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【情念の画家】地味な僕のフェロモンと筆ペンで、彼女たちの理性が限界突破する件  作者: 船橋ひろみ
第四章:黄昏の職人と、捏造された昭和

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第48話:捏造された箱と、ブリキの偽装

引火の危険があるから、塗装後はしばらく排気してからヒーターを使うというのがこの作業場のルールだ。


銀さんは、この排気している時間を利用して、今後の工程を俺と意識合わせをしようというのである。


保護ゴーグルを外しながら、銀さんの隣に座って、指示を仰ぐ。

銀さんがスマホで見ていたのは、ブリキのオモチャたちとゲーム機の写真だ。


「ブラックまで塗ったな?……よしよし。

いいか、ブリキのオモチャはこんな感じだ。

だから、多少塗装にムラがあっても逆にリアルに見えるから、気にするな」


「はいっ!」


画面をスライドさせると、ゲーム機の写真が表示される。


「この箱みたいな部分は上下とも同じ色のキャンディ塗装をしよう。

時間もないから、目を当てる部分はマスキングして光沢ブラックだな。

ゴムっぽくなる」


俺は、一つ気になっていた事を銀さんにぶつけた。


「あのう、僕がヤスリをかけるときに、アルミテープ出してましたけど、あれは一体……?」


「これだ……ブリキのオモチャには『ツメ』がある。

そいつを表現するのさ」


銀さんはニヤニヤしながら、再びブリキのオモチャの写真を見せる。

コレクター向けのサイトにある写真だ。

そこにはレトロなロボットのオモチャが表示されていて、結合部分が拡大されている。

ブリキを合わせた部分は、お互いの部品からツメのように飛び出た板を、合わせる部品にある穴を通し、折り曲げて固定させるのだ。


「アルミテープは一枚じゃ薄いが、重ねればそれっぽくなる。

パーツが合わさったところに切って貼れば、いかにもブリキをあわせたようになるだろ?」


この人は、保土ヶ谷さんが見つけられないように、このゲーム機を擬態させようとしている。

俺の考えていたケンカの勝敗は『完成させる』ことだったが、銀さんは一段上で『見つけられないように、横丁に溶け込ませること』なのだ。


「じゃ、俺は先に塗ったヤツにシルバーを吹くかな」


換気もそろそろいいだろう、と銀さんはヒーターを出してきて、光沢ブラックのパーツを炙り始めた。

その間、俺は残っていたアイシェードパーツにマスキングテープを貼る。

優先的にやらなくてはいけなかったとはいえ、コーヒーでのエイジング塗装で時間を食ってしまった。


できる限りの時間で、保土ヶ谷さんの発注どおりに「横丁に溶け込ませる」ようにしないと。


本当はひと思いにゲーム機に吹いてしまいたいが、もし動かなくなって、保土ヶ谷さんたちに文句をつけられても(しゃく)だ。

だから、外装を外して塗装を施すことで、もとのとおりゲームが出来るようにするのだ。


もし、これが横丁の年代に実在したとして、昭和の少年たちが覗きこんだゲーム画面は果たして『ミライ』を感じさせるだろうか?


