地獄の再会
食堂の扉を開けた瞬間、そこに広がっていた光景に、私は「びっくりした」なんて言葉では到底足りないほどの衝撃を受けた。
心臓が跳ね上がり、指先から血の気が引いていくのがわかる。首筋を這い上がるような、言いようのない悪寒。
「とりあえず王子中尉、こちらへ。皆に自己紹介を」
世田大佐の穏やかな声が、今の私には酷く遠く感じられた。
食堂を支配する、形容しがたい奇妙な空気。私は意識的に背筋を伸ばし、一歩、前へ出た。
「……明日より福岡第二基地明光隊に派遣となります、東京都立川基地戦闘補佐隊・中山隊所属、王子小早中尉です。よろしくお願いします」
「立川……」
「戦闘補佐隊……」
「中尉……?」
ざわめきが、波のように広がっていく。
無理もない。そこに並んでいるのは、連絡先さえ知らない、中学時代の部活の先輩や同期……私を「足でまとい」と呼び、私が逃げるように去ったあの場所のメンバーそのものだったのだから。
「他のみんなも、せっかくだから自己紹介しようか」
世田大佐は場の異様な空気に少し不思議そうな顔をしつつも、促した。
「明光隊・隊長、相原 桜花軍曹です」
部活では女子大将であり、憧れのキャプテンだった人。
「副隊長、鴨居 李子伍長です」
私を毛嫌いし、私の退部の要因の一つとなった人。
「……菊名 桃菜伍長」
二個上の、日頃は明るくて面白いが、キレたら手がつけられなかった先輩。
「片倉 紫陽上等兵です」
唯一の理解者。紫陽さん、上等兵だったんだ……。
「南野 楓一等兵です。」
喧嘩別れした同期。
「……成瀬 夏純二等兵です。」
私に「不要」の二文字を突きつけた、一歳下の後輩。
「王子中尉は、こちらへ」
案内されたのは、上座。
当然だ。軍という組織において階級は絶対。ここにいるメンバーは皆下士官かつ兵卒であり、幹部学校を卒業した私は彼女たちの遥か上の「中尉(士官)」なのだから。
だが、そこに座る居心地の悪さは、針の筵どころではなかった。
「……小早、久しぶり。……士官学校に行ってたんだね」
食事会が始まり、大佐の手前、相原先輩が努めて明るく話しかけてきた。
「知らなかったからさ、びっくりしたよ」
「……中学の神力検査での数値が高くて、逆推薦をいただいたので」
私立の一貫校だったあの頃、私は周囲に「東京の寮がある高校に行く」としか言っていなかった。
中二の秋。国が定める一斉検査で、私の「神気タンク」としての異常な数値が露見した日。その場にいた桜木教官から「士官学校なら給料も出るし、学費も無料だ」とスカウトされたのだ。
居場所のなかったあの部活を去り、私は軍という孤独な戦場を選んだ。
「先輩方。自分は確かに階級こそ中尉ですが、この隊の隊長はあくまで相原先輩です。現場の指示には従います。ですから……皆さんが知っている『王子小早』として、接してください」
私の言葉に、誰かが小さく息を呑む音が聞こえた。
「了解」という相原先輩の声は聞こえたが、その後、会話は続かなかった。
カチカチと時計の音だけが響くような、重苦しい沈黙。
私は、かつて「役立たず」だと自分を追い詰めた人たちの前で、今は「上官」として座っているという皮肉に、ただ吐き気を堪えていた。




