微睡み、眠る
無機質な電子音だけが、静まり返った部屋に規則正しく響いている。
手術室の赤いランプが消えてから数時間。 運ばれてきた中山教官の姿は、以前の惨劇の時と同じように青白く、まるでそこにある命の灯火が今にも消えてしまいそうなほど頼りないものでした。
「……せき……」
隣で椅子に座る小早が、掠れた声で俺を呼びます。
今回の戦闘で俺たちの「神力」は、ほぼ底をついていた。 俺や桜木教官のような回復が早いタイプですら、強烈な眠気と、内臓を抉るような凄まじい空腹感に襲われている。 「神気タンク」としての器が巨大な小早や、中山教官に至っては、その反動は計り知れない。
小早の顔色は雪のように白く、今にも意識を手放して崩れ落ちそうなのに、彼女は頑なに中山教官のベッドの傍らから離れようとしない。
「小早、少し横になれ。教官の山は越えたって先生も言ってたろ」
俺は自分の胃の腑を掴まれるような空腹感を無理やり押し殺し、彼女の細い肩をそっと支えた。 小早の身体は驚くほど軽く、そして微かに震えて居る気がした。 中山教官の左足——あの凄まじい衝撃で粉砕された骨を繋ぎ止めるための数時間に及ぶ緊急手術。その過酷な現実を目の当たりにした彼女の不安を、俺が一番よく分かっている。
「……でも、私……ここで、待ってたい……の……」
とろんと重たげな瞼を半分閉じながら、小早は俺の制服の袖をぎゅっと掴んでくる。 神力不足による強烈な睡眠欲と闘いながら、彼女は必死に「大切な居場所」が再び壊れるのを恐れているようだった。
視線を巡らせると、隣のベッドでは桜木教官が泥のように深く眠り込んでいる。 敵の内部で吸い込んだ毒ガスの影響と、使い果たした神力の代償。普段の厳格な鬼教官の面影はなく、今はただ、深い眠りに抗えず、規則正しい呼吸をしているだけだった。
俺は小早の震える右手を自分の大きな掌で包み込み、ゆっくりと温める。
自分自身の意識も、周期的に襲ってくる猛烈な睡魔と、何かを際限なく食べ続けたい本能的な渇きに引きずり込まれそうだ。 だけど、小早が不安に震えている間は、俺が隣で支える。
「大丈夫だ。ちゃんと帰ってくるって、教官も言ってたろ。……俺も、桜木教官も、ここにお前のそばにいる」
俺が静かに諭すと、小早は安心したようにわずかに口元を緩め、俺の腕に頭を預けてきた。ふわふわとした彼女の髪があたり少しくすぐったい。規則正しい彼女の寝息が聞こえ始めるまで、俺は中山教官の顔と桜木教官の顔、そして窓の外に広がる立川の夜を交互に見つめ、ただ静かにその目覚めを待ち続けた。




