無力感
俺の腕の中で、関の身体は今もなお、自身の命を燃料(神力)として燃やし続けていた。
意識を失ってもなお止まらない微弱な神力の出力が、彼の体内の血圧を異常なまでに高め続けている。口元から溢れ出す「ごぼっ、ごぼり」という湿った音は、彼の肺が、そして血管が内側から千切れ続けている悲鳴そのものだった。
「……嘘だろ、止まらない……! 関、もういい、もうやめろ!」
隣で叫ぶ桜木の顔は、かつての卒業試験翌日のあの惨劇を目撃した時と同じ、絶望の色に染まっている。
俺の腕を濡らす血の量は増え続け、関の白い軍服は見るも無惨な赤黒い塊へと変わっていた。彼の心臓は、壊れた鐘のように不規則で激しい鼓動を打ち続け、その衝撃が私の掌にまで伝わってくる。
神力使いの中には、他者に神力を注入し、足りない神力を補填したり、乱れた波長を整えることができる「衛生兵」という特殊な適性を持つ者がいる。暴走し、遮断不能になった関の回路を外側から塗りつぶすように上書きするには、彼らの力が必要不可欠だった。
「中山中佐、失礼します!」
数分が永遠のように感じられた頃、駆けつけた衛生兵が関の傍らに膝をついた。
「……ひどい。内圧が異常です。このままでは神力回路が焼き切れる前に、脳の血管が……!」
衛生兵の手が関の胸元に置かれる。淡い光が、関の真っ赤に染まった身体に吸い込まれていく。
「関中尉、外からの供給を受け入れろ! 自分の出力を落とせ!!」
衛生兵が自身の神力を関の体内へ直接流し込む。それは一歩間違えれば、過負荷によるショック死を招きかねない禁忌に近い処置だった。だが、今の関にはこれしかなかった。
数秒の沈黙の後、関の身体を覆っていた狂気じみた熱波が、ゆっくりと引いていった。
ごぼっ、と大きな血の塊を吐き出し、関の身体から神力の気配が完全に消失する。
「……出力を、停止させました。ですが……」
衛生兵の声が沈痛に響く。
俺は、意識を失い、ぐったりと項垂れた教え子の姿を直視できなかった。
神力の出力は止まった。だが、吐血を繰り返すほどの超高血圧に晒された彼の肉体は、文字通りボロボロだった。
肺胞は破れ、各臓器の毛細血管はズタズタに引き裂かれている。何より、限界を超えて圧力をかけ続けた脳や心臓へのダメージは計り知れない。
残された一人の教え子が、自らの責任感と罪悪感に押し潰され、自分をここまで破壊するまで気づいてやれなかった。
「……桜木。あいつは、一人で安宅の分まで背負おうとして、自分という器を壊しちまったんだな」
私の手についた血は、時間が経っても温かいままだった。
救急車が到着し、担架に乗せられていく関の蒼白な横顔を見送りながら、私は教官としての、そして一人の大人としての底知れない無力感に、ただ拳を握りしめることしかできなかった。




