52話:魔術師のリーダー
魔術師として生きていくことを決めた永遠は、阿月と握手を交わす。互いの手が接触したことで、永遠は阿月の肉体時間を元通りに戻した。伸びていた髭は綺麗さっぱりなくなり、目元の皴もなくなる。
「うおっ」
急激な体の変化に情けない声を出して、阿月は驚く。
「おっほん......永遠の親御さんと友達は、ひとまずこちらで引き取らせてもらうけど、いいかな?」
「はい、お願いします」
その会話を聞いていた迅は、黒い手袋をはめ、永遠の両親に触れる。元々黒い手袋をはめていた阿月は連に触れて本部へと送った。
◇
その後――迅の瞬間移動で本部に帰ってきた3人は、まず技術部に向かい、学校の手続きや両親の弔いについてを技術部に任せた。
そして、ひとまず永遠の宿泊する予定の8階に向かう。エレベーターで8階に着き、降りたのは阿月と永遠だけだ。迅は休息のため、エレベーターを降りず、自分の部屋がある14階のボタンを押した。
「永遠はひとまずここで暮らしてもらう」
「ここですか?」
エレベーターを降りると、長い廊下にいくつもの襖がある。とても宿泊施設とは思えない見た目に永遠は戸惑いが隠せない。
「ここには親を失った人が大勢暮らしている仲良くするんだぞ」
「…………」
永遠はその言葉に自分だけが不幸の中心にいるのではないと、少し俯きながら再認識した。
すると、右斜め奥の襖がそっと開き、顔だけ出して覗き込む少年がいた。その少年は濃いクリーム色の髪をしており、阿月の髪色とよく似ていた。
「阿月さん」
「ん?」
覗き込む少年の視線が気まずかった永遠は、阿月に声をかけて少年の方を指で指した。
すると少年は顔を顰めて、何かに耐えている様子だった。まるで爪先で立ち、何かに押されているのを堪えているようにと、永遠は思った。
少年は堪えきれずに倒れ込み、後ろから藍色の綺麗な髪をした少女が堂々と出てきた。
「おいおい何やってんだ……」
と阿月は掌を眉に当て、ため息混じりに呆れを吐いた。
「なのが押すから……」
「お兄ちゃんがウジウジしてるからじゃん」
少女は文句を言いながら、倒れる少年のケツを踏みつける。会話を聞くに、2人は兄弟なのだろう。
そんな2人の声に惹かれて、廊下に並ぶ襖から、こちらを覗き込む目が多くなる。そんな目を気にせず、皆に聞こえる声量で永遠は、2人の前で名乗りをあげた。
「初めまして、流合永遠――12歳です」
「西早星一! 俺も12歳だ!!」
星一は永遠の自己紹介を聞き、飛び跳ねて立ち上がり、嬉しそうに自分も名乗った。
これが――僕と星一の出会いだった。
◇
「永遠くん、永遠くん、……永遠くん!!」
「おっと!?」
ぼーっとしていた永遠は、作見に何度も呼ばれてようやく反応を示した。隣を見ると、心配した表情で作見が焦っている。
「ごめんごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「もう出ますか?」
まだサウナに入って5分と言ったところだ。正直まだまだ入っていたいところだが、後輩を心配させるわけにはいかない。
「そうだね。僕は先に出てるから、作見は好きなだけいていいよ」
永遠はそう言い残して、サウナの扉を開けた。すると、永遠は大きく目を開けて驚いている表情だった。作見にはなぜそんな表情をするのかわからなかったが、永遠は道を譲って、ある人がサウナに入ってきた。
「作見! いい話が聞けると思うよ!!」
どこか嬉しそうにそう言って、永遠はサウナの扉を閉める。中に入ってきたのは、少し髪の長い黒髪の男性だった。濡れた髪の毛を上げ、その恐ろしく鋭い目つきは、見ただけで漏らしてしまいそうになる程の威圧感がある。
「あー、お前が例のやつか……」
男性は腰に巻いた白いタオルを椅子に敷き、腕を組みながら作見の隣に座った。
