山積みの中で
関が軍を辞める――。
中山から突きつけられたその可能性に、俺は動揺を隠せなかった。
関悠斗は、俺が受け持った生徒の中でも誰より思い入れが強く、それゆえに厳しく叩き込んできた男だ。士官学校を首席(繰り上げではあるが)で卒業させたのは、俺の誇りでもあった。
だが、その厳しさが、あいつを追い詰め、命を削らせていたというのか?
翌日、食堂に中山の姿はなかった。
学校への出勤は確認できているが、昼になっても、夕刻になってもあいつは現れない。
夜になり、生徒たちが寮へ戻った頃、俺は耐えきれずに中山の自室を訪ねた。
「おい、中山。いるのか」
返事がない。ドアを開けると、そこには異常な光景が広がっていた。床から机まで山積みにされた古い文献や記録。その紙の海に埋もれるようにして、中山が眠りこけていた。
「おい、中山!」
「んっ……あぁ、桜木か……」
揺り起こされた中山の顔は、ひどくやつれていた。周囲に散らばっているのは、神力の特異事例や、禁忌とされる人身供犠的な強化術に関する本ばかりだ。
「お前、これ全部……」
「悪い、いつの間にか寝てたな……。関のな、何か対策がないかと思って探していたんだ」
中山は力なく笑い、眼鏡を拭きながら続けた。
「あいつの神力を今すぐ再検査できない以上、あらゆる可能性を想定しておかなきゃならんだろ。神力が命を削ってまで強まる原因……。通常、神力は精神的な壁にぶつかると出力が落ちる。だが、あいつのように極限まで自分を追い込み、本来の自分の戦い方を忘れて『力』だけを渇望したとき……体は不足したエネルギーを補うために、無意識に生命維持に必要な神気までをも燃料として消費してしまうらしい」
本来、その前に神力は枯渇し、気絶して終わる。だが、関は「神力タンク」の小早と肩を並べるほどの才能と、強靭な精神力を持ってしまっている。それが仇となり、安全装置が外れた状態で稼働し続けているのだ。
「あいつは今、殻の中に閉じこもって、一人で戦い続けている」
中山がテレビをつけ、一つの映像を再生した。
そこに映っていたのは、かつて士官学校で「同期負け無し」と言われた関の姿ではなかった。エリート部隊・天照隊の訓練場で、泥臭く、無様に、ただひたすら攻撃を受け続ける男。
「あいつが自分で自分の殻を破らなきゃならない。それまでは、天照隊という過酷な環境に身を置く限り、命を削る訓練を止めることはないだろう」
「見守るしかない」という中山の結論に、俺は激しい憤りを感じた。
納得できるはずがない。目の前で、手塩にかけた教え子が、罪悪感に押し潰されて死に向かっているというのに。
「……見守るだと? そんなことをしている間に、あいつの寿命が尽きたらどうする!」
俺の声が、静まり返った部屋に虚しく響いた。
親友である中山の瞳にも、俺と同じ、あるいはそれ以上の苦悩が浮かんでいるのが分かった。それでも中山は、関の「神力使いとしてのプライド」を最後まで信じようとしていた。




