死の予感
作戦室で臨時小隊長の指令を受け取った私は、相原先輩たちの待つ待機場へと足を進めた。
私が歩いて姿を現した瞬間、相原先輩が弾かれたように立ち上がり、悲鳴に近い声を上げた。
「小早っ……! 大丈夫なの……!?」
至極真っ当な反応だ。頭部の大きな失血に加え、左腕の骨折。神力で無理やり痛覚と感覚を押し殺して立っているだけで、本来なら激しい貧血とショックで動ける状態ではないのだから。神力を少しでも切れば、その場に崩れ落ちるだろう。
「……見ての通り、大丈夫ですよ」
努めて平静を装い、いつものように微笑んでみせる。
「大丈夫なわけないでしょ……! 顔が真っ青じゃない……!」
「あぁ……やっぱり顔色までは隠せませんか? 」
自虐的に微笑み、言葉を続ける。
「まあ、顔色が悪いのはいつものことです。戦闘中は神力で無理やり抑え込んでいますから問題ありません。……大丈夫です」
これ以上追及させないように会話を遮り、私は手にしていた臨時小隊の編成指示書を相原先輩へ差し出した。
「これ……これから出撃するの……?」
「はい。臨時でこの小隊の小隊長を務めてきます。私以外は全員援護手ですし、錬度も高くて上等兵レベルの民兵ばかりです。どこまでやれるかは分かりませんが……」
「……無理だけは、しないでね。お願いだから……」
消え入るような声で訴える相原先輩に、私は小さく頷いた。
「ありがとうございます。……あ、先輩」
部屋を出ていく間際、私は立ち止まり、ドア越しに振り返った。
「心配をかけてすみません。私は本当に大丈夫ですので……南野と片倉先輩のこと、よろしくお願いしますね」
——南野は今頃、自分のせいで私が怪我をしたと自分を激しく責めているはずだ。そして片倉先輩も、相原先輩も、私を止められなかった罪悪感に苛まれている。
私はそれを全部知っていて、あえて彼女たちから離れようとしていた。
これ以上、私に関わって傷ついてほしくない。私が一人で死ねば、誰もこれ以上背負わずに済むのだから。
雨の降り頻る出撃滑走路へ向かう足取りの中で、ふと懐かしい面影が脳裏をよぎる。
士官学校時代の中山教官、そして共に笑い合った中山班のみんな。
あぁ……教官には『あの班の生き残りはお前だけなんだから、絶対に先に死ぬな』って言われてたっけな……
教官との約束すら、もう守れそうにない。
でも——壊れかけた私でも、この命と神力を投げ出すことで誰かの盾になれるなら、もうそれでいいのかもしれない。
灰色の雲を見上げながら、私は静かに目を閉じた。
安宅くん……会いたいな
あの日、守れなかった大切な人の名前が胸を締め付ける。
関……ごめんね。約束、守れなさそうだよ
立川で今も戦っているであろう関の顔を思い浮かべ、私は雨の中に神力の翼を広げた。もう二度と戻らない覚悟を胸に抱いて、一人、暗い空へと飛び立っていった。




