北九州観光
基地から借りた乗用車に乗り込み、ハンドルを握る。
制服を脱ぎ、私服のシンプルなカットソーとパンツに身を包むと、少しだけ肩の荷が下りる気がした。
第2基地のある北九州は、関門海峡を臨む港町であり、かつて工業で栄えた歴史ある街だ。
カーナビに従って車を走らせ、まず向かったのは門司港レトロ地区。
赤煉瓦の洋館が建ち並ぶ情緒ある街並みを、一人でゆったりと歩く。潮風が心地よく、広大な海と関門橋が見渡せるロケーションは、ただ歩いているだけでも気分が晴れていくようだった。
「へえ……焼カレーが有名なんだ」
香ばしいスパイスの香りに惹かれて入った店で、名物の焼きカレーを注文する。香ばしく焦げたチーズと卵が絡む熱々のカレーを口に運びながら、ふと、立川の士官学校時代を思い出した。
関なら、こういうガッツリした名物、喜んで3杯くらい食べそうだな……
士官学校の食堂で大盛りご飯を平らげていた関の姿が脳裏をよぎる。
あの日以来、どこかぎこちなく気まずい関係が続いているけれど、巡業先で関が好きそうな珍しい食べ物や限定品を見つけると、どうしても放っておけずに立川基地へ郵送してしまうクセが抜けない。
……まあ、神力が出せなくなって落ち込んでるだろうし。食べ物なら嫌なら教官たちにあげれるだろうし。
自分にそう言い訳をしながら、レトロ街のお土産屋さんに入り、日持ちする「焼きカレー風味のせんべい」や「ご当地レトルトカレー」を手際よく買い揃えた。段ボール箱に詰め、その場で立川基地の関宛てに伝票を書く。送り主の欄に自分の名前を書き添えながら、小さく息を吐いた。
次に車を走らせたのは、標高622メートルの皿倉山。
ケーブルカーとロープウェイを乗り継いで山頂へ登ると、北九州の街並みと広大な空が一望できた。
「すごい……」
見渡す限りの絶景と青空。風を切って自分の神力で飛ぶ空もいいけれど、こうして地面に足をつけて眺める空も、暖かくてどこか優しく感じられる。
山頂のデッキで風に吹かれながら、ふと安宅くんの笑顔が頭を浮かんだ。
『小早、いい景色だな』
そんな声が聞こえた気がして、胸の奥がキュッと締め付けられる。
安宅くんや中山班のみんなと、こうやっていつか一緒に旅行してみたかった。
涙がこみ上げそうになるのをぐっと堪え、空に向かってそっと呟く。
「みんな……私は今日も元気にやってるよ」
帰りがけ、地元の珍しいお菓子と自分用のノートを買い足し、車の助手席に積み込んだ。
車内のスピーカーから流れる静かな音楽を聴きながら、夕暮れ時の赤く染まる北九州の街を基地へと戻る。
一人で過ごす北九州の休日は、少し切なく、けれど静かに心を癒やしてくれる時間となった。




