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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 2章:EXTRA

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53話:新たな難題

 ――ここは横浜。

 ある男は立ち並ぶビルに入り、エレベーターに乗って地下へと降りた。そこは、気が狂いそうなほど白く、不気味で、趣味の悪い一室だ。


 その白い空間に1人――中心に腰を下ろして、こちらを見上げる黒い青年がいた。


 「やあ、ダク。よく来たね」


 「…………」


 中心に立つ教卓のようなものにあぐらで座り込み、膝に肘をつけながら陽気に声をかけた。ダクは口を開かず、ダボっとしたズボンのポケットに手を入れて、黒い青年――ナイルの前に立った。


 「何で呼んだか、わかるよね?」

 

 ナイルの声は先ほどと違って重く、突き刺すような目つきで問いを投げた。


 「西の拠点の件か?」


 「わかってるじゃん」


 両者互いに引かず、見つめ合い、口を開くことなく――この空間から音が消え去る。そして、ため息をついたナイルが折れて口を割った。


 「言い訳を聞こうか、どうして誰も殺さず、拠点も破壊できなかったんだ?」


 今回ナイルがダクを呼んだのは、頼んだ西の拠点の破壊と新石司、柏木作見の抹殺だ。しかし、ダクはその両方を達成することはできなかった。


 「拠点にいたのは、ガキ2人だけじゃなかった」


 その言葉にナイルは眉を揺らす。


 「へぇ……それで、誰がいたの?」


 「確か……春山響。そう名乗っていたな」


 その名前を聞き、ナイルは大きく目を開いた。あぐらを解いて右足を伸ばし、左足を教卓に上げる。


 「なるほどね……生きていたのか……それでも、お前の敵じゃないはずだ」


 「ガキ2人に比べてマシな奴だったが、遊んでるうちに六要たちが帰ってきた」


 「それで?」

 

 たとえ六要が帰ってきたとしても、ダクなら問題なく対処できる。そう思っているナイルは、見つめる瞳を尖らせて向けた。


 「帰ってきた中に、流合永遠がいたんだよ。だから撤退した」


 「はぁぁ……まあ、それは仕方ない。お前と相性が悪すぎるからな〜」

 

 ダクの言い分に納得したナイルは、体の力を抜くように息を吐き、両手を後ろに突いて顔を上げ、真っ白な天井を眺めた。


 ダクは、自分の計画が狂い、打ちひしがれているナイルに冷たい視線を向けている。


 「一つ聞く。なぜこんな部屋にした?」


 この具合の悪くなりそうなほど白い部屋を設計したのはナイルだ。ダクはどうしても理解できず、ナイルの真意を知りたかった。


 「さぁ……気まぐれだよ。ただ、今の自分を見せつけたかったのか、反抗の意を見せたかったのか、俺にもわからない」


 ナイルの本能がそうさせたのか、納得する答えを得ることはなかった。そして、天を向いているナイルは顔を下げ、穏やかな口調で言った。


 「今回は許そう。特に頼む用事もないし、来年まで好きにしててくれ」


 「そうかよ……」


 ダクは呆れた口調で吐き捨て、とっととその場を立ち去った。


 静かになった部屋で、ナイルは再びあぐらに座り直し、眉間に寄せた皺を摘むように触る。

 仕方がないとはいえ、正直痛手だ。ナイルは目を閉じて、深く考え込む。


 「ウェン&レネコンビのミッション達成とムウの集めた戦力があれば、あとは作戦次第だな」


 ナイルの計算に多少の狂いが出たが、問題ない。この作戦が実行されるのは、まだまだ先の話だ。


           ◇

 名古屋に位置する大きなビル――そこには魔術師が存在する。外観は周辺に立ち並ぶビルと大きな差はない。差があるとすれば、魔力という生命力をオーラのように放つ力を纏っていることだ。


 そんなビルの8階に電話のベルが鳴り響く。8階に位置する技術部には電話はあるが、電話番号は設定されていない。


 ということは、電話がかかってくることはないはずだが、この電話にはある細工が施してある。この電話は警察に通報――つまり、110番された会話の内容を聞くことができる。


