目を覚まし朝日が昇る
人工呼吸器の規則的な排気音だけが響く個室に、窓の外から薄明が差し込み始めた頃だった。
パイプ椅子に座り、数時間一睡もせずにベッドの横で見守っていた俺の視界の中で、関の指先が微かに、だが確かな意思を持って動いた。
「……ん、……っ」
酸素マスクの奥で、掠れた声が漏れる。
「関!? 分かるか、関!」
俺の呼びかけに、隣の椅子で腕を組んで目を閉じていた桜木が弾かれたように立ち上がった。
「……きょ……う、かん……?」
ゆっくりと開いた関の瞳は、まだ焦点が定まらず、ひどく充血していた。だが、そこには先ほどまでの絶望的な混濁ではなく、18歳の青年らしい、困惑の色が戻っていた。
彼は自分の口元を覆うマスクや、体中に繋がれたコードに気づくと、肺の奥を刺激されたように小さく噎せ返った。
「喋るな。まだ動こうとするんじゃない」
桜木が、震える声を無理やり抑え込んで命じる。その厳格な「鬼教官」としての言葉とは裏腹に、関の無事を確認した彼の瞳は、熱い何かに潤んでいた。
「……俺……生きて……」
「ああ、生きている。衛生兵と医者が、お前をこっち側に引きずり戻してくれたんだ」
俺は関の手に自分の手を重ねた。指先にはまだ微かな熱があるが、あの自壊しそうな超高血圧の熱さではない、生身の人間の温度だった。
「……すみませ……ん。また……足でまといに……」
関の目尻から、一筋の涙が溢れた。
意識が戻って最初に口にしたのが、謝罪と「足でまとい」という言葉。深すぎる傷がそこにあった。
「馬鹿野郎……誰が足でまといだ」
桜木が関の頭を、乱暴だがこの上なく優しく撫でた。
「お前が死ぬことが、一番の足でまといなんだ。分かったか、関」
「関、医師の話では、時間はかかるがまた飛べるようになるそうだ。お前の身体はボロボロだが、神力回路は死んでいない。復帰は十分に可能だ」
俺の言葉に、関は驚いたように目を見開いた。
「……また、……飛べますか?」
「ああ。だが、次は自分の命を燃やすような飛び方じゃない。小早が、そして天国の安宅が、安心して背中を預けられるような、本物の『鋼』の翼を再構築するんだ」
関は深く、震える呼吸を繰り返した。
その胸に宿る神力は、今はまだ嵐の後のように静かだ。
「……はい、……教官」
関が力なく、だが真っ直ぐに俺と桜木を見つめ返した。
最悪の夜は明けた。
立川の空に朝陽が昇り始め、傷ついた若き戦士を優しく照らし出していた。




