昔と変わらない稽古
朝食、朝のミーティングでのタイムスケジュールの確認、午前の訓練、昼食、午後の訓練、夕食、そしてパトロール。
「パトロールがある日はパトロール重視」と教えてもらったが、まぁ他の隊と大きな違いはない。モデルケースをそのまま使っている感じか。
午前の訓練は主に部門別や個人による技術向上、午後は集団訓練に充てられるらしい。
午前は個人訓練の予定だったが、途中から「実力を知りたい」という相原先輩に連れ出され、少し離れた場所で二人きりの訓練となった。
「速度も的中率も、やっぱりすごいな……」
「ありがとうございます」
称賛の言葉に適当な笑みを返すが、全然本気なんて出していない。
個人練習の最中、周りのレベルを観察して「この程度でいいか」と加減を調整しただけだ。下手に本気を見せて、変に期待なんてされたくはない。
「小早! うちとツーマンの対人訓練しよう!」
「相原先輩……午前なのにいいのですか?」
午前の段階で、神力を激しく消耗するツーマンの対人訓練を行うのはリスキーだ。それだけ神力に自信があるのだろうか。
「うん! やろ!」
「……はい」
離れた場所では、菊名先輩と鴨居先輩が手を止めてこちらを見つめている。
対人訓練は、お互いに撃ち合って降参させるか、あるいは神力切れや撃墜によって決着をつける形式だ。援護手である私には本来不利なルールだが、実戦でそんな言い訳は通用しない。
「菊名! 号令だけお願い!」
「おっけー、始めっ!」
菊名先輩の掛け声とともに、スッと間合いを取る。
お互いに初対面――という体だからこそ、立ち上がりは慎重だ。
実際は神力ではないものの、中学時代何度も稽古を付けてもらった。私の癖もきっと知っているはず。
こちらの専門が援護手であること、そしてさっきの個人訓練で見せた程度の立ち回りは把握されている点では、こちらが不利に見えるかもしれない。だが、無闇に攻撃を仕掛けず守りに徹していれば、神力切れを起こすこともなく確実に勝てる。
相原先輩の放った弾が、まっすぐ目の前まで迫る。
私はシールドを展開せず、極限まで抑えた神力を一瞬だけぶつけて弾道を弾いた。
シールドを使ったり回避に大きく動いたりすれば、それだけ神力を消費してしまう。だが、最小限の神力をぶつけて弾くか、あるいは分裂させて消滅させれば消費は極限まで抑えられる。
かつて雪兎隊で教わった技だ。習得するまでは弾を見誤って被弾したり、逆に無駄な神力を消費したりもしたが、今では感覚と経験で飛来する神力量を瞬時に目測できる。しくじることなどあり得ない。
相原先輩は思わぬ防ぎ方に驚いた様子を見せ、痺れを切らしてこちらに攻撃させようと誘いをかけてくるが、乗る気はない。
昔から攻め方が変わっていないな、と思う。対人競技になると、なおさら固有の癖は抜けないのかもしれない。
突然、相原先輩がすっと体を低く沈めた。
――よし、ちょいとやる気だけ見せてやるか。
地面ギリギリまで降下し、守りの姿勢に入る。
攻撃の手を強め、距離を詰めてくる相原先輩。民兵の中ではかなり神力がある方だなと冷静に分析しながらシールドで受け止めると、間もなく「狙いの距離」に飛び込んできた。
シールドを即座に解除し、一気に上昇。
完全に上空の優位を取り、そのまま相原先輩を地面へと押し込んだ。
「やめっ! 王子中尉!」
「うそ……桜花が負けた?」
鴨居先輩の声が漏れ聞こえてくるのを感じつつ、地面へ降り立ち、倒れた相原先輩に手を差し伸べる。
「ありがとうございました」
「すごいね! 負けちゃったなー! 次もまたやろうよ!」
"ありがとう! またやろう!"
爽やかな笑顔でそう言われ、脳裏に一瞬だけ過去の記憶がフラッシュバックする。
「あっ……はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」
頭を下げてから自分の荷物へ戻り、汗を拭う。
今日に限って、雲一つない青々とした晴天だ。
タオルに顔を埋めていると、さっきの言葉が何度も頭の中でリフレインする。
――変わってないな、相原先輩は。
昔、弱かった私が稽古をつけてもらいに行った時も、いつだってそう言って笑っていた。
どこまでも相変わらずで、優しいキャプテンだ。




