第14章 それぞれの未来ー1
遠くからクライス王子に物凄い形相で睨み付けられて、ハーディン侯爵は思わず身震いをした。
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侯爵は先程までは誇らしげに貴賓席に座っていた。何せ彼の娘が主席でこの誉れ高い学園を卒業したのだから。
それに間もなく娘は第二王子と婚約することになるだろう。そうすれば王家と親類になれるのだ。こんな素晴らしいことがあるだろうか。
『近頃我が家は色々とついていない。不運続きだ。
最近我々夫婦の体調が悪く薬代がかかる。もっと効く薬を調合しろと薬師に命じれば、生意気にも本来薬などいらない。
贅沢な食事を止めて散歩でもすれば時間がかかっても良くなると言いおったのでクビにしてやった。
しかしその後雇った薬師も結局同じようなことばかり言う。こうなったら王家の薬師を派遣してもらうしかない。
跡取りの嫡男が先々月王城から地方の役所へ飛ばれた。些細な失敗を何度かしたくらいでふざけた話だ。
息子を飛ばした上司よ、後で吠え面をかくぞ。王子妃の兄をそんな目に遭わすとは。
それは息子の嫁にも言えることだ。妻ならば夫が苦しい時こそ側で支えるべきなのに、娘達だけを連れて実家へ帰ってしまった。
そんなに地方が嫌なのか? お前の実家の領地はもっと田舎じゃないかと言ったら、深いため息をついて、都会とか田舎とはどうでもいい。ただ人として扱われたいだけだ…とわけのわからないことを言って出て行った。
まあ、跡取りの孫はいるから良いか。あんな田舎の伯爵家の娘よりもっと良家から後添えをもらえばいい。何せ我が家は王家の縁者になるのだからな。
それにしても分家した次男や他家へ婿入りした三男も滅多に侯爵邸には顔を見せない。一度きちんと注意しなくてはならないな。
それに反して嫁いだ娘達は年がら年中母親の見舞いだと称してやって来ては、我がままし放題で鬱陶しい。そろそろ真剣に出禁にしてやろうかと密かに考えている。
居心地がいいからと、もし離縁でもされて戻って来られても困るからな。
全くもって、レイラ以外は出来が悪くて困ったものだ。
友人だったカーティエ伯爵家とはいつの間にか疎遠になっていて、半年前にとうとう共同経営してた事業から手を引かれて、正直経営が厳しくなってきている。
しかし王家の親類となれば、新たな共同経営者もみつかかり、今より羽振りがよくなることは必然だ。
以前は余りものだなんて思っていたが、レイラは大した金星だったわい!』
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『だが、なんだかおかしいぞ。
せっかく第二王子殿下が娘に話しかけてダンスに誘っていたみたいだったのに、娘は別の男の手を取って殿下から離れて行くぞ。何でなんだ!
ああ! 殿下が私を凄く睨んでる! レイラ、お前は何をしてるんだぁ〜! その男は一体誰なんだ!
しかもその男と三曲も一緒に踊ったぞ! 何を考えているんだ!
殿下に、他の王族の方々に、貴族達に誤解されるぞ!』
レイラが三曲目を同じ男性と踊り始めた時、ハーディン侯爵は娘の所へ行って男と引き離したかった。
しかし学園の行事は学生主体であり、父兄が口や手を挟むことは禁じられている。法的拘束力がないからこそ、それを破ると却って社会的影響が大きい。
侯爵は歯ぎしりしながら娘を睨みつけていた。そんな父親の気持ちも知らずに娘はとても晴れやかで楽しそうに踊っていた。
相手の男も蕩けそうな笑みで娘を見つめている。確かに立派な体躯をして、王子殿下に負けないほどの美丈夫だ。
ダンスの腕前も王子殿下より数段上で、娘とはとても息が合っていたが、それが余計に侯爵を苛立たせた。
今日彼の妻は体調が悪く、この式には参加していないが、これは寧ろ運が良かったと侯爵は思った。こんな場面に遭遇したら、血圧の高い妻は倒れていたことだろうと。
とにかくパーティーが終わったら娘のところへ行き、男の素性を聞き出して責任を取らせ、殿下に謝罪をさせなければならない。
同じ相手と三回ダンスを踊るということは、将来を共にすることだという常識もない男には罰を与えなければならない。侯爵は怒りを抑えられなかった。
ハーディン侯爵はジリジリしながらパーティーが終わるのを待った。
しかし、バーティーが終了した途端多くの人々が移動し始めて、彼は娘の姿を見失った。
そしてその日を境に娘と会って会話をすることはできなくなった。いや、これまでも彼が一方的に命令をしていただけで、一度たりとも会話をしたことなどなかったのだが。
娘は既にかつて友人だったカーティエ伯爵家の嫡男のノーランの妻になっていて、ハーディン侯爵の籍から抜けていた。
それを知った侯爵は教会へ結婚の無効を訴えたが、当然正式な手続きを踏んだ上の婚姻だったために認められなかった。
そして司祭長から冷たい目でこう言われた。
「神が許したこの結婚にまだご不満があるのでしたら、保証人の方に直接おっしゃったらどうですか」
「ええそうですね。親の承諾も得ていない結婚の保証人になるだなんて、きっと非常識でろくでもない人間なのでしょう。
そいつらを訴えて慰謝料を請求ることにしますので、是非とも名前を教えて下さい」
侯爵がこう言うと、司祭長は瞠目した。それから更に冷ややかな目をして、ハーディン侯爵に最後の審判を下したのだった。
「カーティエ伯爵家の嫡男のノーラン殿とレイラ嬢の婚姻の保証人になられたのは、ウェスティン公爵夫人で初の女性外交官でもいらっしゃるケイト様。そして、もう一方は王妃殿下のマグリット様です……」
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その後ハーディン侯爵は不敬罪で取り調べを受けた。その結果投獄はされずに済んだが、伯爵に降爵された後に隠居させられた。
新たに当主になった嫡男も、妻に逃げられるような色々と問題のある人物だったので、今後のハーディン家がどうなるかは不透明だった。
しかしレイラにとってはそんなことはどうでも良かった。彼女がハーディン家の一員であったことなど一度もなかったのだから。
今の彼女にとって大切なのは夫ノーランと、彼の家族、そして彼女をいつも応援してくれた友人達や人生の先輩方だけだった。
ざまぁは苦手で、せいぜい微ざまぁを書いているのですが、今回、父親の微ざまぁが珍しくスムーズに書けました。
読んで下さってありがとうございました!




