初陣
翌朝——出撃の刻を迎えた。
広大な海上の空へと飛び立つ。
フォーメーションは、左前に相原先輩、左後ろに南野、後ろに片倉先輩。そして中央の司令塔として私が配置につく。
索敵反応と同時に、雲を割って“ヤツ”の姿が視界に躍り出た。
「敵機捉えた! 撃ちます!」
相原先輩が放つ凄まじい衝撃波の軌道に合わせ、私も即座に神力を練り上げて追撃を打ち込む。後方から片倉先輩と南野が息を合わせて援護の衝撃波を流し込み、漏れてくる弾幕を弾いてくれた。
敵の防御が削れ、黒い体躯の急所が露出する。
「相原先輩っ!」
「任せて!」
炸裂音が海上に響き渡り、まず1体目を撃破した。
「……よしっ!」
歓声が上がりかけるが、私はそれを即座に遮った。
「喜ぶのは早いです! 気を抜かず、次来ます!」
……初めての実戦にしては、驚くほど動けている。民兵上がりの彼女たちに対する不安は、杞憂だったかもしれない。
そう安堵しかけたのは、無事に3体目を撃破した直後だった。
「……ハッ……ハッ……」
前方を飛ぶ相原先輩の飛行高度が、わずかにブレた。肩が激しく上下している。
……嘘でしょ、もう神力が限界に……!?
民兵である彼女たちの神力タンクは、数体の撃破と高速飛行の負荷だけで底をつきかけていたのだ。このまま戦わせ続ければ、神力が尽きて墜落するか、防御を破られて死ぬ。
やるしかない……私が……!
「相原先輩、ここからは後方に下がってサポートに回ってください! あと、南野を借ります!」
「小早……!?」
「南野! ついてきて!」
「えっ、小早!?」
驚く南野の手首を強引に掴み、私は急加速してヤツの至近距離へと飛び込んだ。
過剰な神力の波動をあえて撒き散らす。ヤツのセンサーが鋭く反応し、すべての敵意が私へと集中した。
よし、ターゲットはこっちに向いた……!
他方からの射撃は、後方の相原先輩と片倉先輩の援護に頼るしかない。相原先輩をこれ以上消耗させるわけにはいかないし、何より衛生手の南野は、この後他小隊の傷病者対応に追われる可能性が高い。彼女を無傷で守り抜く必要があるのだ。
民兵の3人が神力の限界を迎えているなら——「神力タンク」と呼ばれる士官学校卒の私が、一人で全部背負うしかない。
南野をかばいながら、迫りくる衝撃波を紙一重で回避し、至近距離から神力の交差攻撃を叩き込む。
私は……あの時から……安宅くんを失ったあの日からっ……!!
もっと……! もっと強く……誰よりも強くならなきゃいけなかったんだ!!
視界を焼き尽くすほどの閃光とともに、4体目の急所を穿つ。
「……1体撃破!!」
「小早! すごい……っ!」
南野の感嘆の声が耳に届いた、その一瞬だった。
背筋を氷の針で刺されたような、悪寒が走る。
——しまっ……!
反射的に神力シールドを展開し、背後からの追撃をブロックする。
直撃は免れた。だが、それは敵が放った単なる「流れ弾」だった。
追撃の衝撃に視界を奪われ、南野から意識を外してしまった——ほんの0.5秒。
そのわずかな一瞬が、死線を生み出していた。
「……え?」
南野の短い引きつった声。
波間に漂う爆煙の向こう、南野の真後ろの死角から、もう1体の“ヤツ”が鎌首をもたげるように姿を現していた。
その漆黒の銃口が、ゼロ距離で南野の背中に照準を合わせている。
「楓っ——!!」
喉が裂けるほどの悲鳴を上げながら、私は限界を超えた速度で神力を噴出させた。
南野の細い腕を強引に引っ張り、自分の背後へと強引に投げ飛ばす。
間に合え……! 間に合ってくれ……っ!!
身を投げ打つように南野の前へ割り込み、最大の神力シールドを展開しようとした——その瞬間。
視界全てが、容赦のない破壊の光に呑み込まれた。




