どうして
訓練場の高い台の上に立ち、俺は眼下に広がる立川基地を見下ろしていた。
かつては当たり前のように飛べたこの空が、今は見えない壁に拒まれているように感じる。
……やらなきゃ。俺は首席卒なんだ。安宅がいなくなった今、俺が小早を守るって決めたんだ……!
隣には中山教官と桜木教官がいる。「無理はするな」なんて言われたが、そんな悠長なことは言ってられない。天照隊での屈辱、同期からの冷たい視線……それら全てが、鋭い針のように俺の心を刺し続けていた。
「ふぅ……っ!!」
地面を蹴り、強引に神力を絞り出す。
その瞬間、身体中の血管がミシミシと軋むような、嫌な痛みが走った。心臓が壊れた時計のように激しく打ち鳴らされ、耳の奥でドクンドクンと血流の音がうるさい。
痛い……。でも、まだ足りない。もっと出力を上げろ!
身体が拒絶反応を起こしているのは分かっていた。だが、安宅の死に対する罪悪感と、函館で一人戦っている小早への想いが、俺の理性を焼き切っていた。ここで飛べなければ、俺は本当に「ゴミ同然」になってしまう。
「……あ……?」
ふと、視界の端に赤い雫が舞った。
温かいものが上唇を伝い、顎へと流れていく。
指先で触れると、真っ赤な色がついていた。
鼻血……? あれ、なんで……?
一瞬、思考が停止した。疲れが出ただけか?
だが、身体の奥底からせり上がってくる熱気は、そんな生易しいものじゃなかった。内側から爆発しそうなほどの圧力が、肺や喉を容赦なく押し潰していく。
「が……はっ、げほっ……!!」
不意に、喉の奥から熱い塊が込み上げた。
慌てて口元を抑えたが、指の間から溢れ出したのは、どろりとした大量の鮮血だった。
鉄臭い匂いが鼻腔を突き、呼吸をするたびに「ヒューヒュー」と肺が鳴る。
「……ぁ、ごぼっ……!!」
止まらない。
出力を落とさなきゃいけないのに、パニックになった俺の身体は、勝手に神力をブーストさせ続けていた。血管が、心臓が、肺が、限界を超えて悲鳴を上げている。
遠くで中山教官と桜木教官が俺の名を叫んでいるのが聞こえる。
誰かが後ろから俺を抱きしめた。中山教官だ。その腕の温かさを感じながらも、俺は溢れ続ける血に噎せ返り、意識が急速に遠のいていく。
神力が切れない……止まらないんだ……。
……ごめん、小早……。安宅……、俺……
視界が真っ赤に染まり、やがて深い闇へと落ちていく。
最後まで俺の耳に残っていたのは、肺が空気を求めて喘ぐ、醜い呼吸音だけだった。




