任せた
そうこうしているうちに、18:00の夕食の時間になった。
食堂へ足を踏み入れると、室内には重苦しい空気が充満しており、集まったメンバーは誰もがしんどそうな顔を浮かべていた。
そりゃそうだ。実戦経験のない彼女たちにとって、100体規模の敵が迫り、明日の朝には出撃か待機かという命の選択を突きつけられているのだから。
私は自分の分をさっさと胃袋に流し込み、早々に部屋へと戻った。
けれど、部屋に一人でいても一向に心が落ち着かない。
じっとしていると、どうしても余計な思考や恐怖が頭をよぎってしまう。私は耐えきれなくなり、軽い自主練をするために屋外の訓練場へ出た。
明日の朝には、いよいよ出撃だ。
体を痛めつけるような激しい動きはできないが、感覚を鈍らせない程度に軽く体を動かす。
大丈夫……神力の巡りも問題ない
体内を流れる神力を限界まで練り上げ、手足の先までスムーズに循環していることを確認する。幹部候補生学校で叩き込まれた基本の動作を一つひとつ確かめるように繰り返していた、その時だった。
「……小早」
物音に気づいて振り向くと、少し離れた日陰から菊名先輩がこちらを見つめていた。
「……菊名先輩? どうしたんですか?」
汗を拭いながら尋ねると、菊名先輩は少し照れくさそうに頭を掻きながら歩み寄ってきた。
「あぁ……いや、気合入ってんなと思ってさ。……頑張れって、言いに来たんだ」
素直なその言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
普段は距離を感じていて、勝手に嫌われていると思い込んでいたこともあったけれど、菊名先輩はいつもこうして不器用に私を気にかけてくれていたのだ。
いや、昔もよく「大丈夫か?」と無理している時に声をかけてくれていた。すぐに気が付き、手を伸ばしてくれる良い先輩だったんだ。私が壁を作っただけだったのかもしれない。
「……ありがとうございます、菊名先輩」
私はまっすぐ彼女の目を見つめ返し、深く頷いた。
「残された基地の防衛はよろしくお願いします。私も……出撃組みんなを絶対に生還させますから」
「うん! 任せたよ!」
太陽のような眩しい笑顔で、菊名先輩が力強く頷いてくれた。
任された、か……
「任せた」という言葉の裏にある、仲間の命と未来。その責任の重さが、じわじわと肩にのしかかってくる。
でも——弱音を吐いている暇なんてない。
私には、安宅くんを失ったあの日の後悔と、立川で戦う関に恥じない生き方をするという誓いがあるのだから。
やるしかない。
全員で生きて帰るために、私は夜風の中で静かに拳を握りしめた。




