曇天の空と出発
次の隊への派遣が決まった。期間は約一年。長期の「巡業」になる。
立川基地の宿舎を出て長官室へ向かう廊下、窓の外は朝から不穏な暗雲に覆われていたが、歩を進めるごとに雨脚は激しさを増していく。
……また、一年。関と離ればなれになるんだな
雪兎隊として函館へ行った時と同じ。いや、あの時よりも胸の奥が重いのは、今の関が程遠い場所にいるように感じているからだ。
「失礼します」
重厚な扉を開くと、中山教官がデスクで書類に判を押していた。
「おお、小早か。早速だが、辞令だ。準備はいいか?」
「はい」
「王子小早中尉。本日付で福岡県、福岡第二基地所属『明光隊』への派遣を命ずる。……頑張ってこい」
「……はい!」
明光隊。その名を聞いた瞬間、片倉紫陽という中学時代の先輩の名前が思い浮かぶ。
以前山口駐屯地に派遣された時に福岡第二と近かったのもあり、遊んだ仲だ。
民兵で頑張っていると聞いていたけど、まさかそこに派遣になるとは。
関にも、伝えなきゃ……。
宿舎への戻り道、たまたま廊下で彼と鉢合わせた。
リハビリ着に身を包んだ関君は、かつての鋭い眼光を失い、どこか虚空を見つめるような、虚ろな表情で壁に寄りかかっていた。
「関君。私、福岡に行くことになったよ。一年間。……しっかりリハビリして、早くまた、一緒に訓練しようね。じゃあ、行ってきます」
精一杯の明るさを装って声をかける。けれど、彼は視線をこちらに向けることさえせず、ただ低く、掠れた声で言った。
「……気を付けろよ」
その一言だけを残して、彼は背を向けて歩き出した。
関君は、天照隊での訓練中、神力の使い方を間違えたまま無理に出力を上げ続け、一時は神力が完全に出なくなったと聞いている。
そのまま無理を続けていたら、彼の「器」は本当に壊れて死んでいたはずだ。だから、今の療養は必要なことなのだと自分に言い聞かせる。
けれど、今の彼は、まるですべての情熱を失ってしまったかのように、ひどく「つまらなそうに」生きている。
私を立ち直れないほど負かすことが目標だと言っていた、あの頃のギラついたライバル(関)は、どこへ行ってしまったんだろう。
安宅君がいたら……今の私たちを見て、なんて言うかな
リーダーだった彼が、もし今ここにいたら。
バラバラになった私たちを、あの頃のように強く、優しく導いてくれただろうか。
輸送機の硬い座席に揺られながら、窓の外を見つめる。
高度を上げても、雲を抜けることはなかった。景色なんて何も見えない、ただ白く、冷たい雨の世界。
……景色、見たかったな
翼の下で激しく叩きつける雨音を聞きながら、私はこれから始まる一年間の孤独な戦いに思いを馳せた。
福岡。かつての仲間たちが待つ場所。
そこが、今の私にとって安らぎの地になるのか、それとも別の何かなのか。
不安を振り切るように、私は深く、一度だけ溜息を吐いて目を閉じた。




