全滅必須
汗まみれになった服はずっしりと重く、耐えかねて速やかに着替えを済ませる。
本来なら「いつ緊急出撃があってもいいように隊服着用」が義務付けられているが、巡業中の身でそんなに何枚も予備を持ってきているわけがない。一旦、自分の正式な所属先である「立川基地」の訓練着に袖を通した。
まぁ、正式所属は立川なんだから軍の規約上は何の問題もない。どこかで「明光隊のルールに染まる気はない」という私なりの小さな反抗だったのかもしれないと思いつつ、集団訓練場へと向かう。
全体演習が始まり、まずは隊の連携と動きを観察した。
この隊はとにかく「攻撃手」がオラオラと前に出すぎる傾向がある。
というか、菊名先輩の攻め気は勢い任せでキレ気味だし、相原先輩もさっきの対人戦の通りガンガン押し込むタイプだ。夏純はまだ新人らしさが抜けておらず、立ち回りに必死さが目立つ。
だが、攻撃手を機能させるためには、それを支える「援護手」の緻密な配置と弾幕管理が絶対に必要なはずだ。
シミュレーションが始まると、前方から大量の仮想弾が押し寄せてくる。
見ていると、前線に飛び出す相原先輩と夏純を、鴨居先輩が捨て身のシールド展開で死ぬ気で守り、菊名先輩のカバーを片倉先輩と南野の2人がかりで行っている。
……いや、これは援護手が守りきれていないんじゃない。攻撃手が勝手に個人プレーに走りすぎているのだ。
これ以上鴨居先輩たちに無理をさせてもラインが崩壊するだけだ。私は即座に相原先輩のラインへと割り込み、夏純の斜め後方へと滑り込んだ。
『相原隊長、王子です。成瀬に王子が付きます。成瀬の援護は問題ありません』
『……了解!』
イヤホンの通信越しに相原先輩の短い返答を聞きながら、私は心の中で深く息を吐く。
おいおい……これ、実戦だったら戦力外どころか、下手をしたら援護手が真っ先に全滅するぞ?
よく今まで実戦で生き残れてきたなと呆れてしまう。それとも、単に本格的な大群との実戦経験がないだけなのだろうか。
私は細かく神力を散らし、最小限の弾幕で夏純の死角を完璧にカバーする。
「夏純、しっかり前だけ見て。絶対に被弾させないから、今は自分の狙いに集中して」
周囲の敵弾に気を取られて射撃の軸がブレ、被弾しかけた夏純に骨伝導マイク越しに静かに声を張る。
視界の端では、菊名先輩がまたしても前へ出すぎているのが見えた。……けれど、今の私の役割は夏純の援護だ。余計な手出しはしない。
それにしても、片倉先輩と南野の動きが重すぎる。
前に出すぎる攻撃手に追いつくことだけに必死で、援護の手自体が完全に手薄になっている。だから「2人がかりで攻撃手1人」しか守れないのだ。片倉先輩は追従する動きに無駄が多いし、南野は片倉先輩に頼り切っているくせに自分もしっかり被弾している。
――こんな大雑把な立ち回り、本当の戦場(本物の空)じゃ1分も通用しない。
相原先輩はその点、一応「隊長」だけあって周囲が見えている気配はある。けれど、暴走する菊名先輩をコントロールできていないし、鴨居先輩のあの自己犠牲的な援護がなければ自分の攻撃力すら満足に発揮できていない。
プロの戦場を知る者として、そのあまりの「素人っぽさ」に頭が痛くなるのを、私は無機質なシールドの展開で押し殺していた。




