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だめだった

「緊急指令。現在、青森県にて未確認飛行物体の攻撃を確認。応援を要請する。至急、全隊員は集合せよ!」

枕元の端末から響く無機質な声に、意識が跳ね上がる。時計は午前2時を指していた。

私は即座に布団を跳ね除け、体に染み付いた動作で隊服に袖を通す。


事態は深刻だった。昨夜22時頃、青森県某所に「アイツ」が複数体出現。青森の全戦力を投入しても沈静化できず、近隣の函館基地に応援が要請されたのだ。

雪兎隊からも、戦力の3分の2が派遣されることになった。

「王子ちゃん、よろしく頼むよ!」

「はい。」

輸送機の中で先輩たちに頷きながら、私は精神を集中させる。函館での穏やかな日々が、遠い昔のことのように感じられた。

脳裏に思い浮かぶのは函館の街。基地はよく函館市内が見渡せる。

ここで食い止めなければもしかしたら函館まで……。

現場に到着すると、味方が劣勢なのは明白だった。

「道を開けます!」

私は膨大な神力を練り上げ、数発の巨大な衝撃波を叩き込む。神力タンクとしての本領発揮だ。それで敵の勢いが一瞬削がれた。

「ナイス、王子ちゃん! 叩くぞ!」

攻撃手のメンバーがその隙を逃さず、一気に距離を詰める。

見えた……心臓部。

私は冷静に狙いを定め、確実に一角を撃ち抜く。

だが、その直後だった。

隣の空域で、味方の機影が光に包まれ、次々と高度を下げていくのが見えた。

この世界での死亡原因第1位は「墜落」だ。あの速度で叩きつけられれば、助からない。

――ドクン、と心臓が跳ねた。

視界が歪む。呼吸が急激に浅くなり、手足の先から体温が奪われていくような感覚。

また、守れなかった……?

脳裏をよぎるのは、目の前で失った安宅くんの背中。

「王子ちゃん、大丈夫!?」

通信機越しに誰かが叫んでいるが、水の中にいるように遠く感じる。

「王子中尉、戦域を離脱し帰還せよ!」

割り込んできたのは、日吉大佐の鋭い声だった。

「戻る……? なんで……私は、まだ戦えます……っ」

自分でも驚くほど声が震えていた。心臓の鼓動が耳元でうるさいほどに響き、体だけが異常に熱い。

「いいから戻れ! 上官命令だ!」

……抗う術はなかった。

私は後ろ髪を引かれる思いで、日吉大佐の待つ指揮所へと引き返した。

「王子中尉。……大丈夫か」

着陸した私を待っていた大佐は、いつもの穏やかな表情ではなく、一人の軍人としての顔をしていた。

「大丈夫です。戦えます。戻らせてください」

「大丈夫じゃない。……安宅大尉のことを思い出したんだな」

その名を出された瞬間、言葉が詰まった。

「……中山から聞いている。いいんだ、無理はするな。うちの隊はな、隊員に無理をさせないのがモットーなんだ。それに、函館の連中を甘く見るなよ。修羅場を潜り抜けてきた私の自慢の部下たちだ。そう簡単にやられはしない」

大佐の言葉通り、戦闘は最小限の被害で終結した。

けれど、基地に戻った私の心は少しも晴れなかった。

自室のベッドに潜り込むと、止まっていた感情が一気に溢れ出した。

戦えなかった悔しさ、安宅くんへの消えない罪悪感。そして、今この瞬間に隣にいてほしい関や、見守ってくれていた中山教官がいない孤独。

……大人になんて、なれてなかった。

翌日は、皮肉にも予定通りの休養日だった。

私は泣き疲れ、空腹すら感じないまま、ただ重い布団の中で動けずにいた。鼻をすする音だけが部屋の中に響いていた。

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