雪兎隊と陣川の夏祭り
今日は地域の夏祭り。
私はなぜか今、浴衣を着せられ、髪をセットしてもらっている。
ショートヘアなのでそれほど手はかからないはずなのだが、周囲の女性陣の気合は凄まじい。
「女の子の隊員が中々配属にならなかったから腕が鳴るわね!!」
「王子ちゃん、可愛いわよ!」
「……本当ですか?」
鏡に映るのは、鮮やかな黄色の浴衣にピンクの髪飾りをあしらった自分の姿。普段の無機質な隊服とはあまりにかけ離れていて、落ち着かない。
函館基地は毎年、ボランティアとして祭りの設営や運営を手伝うのが恒例だという。だが、なぜか私だけがこうして浴衣を着ることになってしまった。
他の隊員たちは、足の不自由なお年寄りの送迎や、模擬店の切り盛りで忙しそうに動いている。
「自分だけこんな格好で、お祭りを楽しませていただいてもいいんでしょうか……」
つい、申し訳なさが口をつく。
中学の頃、自分が「足でまとい」だと感じて部活を去った記憶が、ふとした瞬間に顔を出すのだ。けれど、周囲の反応は優しかった。
「いいのよ、王子ちゃんは! 今日はこれが仕事みたいなものなんだから」
「王子ちゃん、本当によく似合ってるわねー!」
地域の人々に次々と声をかけられ、私は照れくささに顔を伏せながらも「ありがとうございます」と頭を下げた。
祭りの幕開けとして、日吉大佐の挨拶が始まった。
その際、私も新入隊員として紹介され、壇上に上がることになった。
「王子ちゃーん!」という温かい声援が飛び、心臓の鼓動が早くなる。
「函館基地雪兎隊に派遣されております、王子小早中尉です。よろしくお願いします!」
精一杯の声で挨拶を終えた瞬間、私の背後の幕がスルスルと下ろされた。そこに書かれていた文字を見て、私は完全に固まってしまった。
『王子小早さん 陣川地区へようこそ!』
「王子小早さん! ようこそ函館へ!!」
会場全体から湧き上がる拍手。
「あ、あ……ありがとうございます!」
驚きと、それ以上の熱い感情が胸に込み上げる。かつて「不要だ」と自分を責めて居場所を失った私にとって、これほど真っ直ぐな「歓迎」は、何よりも心に染み渡る。
「大佐……もしかしてこれは、初日に言っていた『あれ』ですか?」
隣で満足げに頷く大佐に尋ねると、彼は「よく覚えてたな。ネタバレになっちゃったな」と苦笑いした。
この地区では、新しい転入者を夏祭りで盛大に歓迎するしきたりがあるのだという。
ただの期間限定の派遣隊員に過ぎない私を、一人の住民として受け入れてくれたことが、本当に嬉しかった。
その後、先輩方と一緒に模擬店を回り、盆踊りの輪を眺めているうちに、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
祭りが終わる頃、隊員たちは自然に動き出す。
「春川のおばあちゃん、夜道は危ないから送っていくね」
「こっちの荷物、車まで運ぶよ!」
命令されたわけでもなく、隊員たちが自主的に高齢者の手を引き、家まで送り届けていく。
戦うことだけが軍人の仕事ではない。こうして誰かの日常に寄り添い、守ること。
この隊の、そして函館基地の強さと優しさを、私は改めて深く胸に刻んだ。




