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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 2章:EXTRA

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45話:永遠の魔術

 まるで海のように透き通った青い短剣と鮮やかなエメラルドグリーンのような短剣を腰と左足の付け根に下げた鞘に戻した永遠は、静かにシカバネを見つめる。


 穴の空いた腹に切断された腕、地面に広がる血の海は人が命を保つレベルの量ではなかった。


 「あ、、あ、」


 最後の力を振り絞ったように唸ったシカバネはその場で倒れ込み、天を向いて絶命する。


 永遠は左手に白い手袋をはめてそっと亡骸に触れて転送した。


 「永遠くん!!」


 気を失った女性を抱えた作見は心残りがありそうな表情で訴える。


 永遠は作見に真剣な熱い眼差しを向けて、


 「よくやった! あれは作見の勝ちだよ」


 と微笑んで言った。


 思いがけない永遠の反応に作見はポカンとして、数秒フリーズする。


 「いや!? 俺は——」


 「目を離さなければ、その女性が被害に遭うことはなかったって? それは確かに失敗だけど、作見はその失敗を理解した。僕を頼った。女性も無事だ。それがこの結果を生んだんだ」


 気になって近くに来ていた永遠は作見とシカバネの戦闘を一部始終見ていた。改善できる点はあるが、この結果を作見の選択が導いたことが何より嬉しかった。


 しかし、作見自身は納得がいかない。結果だけでなく、女性を危険に晒した、ちょっとの油断で目を離した、この仮定があるからこそである。


 作見は俯いて落ち込んでいる。永遠と目を合わせることができない。


 「納得がいかないって顔だね」


 「はい……」


 「なら、君は一人で魔術師やってるのかい?」


 その言葉に作見はハッとして、前を向いた。


 「僕たちは皆んなで魔術師だ。だから、協力し合ってこの世界と戦っている」


 「………」


 作見は大事なことを見落としていた。自分がやらねば、自分ならやれた。これまでの失敗がその思いを強くしていた。


 永遠の言葉はそれを正面から否定する。人それぞれ得意不得意はある。今回作見は自分の力が及ばなかったから、助けを求めた。


 諦めなかったからこそ、その穴を埋める仲間がいたからこそ、この未来がある。


 作見は女性を地面に寝かせて拳を握り、己の頬を殴った。そして、まっすぐな目で永遠を見つめる。


 「永遠くん、俺は勘違いしてたみたいです」


 その言葉に永遠は少し微笑んだ。


 

 俺が弱いから人を助けられない。ずっとそう思ってた。だから強くならなきゃ、その考えは間違ってるとは思わない。だけど、俺はずっと一人で戦ってたんだな。


 勝てないはずだ。傲慢すぎた考えだ。一人で解決できないと喜べないなんて、誰も信用してないのと同じだ。


 1人で戦ってるんじゃない。俺たちは皆んなで魔術師なんだ。



 「互いに穴を埋め合う。それが魔術師です!」


 「僕から言うことはもう何もなさそうだね」


 永遠はしゃがんで地面に掌を置いた。すると、ひび割れた地面が何もなかったかのように元通りに戻る。

 

