俺を信じてくれてありがとう
「小早、大丈夫か!? くっそ……! 火力が足りない!!」
通信越しに響く関の叫び声には、焦燥が濁流のように混じっている。 彼の火力をもってしても、目の前の「超重装甲種」の殻には綻び一つ作ることができない。
「関、狙いをぶらすな! くっそ……! なんでこんなに叩き込んでも綻びすら見えないんだ!!」
桜木もまた、これまでにない怒声をあげる。 俺たちの全出力を注いでも、敵の代謝再生がそれを上回っている。 このまま外側から叩き続けても、私たちの神力が底を突き、墜落を待つだけの「死のカウントダウン」が始まるのは明白だった。
……第1次北九州大規模侵攻の時と同じだ。……内部に呑み込まれ、中から心臓部を叩くしかないのか
その「正解」が脳裏をよぎった瞬間、通信機が三人の声で爆発しました。
「……呑み込まれた経験がある、私がいきます……っ!」
小早が掠れた声で名乗りを上げる。 ですが、彼女の呼吸は先ほどの腹部への被弾で激しく乱れ、今は当時の9割しか肺活量は戻らなかった。昔より肺活量がない状態で行かせて中で意識を失えば戻ることは叶わない。
「それなら、俺だってあの時に呑み込まれたわけだし……! 俺の方が火力がある、俺がいきます!!」
関が食い下がる。 彼は無傷だが、神力の消費が激しく、単独で毒ガスと分解液の充満する敵内部でどれほど動けるか未知数だ。
「待て。……自分は怪我もない。攻撃手として、かつ呑み込まれた経験がある俺が行くのが一番確実だ」
桜木の低く、落ち着いた声が割って入りました。
俺は、隊長として決断を下さなければ。
消去法などではない。これは戦術的な最適解はこれだ――
「……桜木。……お前に任せる」
「中山教官っ!?」
小早と関が驚愕の声を上げますが、俺はそれを手で制す。
「小早。……お前の肺の状態では、内部の毒ガスを吸えば持たない。 関。……お前は外で、その火力をぶち込み続けて欲しい」
そして並走する桜木の瞳を見つめました。 ああ、こいつも俺と同じことを考えている。「二度と、犠牲は出させない」。 かつて同じ班の同期を失い、二人で泣き崩れたあの日から、俺たちの魂に刻まれた想い――。
「桜木。……お前は『無傷』だ。 確実に核をブチ抜いて、……生きて戻ってこい。これは命令だ」
「……あぁ。……誰に言ってやがる。――お前ら、外を頼んだぞ!!」
俺たちは、血を吐きながらでもこの空を死守し、あいつが戻るべき「道」を繋ぎ止める。
ふと小早の顔を見れば、彼女がこの戦略に「納得」しているのは分かった。 だが、その横顔は紙のように白く、大切な仲間が化け物の胃袋に自ら飛び込もうとする光景を前に、今にも泣き出しそうなほど辛そうに歪んでいた。
「必ず……必ず帰ってきてください、教官!」
関が切実な……そして痛みを飲み込むような声を出す。
「ふんっ……俺を誰だと思ってる。全てを持ち帰ってきてやるよ。勝利も、俺自身の無事もな」
桜木はいつものぶっきらぼうな不敵さを崩さず、むしろ軽やかにそう言い放った。 そして、あいつは通信機の向こうで、俺にだけ聞こえるような優しい声で続けた。
「中山。……俺を信じてくれて、ありがとうな」
桜木の口元が、わずかに緩むのが見えた。 あの日、内部に呑み込まれたあいつを死に物狂いで救い出した時から、俺たちの絆は言葉を超えた場所にある。 その信頼を託された重みに、俺の胸の奥が熱く、そして痛切に締め付けられた。
……あぁ。信じているさ。お前が、俺の自慢の相棒だってことを。
桜木が漆黒の炎のような加速を見せ、怪物の巨大なあぎとへと突進していく。
俺は溢れそうになる感情を鉄の意志で抑え込み、隊長としての「声」を戦場に響かせた。
「っ……!! 桜木のために道を開け! 関、小早! 両側から攻撃を集中させ、ヘイトをこちらに向けろ!!」
俺たちが作り出した一瞬の「道」。 桜木はその光の中を、漆黒の炎となって怪物の巨大な口の中へと吸い込まれていった。
頼むぞ、桜木……。お前の帰る場所は、俺たちが死んでも守り抜く!
茜色に染まる絶望の空で、俺は折れた骨の軋む音を聞きながら、あいつが内部から絶望を切り裂くその瞬間を、ただ信じて攻撃を続けながら待ち続けた。