 それが、バネやシカバネ関連と断定した場合の連絡だった時は、警察側への連絡を途絶えさせ、技術部の人間が通報内容を最後まで聞くようにしている。


 そうすれば、警察はただの間違い電話だと思い込み、それ以上追及することはないだろう。その代わり、我々魔術師が、連絡者の事件を捜索することになっている。


 そして、今回の電話の内容は――明らかに不自然だった。会話の内容を聞いていた技術部は、警察に代わってその内容を深掘る。


 やはり、不思議な点が多かった。


 連絡を入れたのは30代前半の男性だ。その通報の内容はこうだ。


 1週間前に旅行に出かけた両親が、現在も帰ってきていない。3泊4日の予定だったが、7日が経とうとしている。

 行く途中で事故にあった可能性があるのではないかとう懸念もあったが、2日目にホテルの写真が送られてきている。


 そこから連絡は途絶え、現在に至る。


 特に目立った事故のニュースが流れていないことから、帰る際に事故にあったとも考えにくい。その両親が宿泊したホテルは、2年ほど前までよくニュースに取り上げられるほど、人気なホテルだった。


 「リレニアムホテルか……」


 技術部長である池は、ため息をつきながら青い髪かき上げ、座っている椅子に深く腰掛ける。


 「この件、どうされますか? 部長……」


 通話を担当していた部員は、部長である池に選択を仰ぐ。


 「私からEXTRAに報告しに行くよ」


 池は高そうな椅子から立ち上がって、9階へと向かった。エレベーターを降り、廊下の奥にある部屋の前に立つ。


 「失礼します!」


 3階ノックをして部屋に入ると、高級な机が目に入る。その奥には座り心地が良さそうで、なかなか値段の張りそうな椅子に座るリーダーの姿があった。


 漫画の単行本を両手にして、こちらを見る目はどこか嫌そうだった。


 「報告があります」


 「後にしてくれ。今いいところなんだ」


 和雪はある作品のクライマックスを読み進めているところだ。池の報告を聞いている場合ではなかった。


 「こっちのセリフですよ!」


 と池は声を荒げて、堂々と歩き出し、和雪が手にしている漫画を取り上げた。


 「あ、おい!!」


 「報告しますね!」


 池は引き攣った笑顔で和雪に話を聞かせる体制を作らせ、先ほど連絡のあった内容を細かく話した。


          ◇

 「なるほどな」


 「どうされますか?」


 「ホテルが良すぎて滞在を伸ばしてる線があってもいいだろう」


 「その可能性は低いでしょう。もしそうなら、何かしらの連絡があると思いますが……」


 「……」


 考えればすぐにわかることだが、和雪も寝不足だ。頭が回っていないと見て取れる。それに楽しみである漫画を奪ってしまったことにより、心なしか負のオーラが見えるかもしれない。


 「私は早急に手を打つべきかと……」


 池はかけている丸メガネを輝かせて提案する。


 「2人いや、3人。ホテルとなるとそれくらいの人数の方がやりやすいか……」


 和之は寝そべる勢いで椅子に腰掛けて、天井を眺める。


 「人員配置の変更はまだ融通が効きます」


 「なら、麻希薙と千咲にしよう」


 「2人でよろしいので?」


 「後1人いれば完璧だが、んな奴は……あ、」


 和雪はここでちょうどいい人材を思い出した。口元が少しにやけてしまうほどに、適切な人材を。


 「どうかなさいましたか?」


 急ににやけ出した和雪の表情を気持ち悪いと思い、引き攣った表情で、池は会話を続ける。


 机の引き出しから紙を取り出し、その紙に今回ホテルに向かうメンバーの名前を書き記す。


 「このメンバーに声をかけといてくれ」


 和雪はそう言って、池に紙を渡すと同時に取り上げられた漫画を奪った。


 「あ、はぁ……承知しました」


 池はメンバーの名前を確認した後、和雪の部屋を跡にした。そして、そのメンバーに声をかけるべく、エレベーターに乗って12階のボタンを押した。


 この時は、このホテルでの事件が――想像を超える事態になるとは、誰も思っていなかった。

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