凱旋
東京空港に降り立った瞬間、十月の少し冷たい風が、函館の厳しい海風とは違う都会の匂いを運んできた。
予定では九月中に戻るはずだったけれど、函館基地管轄での戦闘が予想以上に長引き、結局一ヶ月も遅れての帰還となった。雪兎隊での任務はすごく充実したものだった。
到着ロビーに出ると、見慣れた長身の影が見えた。
「教官!」
「おう、小早。おかえり。……少し顔が引き締まったか?」
迎えに来てくれたのは、私の直属の上司である中山教官だ。
教官の顔を見た瞬間、函館での緊張がふっと解けて、自分が立川に戻ってきたのだという実感が湧いてくる。けれど、教官の瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、迷うような影が過ったのを私は見逃さなかった。
「……函館での戦いぶりは日吉大佐から聞いているぞ。援護手ランキング20位、立派なもんだ」
「ありがとうございます。……あの、関はどうしていますか? 天照隊から戻ってきているって聞きましたけど」
私の問いに、中山教官は歩く足を止めることなく、どこか慎重に言葉を選んで答えた。
「……ああ。関は今、立川に戻っている。だがな、小早。あいつは今、少し神力の調子を崩していてな。基礎からやり直すために、再訓練中だ」
「調子を……? あの関がですか?」 [1]
驚いて聞き返すと、教官は私の視線を避けるように前を向いたまま続けた。
「少しスランプのようなものだと思ってくれ。神力の出力が安定しなくてな。日常生活には支障ないが、今はまだ空を飛ぶことは禁止している。……だから、あいつに会っても、あまり無理に空の話や任務の話はしないでやってくれ」
「……分かりました」
教官の言葉に、胸の奥が少しだけざわついた。
関が飛べないなんて。あの、私と一勝一敗一分けで並び、誰よりも負けず嫌いだった彼が。
けれど、中山教官がこうして落ち着いて話してくれるなら、きっと大したことではないのだろう。
私がいない間に、関も頑張りすぎちゃったのかな……
私は、関がかつて安宅君の死を自分のせいだと責めていたことを思い出し、胸が痛んだ。
「神力は気持ちで変化しない」というのが軍の常識だけれど、今の私なら分かる。心が折れれば、翼は思うように動かなくなるのだ。
「教官。私、関君の訓練を支えられますか? 出来ることがあれば彼のために使いたいです」
私の申し出に、中山教官はようやく少しだけ柔らかく微笑んだ。
「ああ、普通に昔みたいに友人として接してあげてくれ。訓練は俺らでやるから、今は普通を感じる方が彼の薬になるだろう。」
空港の外には、澄み渡った秋の空が広がっている。
その空のどこかに、今はまだ翼を休めている関がいる。
私は早く会いたいなと懐かしい立川基地への車に乗り込んだ。




