人生そのものに関わる教官という仕事
ふとテレビを付けると、画面には軍の広報が作成した「立川士官学校襲撃事件」に関する見解が流れていた。特集の主役は、俺の教え子だった安宅一希。 映像のなかで、彼は国を守るために散った「若き英雄」として、あまりにも綺麗に、残酷なほど美化されて語られていた。
安宅の最期については、俺が詳細に報告書に記した。 彼がどれほどのリーダーシップを発揮し、どれほど仲間を想って散っていったか。 だが、まさか自分の書いた言葉が、あの日流れた生々しい血の匂いや、遺体の指先に残っていた凍りつくような冷たさを塗り潰すために使われるとは思わなかった。
保護者の許可は取っているのだろうが、あの子の「生」を知る者として、胸の奥に泥を流し込まれたような、不快なざわつきが消えない。俺は耐えきれずリモコンを手に取り、画面を黒く塗り潰した。
静まり返った部屋で一息つくと、重い扉を叩く音がした。
「中山。今いいか?」
聞き覚えのある、重厚で温かい声。顔を上げると、そこには俺たちの恩師である日吉大佐が立っていた。
「日吉大佐……!」
「先に明日、北海道に帰ることになった。最後に挨拶をと思ってな」
「そうでしたか。……今回の件、本当にお世話になりました」
立川の襲撃から今日まで、大佐は常に俺たちの背中を支えてくれていた。
「いや、いいんだ。体調はどう? いつでも北海道へ療養においで。」
「ありがとうございます。今のところ事務仕事もそれほどありませんし、大丈夫です。……北海道には、いつか完全に落ち着いた頃に行かせてください」
日吉教官は、俺が学生だった頃と変わらない、すべてを見透かしたような柔らかな笑顔を浮かべて部屋を後にした。
扉が閉まったあと、ふと大佐からかつて聞いた言葉を思い出した。
「教官というものは、担当した子とは一生付き合っていくことになる。ある意味、その子の人生そのものに関わることが教官の仕事だ」
今回の事件は、あまりにも辛すぎた。
守れなかった教え子たちの冷たさを思い出すたび、何度も軍を辞めたい、いっそ消えてしまいたいと願った。生き残ってしまった罪悪感に、心臓を握りつぶされるような夜を幾度も過ごしてきた。
けれど、今この瞬間。
日吉教官の変わらぬ温もりに触れたことで、ほんの少しだけ、生きていてよかったと思えた。
俺の人生は、あの子たちの人生を背負って続いていく。
茨の道だとしても、まだ、歩みを止めるわけにはいかない。