 「え!?」


 作見は元に戻った地面や煉瓦を見て思わず声を漏らす。


 「そういえば見たことなかったっけ?僕の魔術」


 「な、ないですよ」


 目にしても永遠の魔術がどのようなものなのか、作見には見当もつかない。


 「作見の怪我も戻せるけどどうする?」


 「いえ、このままで大丈夫です」


 「わかった」


 この失敗を無くさないと言う意味も込めて、作見は自身の怪我を治さなかった。その回答に永遠も少し嬉しそうな声色で返す。


 永遠はしゃがんで意識のない女性に触れて、掴まれた首の痣を元に戻す。


 再び永遠の魔術を見た作見は気になりすぎて聞いてしまった。


 「永遠くんの魔術って……その……」


 「気になるかい? それじゃあ、見学してて」


 と女性を玄関に寝かせた後、2人はさらに人気のない場所へと向かった。


 周囲に遮蔽物は無く、ただなんでもない広い空間がそこにはあった。唯一目につくのは地面に散乱するゴミ達だ。


 ペットボトルやプラスチックのゴミに段ボールの残骸、見てて気分の良いものでもなければ匂いも酷い。


 何故このような所に来たのか疑問に思っていたところで、永遠は教えてくれた。


 「すぐ終わらせるから作見は見ててね」


 と肩を伸ばしながら身体をほぐしている。


 「は、はぁ〜?」


 何をするのかはわからないが、言われた通り少し離れて、捨てられている大きな冷蔵庫の上に腰掛ける。


 「さて、」


 永遠はポケットから取り出した携帯を操作する。すると永遠の目の前に青緑っぽい光が出現する。


 そして、その光の中から1人の女性が現れた。


 布地の赤い服に桃色のスカート、前に下げたエプロン姿を見るとまさに主婦といった感じだ。そしてもう一つ大きな特徴が一目でわかる。


 「魔力が揺らいでいる……」


 作見は座りながらそう呟いた。そして胸が高鳴る。これから見られるEXTRAの――永遠とシカバネとの戦いに。


 永遠は腰に下げた短剣を抜かず、右腰に下げた青い短剣を抜いて構える。突如出現したシカバネも逃げることはできないと悟り、魔力を練り上げて戦闘態勢に入る。


 シカバネは、踏み込んで一気に距離を詰める。右手の爪を突き立てて永遠の顔面を捉える。


 奴の爪が届く前に、永遠は素早くシカバネの顎を蹴り上げた。


 「くっ……」


 後ろに下がったシカバネは何とか足を地面に引きずらせて倒れるのを防ぐが、瞬く間に永遠はシカバネの腹部へと蹴りを入れる。


 「がはっ……」


 シカバネは鈍い声を出しながら後方のゴミ山に吹っ飛ぶ。


 「くっ、はぁぁ!!」


 汚いゴミに埋もれながら息を整えたシカバネは魔力を放出して、身体にのしかかるゴミ達を吹き飛ばした。


 その様子を静かに見ていた永遠は、一瞬でシカバネの背後に回って肩をトン、と叩く。


 「速い!!」


 回り込んだ永遠の動きを見ていた作見は声を出して驚きつつ永遠の魔術を考察するが、すぐに答えが出る。


 永遠に肩を持たれたシカバネは次第に自分が変化していっていくのに気づく。


 「ッッ!? なんだこれ!?」


 手や顔に皺が出始め、黒く長い髪の色が抜けて次第に白くなっていく。腰も曲がり始めて1人で立つのが難しくなり、息が切れ始める。


 だんだんと体の肉が落ちていき、皮膚から骨が浮かび上がる。歯も抜けていき、その様子はまるで急激に老いているみたいだった。


 「さよなら」


 そう告げた永遠は青い短剣でシカバネの首を振り切った。


 体と首が離れ、その場でシカバネは倒れ込む。そして、永遠は白い手袋で遺体を本部へと転送した。


 「ふぅ……」


 やり終えた永遠は青い短剣を鞘にしまったところで作見が駆け寄ってくる。


 「永遠くん!! 今のって……?」


 予想が的中していれば、作見がこれまで見てきた魔術の中でも一番ぶっ飛んだ能力だと、少しの怖さと味方で良かったと言う思いが強く安心する。


 「僕の魔術は触れたモノの時間を進めたり戻したりすることができる」


 「ははは……予想通りですけど、強すぎませんか?」


 「そんなことはないよ、思ってるほど万能な魔術でもないからね」


 永遠の魔術は――時間。

 触れたモノの時間を進めたり戻したりすることができる。以前作見の傷を治したのも、作見の肉体の時間を少し戻したからである。


 では、時間が経てば傷が元に戻るのではないか、ということになるのではという疑問があると思うがそうはならない。


 未来は選択によって変わる。作見が重傷を負うこともあれば、傷を負わない未来もある。永遠の魔術は永遠の望む未来へと導くことができる。


 では死人の場合はどうなるのか。どうすることもできない。魂を失った肉体に過去も未来もない。故に死者を蘇らせたりすることはできない。


 発動条件として対象に触れなければいけないが、これに自分は含まれない。永遠自身を若くしたり、程よく成長させたりなどはすることはできず、不老ということではない。


 「でも、EXTRAの凄さを実感しました。俺なんか足元にも及ばないですね……」


 まだまだ上には上がいる。永遠より強いと言わせる千咲も相当な実力者だと、作見は俯きながら再認識した。


 「なら、任務が終わってから少し指導してあげようか?」


 永遠のその言葉に作見は顔を上げてキラキラした眼差しで、


 「マジですか!?」


 と嬉しそうに言った。


 「マジマジ〜」


 「じゃあ、早速帰りましょうか!」


 もう時期日の出の時間が迫っていた。2人は早めに切り上げて本部へと帰還する。

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