのドアノブを回すと、そこには海外リゾート感の漂う空間が広がっている。


 シングルベッドが2つ並び、その上には照明を守るようにプロペラが回っている。そして、ベランダに出ると湖が一望できる。


 荷物を置いて部屋の中を探検している3人は、この時本気で任務のことを忘れていた。


 「このお風呂ジャグジーありますよ!!」


 「テレビもついてる」


 お風呂はそこまで広くなく、設備に特化している。女性陣は色々物色しながら、水を出したりお湯を張ったりと入浴の準備をする。


 作見はというと、少し不安そうな顔をしながら外の景色を眺めながら黄昏ている。


 「俺……どこで寝るんだろ」


 部屋にベッドは二つ。見る限り作見の寝る場所はなかった。バルコニーの手すりに肘を置きながらため息を吐く。


 「何してんだー? 腹減ったのか?」


 たまたま気がついた麻希薙はベットに座って声をかけた。


 「俺の寝る場所って……どこですか」


 「あー、そういえば――」


 麻希薙は、フロントで言われたことを思い出す。


 「3人以上での宿泊の時は、畳のとこに布団敷いてくれるみたいだぞ」


 「よかった……」


 最悪の場合はソファで寝ようと思っていた作見は心の底から安堵する。1日くらいなら屁でもないが、1週間となると流石にきつかったのだろう。


 「よーし、全員集まれー」

 

 麻希薙の声かけにより、集まった3人はベッド横のソファに腰掛ける。


 「まずはこれを2人に渡しておく」


 と麻希薙が渡した物は、行方不明になったという老夫婦の写真だ。二人とも白髪混じりの黒髪に、女性の方は目元に特徴的な黒子がある。男性は短く斜めに線の入った傷跡が左頬に見える。


 間近に見れば、わかるくらいの特徴を持った写真だった。


 「この二人を探すのが今回の任務でしたっけ?」


 「それもそうなんだが――」


 作見のその疑問はもっともだろう。行方不明になった二人を探すだけなら、この3人がわざわざ出向く必要はないからだ。


 和雪は、これまでの経験からこのホテルに何かがあると悟ったのだろう。それは麻希薙も感じているが、断言することはできなかった。


 しかし、作見の疑問に千咲ははっきりと答えた。


 「宿泊日数を伸ばすなんてことは、あり得ない。ここは一泊でもかなりいい値段するからな。だから、間違いなく宿泊中に何かがあった。私らはその何かを調べるのが今回の任務ってことだ」


 作見の隣に座っていた千咲は、麻希薙の思っていたことも含めて全てを言ってくれた。


 「まあ、そうゆうことだ」


 「なるほど」


 作見は7日間も宿泊する自分たちは何なのか、と思うが触れるのはやめておいた。


 「一般の宿泊客も多いから、本格的に動くのは消灯時間が過ぎてからにする」


 「具体的にはどうするんですか?」


 「徘徊するしか思いつかないけど、千咲はどう?」


 「最初の数日は夜に徘徊でいいと思います。時間が迫っているなら、ホテルの関係者を問い詰めたりするか、聞き込みするか……とかですかね」


 千咲は腕を組んで頭を傾けながら答えた。

 一般の客にバレないように調べるのが、正直難しいところだが、任された任務に全力で取り組むしかない。


 「とりあえず、初日は遊ぶぞ」


 「え?」


 「ん?」


 麻希薙のその言葉は、後輩2人を硬直させた。


 この7日間の間は、普段日が落ちてからの任務は免除される。その分任された任務に集中するように、という計らいだ。


 だが、その時間を麻希薙は「遊ぼう」と言ったのだ。

 

 「1日くらい羽を伸ばしても怒られねーだろ」


 「6日で完遂すればいいだけですもんね」


 「本当にいいんですか?」


 女性陣はもう初日は休む気満々である。作見は反対の意を示すように問いを投げるが、二人に睨みつけられ、泣く泣く了承することになる。


 「ずっと詰めてても、しんどいだけだ。たまにはこうして楽しむことも大事だぞ」


 その一言は、先ほどの飄々とした様ではなく――訴えかけるような瞳で麻希薙は言った。


 「…………」


 その眼差しを向けられた作見は、納得する他なかった。


 その後、夕方まで部屋でゆっくりする。そして夕飯の時間になると、車を走らせて名物を食べに行った。


 帰ってくると、布団が一つ敷かれており、作見はすぐに飛び込んだ。幸せそうな表情で枕に身を委ねてそのまま眠ってしまった。


 「まだまだ子供だね〜」


 「私も少し眠くなってきました」


 千咲はあくびをしながらうとうとし始める。麻希薙はそんな二人を眺めながら、目尻を下げて静かに微笑んだ。


 「私に構わず寝てていいよ」


 「はい……そうさせていただきます」


 千咲は高級そうなベットに入って気絶するように眠った。疲れが溜まっていたのだろう。


 麻希薙は電気を消して、静かに部屋を出た。向かった先は1階にあるワインバーラウンジだ。


 フロントに利用することを伝えて、席についた。そして、そのまま消灯時間までお酒を楽しんだのであった。


            ◇

 フロントの奥――ホテルの関係者だけが入れる管制室で、ある4人が防犯カメラの映像を見ている。


 その4人が注目しているのは、ワインを楽しむ麻希薙だ。


 「4人でかかって勝てると思う?」


 「アルコールが入ってるとはいえ、そう簡単にはいかないでしょ」


 「EXTRAを舐めるな。ムウさんはそう言ってたよ」


 「そうだね。このまま様子を見た方が良さそう」


 鮮明な赤、青、緑、紫色の髪の女性4人は、麻希薙が部屋に戻るまで一度も目を離すことはなかった。

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