不穏な空気
明光隊の生活にも少しずつ慣れてきた、ある日のことだった。
「相原、それから小早。ちょっといいか」
大佐から直接お呼びがかかった。
理由も告げられず指名された私と相原先輩の後ろで、「なんで私じゃないの……」と言いたげに不満そうな表情を隠そうともしない鴨居先輩を残し、私たちは二人で執務室へと向かった。
重々しいドアをノックして室内に入ると、デスクの向こうに立つ大佐の表情はいつになく硬かった。
「二人とも、急に呼び出してすまないな」
大佐は前置きもそこそこに、低い声で切り出した。
「二人もすでに耳にしているとは思うが……最近、例の『ヤツ』の飛来頻度が以前に比べて明らかに増している。この前、東北に飛来して甚大な被害を出した話は聞いているか?」
「……はい」
東北の壊滅的な被害の件なら、雪兎隊時代の先輩達から一応聞いていた。
私の短い返事を聞くと、大佐は痛ましそうに一度目を閉じ、さらに言葉を続けた。
「そして現在……ゆっくりとだが、九州の北部に向かってヤツの集団が接近している」
思わず、息を飲み込んだ。
……集団?
日頃、私たちが警戒・撃破しているのは、多くても数体程度だ。
だが、大佐の口から出た数字は、私の想定を遥かに飛び越えていた。
「来ているのは、数100体規模だ」
100体規模——。
一瞬、思考が白い霧に包まれそうになる。
上陸を許せば、この北九州全域が地獄絵図と化す。そのため、陸地に到達する前に海上で叩く「水際作戦」が決定したという。
各地の基地からも続々と応援が駆けつけているらしいが、当然この明光隊にも出撃要請が下りた。
ただし、基地の防衛を完全に空にするわけにはいかないため、隊の半分を出撃させ、残り半分を基地に残す二分割の体制をとるのだという。
大佐の説明が一区切りついたところで、私は意を決して一歩前へ出た。
「大佐、少しよろしいでしょうか」
自分でも図々しい、わがままな発言かもしれないとは分かっていた。
けれど、この隊の戦力と人間関係の歪みを客観的に把握しているのは、幹部候補生学校で参謀としての教育を受け、かつ外から来た私しかいない。
私が提示した「ある提案」。
もしそれが叶うならば——この明光隊は、二つに分離したとしても互いに壊れることなく、戦い抜くことができるはずだ。
「相原、少し退出してくれ」と相原先輩を退出させた大佐は、
私の申し出を静かに聞き、やがて「分かった。検討しよう」と短く告げ、私を退室させた。




