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番外編:北九州のお土産

「関中尉、荷物届いてるぞー」

後輩隊員の声に呼ばれて受付へ向かうと、小ぶりなダンボール箱がひとつ置かれていた。

送り主の欄に目をやると、見慣れた固く整った文字で『王子 小早』と記されている。

「……あいつ、また送ってきたのか」

思わず独りごちると、胸の奥がわずかに痒くなるような、気まずさと気恥ずかしさが混ざった妙な感覚を覚えた。

あの事件以来、小早とはどこかぎこちない関係が続いている。本当なら、お互い顔を突き合わせて言いたいことが山ほどあるはずなのに、巡業先に出た小早は時折こうして、その土地の食べ物や珍しいものを一方的に送りつけてくるのだ。

箱を抱えて控え室へ戻る途中、廊下の曲がり角で不運にも「あの二人」につかまった。

「おい関! なんか届いたのか?」

「……桜木教官、それに中山教官」

腕組みをした元担当教官の桜木中佐と、その隣でどこか楽しそうに目を細めている中山中佐だった。

「小早からか?」

中山中佐が箱の伝票に目をやり、嬉しそうに髭を撫でる。

「元気そうで何よりだ」

「……ええ。まあ」

歯切れ悪く返事をすると、鬼教官で知られる桜木中佐がフンと鼻を鳴らした。

「おい関、教官を廊下に立たせたまま箱を抱え込む気か? 中身を検分してやる。開けろ」

「いや、検分って……ただの差し入れですよ」

結局、抗うこともできず、教官室のテーブルの上でダンボールのテープを剥がす羽目になった。

箱を開けると、綺麗に敷き詰められた緩衝材の隙間から、独特の香ばしいスパイスの香りがほんのりと漂ってくる。

中に入っていたのは、門司港名物『焼きカレー』のレトルトパックと焼きカレー風せんべい、そして——。

「なんだこれは。……『くろがね堅パン』?」

桜木中佐が眉をひそめて、黒っぽいレトロな包装のパッケージを持ち上げた。

「あ、それ……すごく硬いことで有名な北九州のお菓子ですよ」

添えられていた小早のメモ用紙を開く。そこには相変わらずの素っ気ない字で、こう書かれていた。

『関へ。北九州の特産品です。堅パンは歯が折れないように気をつけて食べてください。関なら噛み砕けると思います。笑 小早』

「……あいつ、絶対バカにしてんだろ」

前線で命を張っているはずの同期からの、絶妙に煽りの効いたメッセージ。

思わず額に青筋を立てる俺を見て、中山中佐が「ハハハ!」と気持ちよさそうに声をあげて笑った。

「いい度胸じゃないか! 小早の奴、遠くにいてもお前への挑発を忘れてないな。よし関、威信にかけてその堅パン、一噛みで粉砕してみせろ」

「中山、余計なことを吹き込むな。……だが関、神力使いが菓子ひとつの硬さに負けてどうする」

「桜木中佐まで……!」

煽る教官二人を前に、引き下がるわけにもいかない。

私は袋から細長い堅パンを取り出すと、意を決して思い切り噛みついた。

ガリッ! と、まるで石ころでも噛んだかのような鈍い衝撃が顎を襲う。

「っ……!? 硬っ……!」

「おお、いい音したぞ!」

「まだまだ顎の鍛え方が足りんな!」

「くそっ……あいつ、最初からこれが狙いか……!」

ガリガリと必死に堅パンを噛み砕く私を見て、教官二人は腹を抱えて笑いながら、小早が送ってきた焼きカレーせんべいを「どれ」とばかりに勝手に開けてつまみ始めた。

「ん、このカレーせんべい、なかなかスパイシーでうまいな」

「うむ。小早の奴、意外といいセンスをしている」

口の中でようやく砕けた堅パンの香ばしい小麦の味を噛み締めながら、私は小早からのメモをポケットに押し込んだ。

神力が出せなくなって落ち込んでいた私に、直接『頑張れ』なんて甘い言葉は絶対に言ってこない。けれど、この呆れるほど頑丈で硬いお菓子と、ピリッと辛いカレーの味は、間違いなくあいつなりの不器用なエールなのだ。

……見てろよ、小早

今に見ていろ。お前が各地を巡業して立川に戻ってくる頃には、神力を完璧に取り戻して、隣に立ってやる。

「教官、僕の俺焼きカレーレトルトまで勝手に持って行かないでください!」

「何を言う。報告を聞く手間賃だ」

賑やかな教官室で、私は北九州のカレーの香りを嗅ぎながら、遠い空の下にいるライバルの姿を強く思い浮かべていた。


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