まだいける
臨時編成された小隊の隊員たちは、全員が民兵上がりの二等兵から上等兵で構成されていた。
雨の降る出撃直前の待機所で、私は彼らを見回した。
頭に巻きつけた白い包帯からはすでに赤い血が滲み出しており、顔色は土気色をしている。そんな生ける屍のような私の異様な佇まいに、民兵たちは怯え、息を呑んで体を硬くさせていた。
「……いいか、よく聞け」
私は感情の抜け落ちた声で、彼らに最後の指示を与えた。
「もし私が途中で倒れて死んだら、即座に戦闘を中断し、戦線離脱を本部に報告して基地へ戻れ。自分の命を最優先にしろ」
あまりに淡々と死を語る私に、隊員たちが戦慄するのが分かった。
「基地へ帰還するための神力は必ず温存しておけ。余裕を持って退却しろ。……以上だ」
死ぬのは私一人でいい。これ以上、誰かを道連れにするつもりはなかった。
冷たい雨が打ちつける暗い空へと飛び立ち、前線へと向かう。
雨粒が全身を叩く感触の中で、私はあの日の記憶を思い出していた。
心の準備すら許されなかった、あの日。
士官学校は絶対的に安全な場所だと誰もが信じ切っていた。だからこそ、不意を突かれた同期や仲間たちは抗う術もなく、次々と命を奪われて犠牲になったのだ。
それに比べたら——最初から死地だと分かっていて、武器を手に戦える分、今の状況なんてどれほど「楽」なことだろう。感覚が完全に麻痺しているのを自分でも自覚していた。
前線に到着すると同時に、巨大な「ヤツ」の群れが視界を埋め尽くした。
「右翼、援護射撃! ターゲットの意識を散らせ!」
絶叫に似た指示を飛ばしながら、私は先陣を切って突撃した。
折れた左腕の激痛と、頭部からの出血による視界の眩みを神力だけで力ずくで押し殺す。限界を超えて神力を練り上げ、両刀の鋭利な閃光でヤツの装甲を破砕する。
死角からの攻撃を紙一重でかわし、そのまま急所に神力を叩き込んだ。
黒い体躯が爆炎を上げて海へと叩きつけられる。まずは1体、撃破した。
「……はぁっ……はぁっ……!」
口から吐き出される息は荒く、冷たい雨に混じって頬を伝う血が顎から滴り落ちる。
壊れかけた身体を無理やり動かしながら、私は狂気を含んだ瞳で次の敵を見据えた。
これなら……まだ行ける……! まだ、戦える……っ!
絶望と死の予感に支配された空で、私はただ惨劇の記憶を打ち消すように、破滅的な戦いを続けていた。




