↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
57/269

落ちぶれたエリート

あれ……ここ、どこだ?

目に飛び込んできたのは、無機質な白い天井と見慣れないベッド。

「関さん、分かりますか?」

「え、はい……」

「自分がなぜ運ばれたか、心当たりは?」

「……さぁ」

看護師の問いに、私は曖昧に答える。

「訓練中に落下して、脳震盪を起こしたんですよ」

落ちた? 俺が、訓練で?

「検査の結果、今のところ異常はありません。一日様子を見て、問題なければ退院していいですよ」

看護師が去った後、入れ替わるように一人の男が入ってきた。

「関中尉」

「榎本大尉……っ」

慌てて起き上がろうとした俺を、大尉が手で制した。

「寝ていろ。……お前、落ちた時の記憶はあるか? 急に力が抜けるような感覚とか」

「いえ、ありません……」

「以前に同様のことは? 士官学校時代も含めて」

「無いです」

嘘ではない。だからこそ、混乱していた。空で意識を失い、あやうく墜落死しかけたという事実に、背筋が凍る。

「明日、詳しい検査を行う。お前は訓練中止だ。退院後すぐに基地に来い」

榎本大尉が去った後、俺は自分の手を見つめた。

体が鉛のように重い。それでいて、内側がぽっかりと空洞になったような、奇妙な空虚感。

……まさか、神力が……?


退院の日。

8月だというのに、外には季節外れの涼しい秋の風が吹いていた。病院の玄関を出た瞬間、昨日からの違和感が確信に変わる。

「やっぱり……そうか」

神力使いなら、常に感じているはずの空気の微細な揺らぎ。それが、今の俺には全く感じられない。

基地に戻ると、刺すような視線が俺に集中した。

「関、落ちたんだってよ」

「マジか。やっぱり立川(本校)は今回は(首席が死んだから入学したのは)次席だもんな。」

「しっ、聞こえるぞ」

もう、聞こえている。安宅なら、こんな屈辱的な言葉を投げかけられることもなかっただろう。

相部屋に戻ると、中部の士官学校出身だという同期が、ゲームの手を止めずに言った。

「関、神力はどうなんだ?」

「……っ!」

「気づくよね、本人なら。無能な先輩たちは気づいてないけど、僕みたいに実力主義の家系なら分かるよ。神力が出なくなった奴なんて、何人も見てきたからさ」

「……そいつらは、どうなった」

「辞めたんじゃない? 神力が出なきゃ、この世界じゃゴミ同然だもん」

そっけなく言い残し、あいつは部屋を出ていった。俺はその背中を、ただ黙って見送ることしかできなかった。


「では、再テストだ。いつも通り飛んでくれ」

足元には、神力で編まれた保護ネットが敷かれている。士官学校で初めて飛ぶ訓練をする時と同じ光景だ。屈辱で歯を食いしばりながら、俺は思い切り地面を蹴った。

景色が浮き上がる。だが、次の瞬間、ガクッと意識が断絶した。

「関! 気がついたか」

目を開けると、俺はネットの上に転がっていた。また、飛べなかった。

「……もう、充分です。俺、明日からどうなりますか?」

「明日はお前の班は休みだ。立川へ戻れるよう、手配しておく」


倉庫で荷造りを始める。湿った空気が体にまとわりつく。

外からは、仲間たちの訓練の声が聞こえてくる。それを聞くのが、今はたまらなく苦しい。

しゃがみ込み、溢れ出す涙を掌で押さえた。泣いている姿なんて、誰にも見せられない。

段ボールに、教科書や資料を詰め込んでいく。最後に手に取ったのは、安宅、小早、俺の三人で撮った写真だった。

……ごめん小早。ごめん、安宅

安宅が死んだ時、俺はあまり泣かなかったと思う。あいつの分まで、俺が神力使いとして生きていくと決めていたからだ。なのに、俺は小早を一人残して、戦場を去ろうとしている。その罪悪感に、胸が潰れそうだった。


「おかえり、関」

立川基地。迎えてくれたのは、恩師である桜木教官だった。

「桜木教官……俺……」

「分かっている。とりあえず、荷物を運ぶぞ。お前の部屋は教官エリアの近くだ。何かと便利だろう」

やけに口数が多いのは、桜木の気遣いなのだと分かった。

部屋に着き、慣れ親しんだ立川の空気に触れると、張り詰めていた何かが切れた。

「教官……すみません……。俺、神力が……出なくて……」

声を震わせる俺の背中を、桜木は力強く、何度も叩いた。

「大丈夫だ。お前は俺の教え子で、あの地獄を共に生き残った大切な生徒だ。必ず解決策を見つける。……お前だからな。俺は、お前を信じている」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。