俺はそんなことを思いながら、マスキングテープをカットしていく。

ヒーターが止まり、コンプレッサーの振動音とブシューという音が響き始めた。


シルバーの塗装が始まった。

俺も防毒マスクと保護ゴーグルをかけて、塗装スペースに滑り込む。アイシェードはもともと黒いけど、ブリキのオモチャにプラスチックを感じる部品は似合わない。

銀さんのいうとおり、ゴム製の部品に見せる必要がある。


ハンドピースにブラック塗料を装填して吹き付けていると、ドアがノックされた。

銀さんと顔を見合わせると、事情を察したのか「ちょっと待っててくれ」と銀さんがドアに声をかける。


その声を聞いたか聞かずか、ガチャッとドアが開いたが、すぐにバタンと閉じた。

部外者にはこの作業場の塗料臭は強烈だ。


ただ、開いた一瞬、岩瀬さんのような人影が見えたが、気のせいだろうか。


「早かったな……灯、ブラックを塗り終わったら、俺のシルバーの続きをやってくれねぇか?」


うなずく俺に、銀さんはマスクも外さずに、ドアに向かった。

「悪い悪い」と言いながら作業場の外に出て行く。


何回か重ね塗りしたシルバー塗装が終わった頃、銀さんは印刷されたボール紙を抱えて戻ってきた。

乾燥台に乗った銀色部品を見て、満足そうにうなずくと、俺に手招きする。


作業机に並んだボール紙を見て俺は思わず「あっ!」と声をあげた。


『ミライ・スコープ』の外箱だ。


たぶん、昭和の学習雑誌を元にしたであろうレイアウト。

盛り上がっている小学生の子どもたちが劇画タッチで描かれているばかりか、ご丁寧にナナメ文字でアオリ文句がバシバシと印刷されていた。


『21世紀の景色が見える!』


『NASAが認めたニュー・サイエンス!』


『キミの視界がコンピューターになる!』


『キミだけに見えるミライをのぞこう!』


そして、『応募者全員プレゼント ミライ・スコープ』と赤と黒でレタリングされた文字。


しかも、少年たちが覗いているのは双眼鏡風の物体で、ゴーグル型のゲーム機と全く違う。

俺が昭和の少年だったら「箱のモノと違うよ!」と泣いてしまいそうだ。


あまりの怪しさに絶句していると、ニヤニヤしている銀さんが俺に話しかけた。


「あの嬢ちゃん、仕事が早くて助かるわ。

よし、灯、さっきのコーヒー塗料を軽くこのボール紙にかけろ。

『アンティークショップから調達しました』って感じにするんだ。

その間、俺がシルバーを炙っておく」


「はい。そういえば銀さん、シルバーの上にどのクリアーカラーを重ねるんですか?」


作業に夢中で気がつかなかったが、最終的に何で仕上げるのだろう。

きっと俺に仕上げを任せてくれるだろうから、ちょっと聞いておきたい。


「ああ、もう決まっているぞ。昭和って言ったら、コイツじゃねぇか?」


銀さんは棚にある塗料缶を指し示すとニヤリとした。


そうか、その色か。

俺は大きく頷いた。



夜にさしかかった頃、銀さんのガラケーに小杉部長から着信があった。


「灯、そろそろ潮時だ。

ソイツを持って報告に行け。

壁はキャストのヤツらを借りて運ぶから」


銀さんが小杉部長に状況報告しているのを聞きながら、俺は完成した『ミライ・スコープ』を丁寧に紙に包み、柊珈琲店の不織布トートバッグに入れ、コンテナハウスの事務局に向かった。

途中、軍手をはめたハチさんたちとすれ違う。

『困った時はお互い様』と笑った柏木さんの優しい笑顔が思い浮かぶ。


たどり着いたコンテナハウスは、大半の人が帰って静かだったが、明日の来訪を控えた小杉部長のデスク周辺だけは賑やかだった。


保土ヶ谷さんが歩き回りながら、どこかに電話しているし、小杉部長も自席でweb会議中のようだ。


俺が近づくと、部長はヘッドセットを外し、


「報告は大船さんにしてくれないか。

おーい、大船さん、彼の報告、確認しといてくれ……

あ、失礼いたしました。それでですね」


退屈そうにノートパソコンで仕事をしていた大船さんは「はぁい」と言って書類のファイルとカバンを抱えて、俺を連れだって事務所を出た。


スイスイと通路を抜ける大船さんの後に続いて、問題となった壁に向かう。

たどり着いた時は、ちょうど設置が終わった時だった。

大船さんは、キャストさんたちに会釈をしながらスマホでカシャカシャと写真を撮り、


「はい、確かにエイジング出来てますね……

確認しました」


書類入れから報告書類を取り出して、ポンとハンコを押した。


「次はオモチャ屋さん……でしたよね?」


「……は、はいっ!」


上ずった声で返事をしながら、『ミライ・スコープ』の入ったトートバッグを抱え直して、若手社員の後を追う。

【担当:大船栞(モール運営事務局/若手社員)】

「あら、持ってきたのね。

……ぷっ、何これ。『ミライ・スコープ』?

NASAが認めたニュー・サイエンス?

よくやるわね、あなたたち。

いいわよ、中身なんて詳しく見ないわ。

だって、これ以上仕事増やしたくないもの。

……ハンコ、押しとくわね。

これを持って、明日の会議で保土ヶ谷さんの顔色を見てみなさい。

次回、第49話『完璧な承認と、仕掛けられた罠』ハンコ?押しましたよ。発注通りですから。

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