「あのぅ……あなたは? それにいい話って?」
「いい話? それは知らん」
「えーっ……」
滲み出ている強大な魔力――間違いなく只者ではない。男性は赤い目を向けて、きっぱり言う。
作見は困った様子でもじもじしながら、どうすればいいかわからない。
すると、男性の方から口を開いた。
「柏木作見……零花のやつに弟子入り志願するも相手にされなかった。ってのは聞いた」
「はい……でも、俺は何度でも頼みまくります!」
「ふっ……面白いじゃねえか、お前。それにそれは正解だ。今の零花にはそれくらいがちょうどいい」
男性は息を漏らして軽く笑い、左足を曲げて足を組む。
「そうなんですか?」
「ああ。少々前に、ちと厄介なことがあってな……それきりあいつは自分を見失ってる」
「厄介なこと?」
「まあ、それは俺の口からは言えない。それに、今は永遠がついてるんだろ?なら、まずはそこで色々学べ」
「は、はぁ……」
男性は立ち上がって、サウナストーンの前に立つ。
「永遠くんはすごくいい人です。一回厳しく言われましたけど、甘えすぎちゃう気がして……」
「そりゃ、あいつの座右の銘は『人に優しくあれ』だからな」
椅子に敷いていた濡れ濡れのタオルを畳み、男性は石の上で持つ。作見は「まさか!?」と思い立ち上がる。
「お前、もう結構入ってるんだろ?そろそろ出とけよ」
「そうします」
そう言って作見は扉を開けて、サウナを跡にした途端、ジュワーーという音が室内で響き渡る。タオルを絞って石に水をかけたのだろう。
サウナを出てすぐ右手に水風呂がある。作見は桶を持って水を掬おうとすると、水風呂に何かが浮いているのが目に入る。
「えっ…………」
そこに浮いていたのは、気持ちよさそうな顔で、大の字浮いていた永遠だった。作見は思わず、目が点になって固まってしまう。
「おかえり〜」
「何してんすか」
「ちょっとのぼせてねー」
永遠は水風呂から上がり、作見もある程度体を冷やした。そして、最後にシャワーを浴びて浴室を出る。
そして、作見は着替ながら――サウナに入ってきたあの男性について、永遠に質問する。
「永遠くん、サウナに入ってきた人誰ですか?」
「えっ……あの人名乗らなかったの?」
白いバスタオルで頭を拭きながら、永遠は目を細めた。
「そうですね。普通に話して終わりました」
作見と永遠はパウダールームに行って、座りながら髪の毛を乾かす。2人は前にある鏡を見ながら話を続ける。
「あの人は桐生和雪。EXTRAのリーダーにして、全魔術師頂点に立つ人だよ」
「………………えっ?」
「あれ? 案外反応薄いねって…………」
あの人の正体を知った作見は、ドライヤーを自分の顔面に向け、風を喰らいながら動かなくなっていた。
「おーい」
永遠は作見の目の前に手をかざしたりしてみるが反応がない。このままだと、前髪だけが乾いて変になってしまう。
自分が使っていたドライヤーの線を伸ばし、永遠は作見の後ろに回って髪の毛を乾かしてあげる。
「うおっ!」
「あ、戻ってきた」
作見が気がついた時には髪の毛はもうほとんど乾き終わっていた。洗面台に置いていた、ピンクのヘアゴムを握ると、鏡越しに永遠は気になっている面持ちで見ていた。
「おほん、あの人――和雪さんはすごい人だったんですね。まあ凄そうでしたけど」
「そうだね。ここにいれば、また何度か会うと思うよ。それより、ちゃっちゃとご飯食べて、寝よう」
「そうですね」
2人は戦闘フロアを降りて、フードコートで食事をして、睡眠の時間に入る。
そして、再び――この時間がやってくる。
「今日も全力でかかってきな!!」
「はい!!」
室内運動場で対峙する作見と千咲。今日は逃げずに永遠も出席して、麻希薙の隣に座っている。
そして、もう1人――姿を消して、稽古を覗きにきている人物もいた。




