後輩ムーブ
食堂に入ると、南野と夏純が二人で夕食の配膳準備を進めていた。
そうか、この隊ではこういう雑務もすべて下級生に押し付けるシステムになっているのか。各自が食べる分だけ自分で取るセルフ形式にすれば無駄もないだろうに。
他の基地で過ごした日々の整然とした運用を思い出し、部活の延長線上のままで回っている明光隊のローカルルールに、胸の奥で苦いものが込み上げてくる。
「南野、どう手伝えばいい?」
「えっ、小早は上官なんだから手伝わなくていいよ!」
手を出そうとすると、南野が慌てたように手を振った。
「あ、そっか……。この隊はいつもこんな感じなの?」
「うん。他は違うの?」
「普通は各自で配膳だよ。食べる量も人によって違うし、自分のことは自分でやるのがどこでも基本だったから」
「そうなんだ。あ、そうだ、明日は洗濯の日だから、朝までに洗ってほしいものがあれば出しておいてね」
「洗濯までやってくれるの?」
「うん。一応洗濯の日が決まってて、まとめて洗うことになってるんだー」
言葉を交わしながら、呆れを通り越して言葉を失う。
下級生だからといって、雑用一切を押し付けてこき使っていいなんて規律、士官学校の厳しい寮生活にだって存在しなかった。食事は食堂の配膳室、洗濯や自室の掃除は個人の責任。共有スペースの清掃だけを全員の持ち回りで均等に負担するのが常識だ。
「洗濯は自分でやるから大丈夫。共有の洗濯機を使っていいんだよね?」
「うん、使っていいよ。あと、明日の午前中くらいに小早の福岡基地仕様の制服が届くって。部屋まで届けようか?」
「ううん、明日の午前中は部屋にいるから自分で取りに行くよ」
各地方基地の戦闘服は、迷彩パターンこそ統一されているものの配色が少しずつ異なる。
関東甲信越はカーキ、北海道・東北は明るめのグリーン、中部・北陸はブラウン、関西はホワイト、中国・四国はグレー、そして九州・沖縄はブラックだ。
ちなみに士官学校の生徒が着用するのは、この色分けがされた迷彩柄ではなく無地のもので、胸元にネーム刺繍が入る。
隊服には階級ワッペンと所属隊の章がついて、初めて正式な戦闘服として完成するのだ。
原則として所属隊の制服を着用することになっているが、私のような巡業扱いの戦闘補佐隊は本所属(立川)と仮所属(派遣先)のどちらを着てもいいルールになっている。
ただし両方の隊章ワッペンを装着することが義務付けられているけど。
なお非番の日に基地の外で着用することは厳禁だが、勤務日であれば基地内での訓練時にどの隊の服装を着ていても咎められることはない。
「了解、荷物ボックスに入れておくね。注文は5枚だったけど、足りそう?」
「立川の服もあるし、既に届いているものや他地区でもらった分もあるから、急ぎの5枚があれば十分だよ」
「わかった」
手際よく作業を続ける二人を見つめながら、溜息を噛み殺す。
ただでさえ訓練で疲弊しているのに、これだけの雑務をたった二人で回すのはどう考えても負担が大きすぎる。効率も規律もあったものではない明光隊の体制に、改めて冷ややかな思いを抱かずにはいられなかった。




