家に帰ろう
視界を真っ白に染め上げた爆炎のなかから、漆黒の煙を切り裂いて、一人の男が弾き出されるのが見えた。
「桜木教官!!」
ですが、宙に躍り出た彼の身体には、もう空を飛ぶための神力は残っていないようだ。糸の切れた人形のように、重力に引かれるまま落下していくその姿――
「桜木っ!!」
俺は折れた左足に走る、神経を直接火で炙られるような激痛を無理やり神力でねじ伏せる。 砕けた骨が肉を内側から削るたび、喉の奥に鉄の味が広がるが、構っている余裕なんてない。 全神力を推進力に変え、自由落下する桜木の身体を、俺の腕のなかに力一杯受け止めた。
「桜木!! おい、桜木! しっかりしろ!!」
抱き留めた彼の身体からは、あの化け物の体内特有の、甘ったるくも刺すような毒ガスの臭いが立ち上っている。 毒に侵され、極限の神力不足に陥った彼の顔は土気色で、瞼は重く閉じられています。
必死に呼びかけると、彼は毒に泥濘む意識の底から、うっすらと、本当に微かにだけ瞼を持ち上げました。 焦点の定まらない瞳が俺を捉え、その唇が、満足げな、ひどく穏やかな弧を描きます。
「……中山……。……約束、通りだ……」
勝利も、無事も、すべてを持ち帰る――そう言って笑った出撃前の言葉。 彼はその「約束」を果たし、俺の腕のなかでぷつりと糸が切れたように、深い眠りへと滑り落ちていく。
「あぁ……よくやったよ、桜木……」
安堵が込み上げた瞬間、俺自身の限界も訪れたのか、折れた左足を固定していた神力の「添え木」が、激しい機動の負荷で悲鳴を上げている。 激痛で意識がチカチカと白濁し、桜木の重みを支えきれず、高度を落としかけたその時――
「教官、桜木教官は俺が!」
関が鋭い機動で割り込み、俺の腕から自分よりも上背のある桜木を、背負うようにしてがっしりと受け止めた。
「教官……! 肩を貸します。早く!」
反対側からは、小早が俺の脇の下に自分の細い肩を入れ、崩れそうになる俺の身体を必死に支えてくれた。 俺たちを絶対に墜落させないという強い意志が宿っていた。
「……すまない、お前たち。……助かるよ」
俺たちは満身創痍の身体を引きずりながら、茜色に染まり始めた戦場の空を、互いの温もりだけを頼りにゆっくりと退却し始めた。俺たちはボロボロだけど……今、全員で「家」に帰るぞ。




