トラウマ
「っ……、はぁ、……あ、が……っ!!」
左足に走る、神経を直接火で炙られるような激痛。 敵の衝撃波によってへし折れた骨の断面が、機動のたびに肉を内側から削り取っている。 俺は全身を巡る神力を無理やり左足へと集中させ、砕けた骨を繋ぎ止める「添え木」として固定していたが、それも限界に近かった。 脂汗が目に入り、視界が白濁する。
それでも、俺がこのシールドを解くわけにはいかない。 目の前で刃を振るう桜木の背中を守れるのは、今この場では俺だけなのだ。
「中山! 少しの間なら俺の防御はいらない。……小早のところへ行け!!」
通信越しに響く桜木の怒号。 その視線の先には、敵の追撃波を腹部に受け、空中で激しく身悶えしている小早の姿があった。
「……わかった。……任せたぞ、桜木!」
俺は折れた足を引きずり、重力に抗うように神力を噴射して小早の元へ急行した。 一歩動くごとに、脳を焼き切るような電撃痛が全身を駆け抜ける。
「小早っ!!」
辿り着いた彼女の容態は、想像を絶するものだった。
「っ、……はぁっ、……っ、ひぅ……っ!!」
顔は土気色に染まり、喉の奥からはヒュー、ヒューという痛々しい喘鳴が漏れている。 腹部への衝撃が、かつて附属病院の駐車場で関内の妹に刺された「死の記憶」を呼び覚ましてしまったのだ。
激しい過呼吸。 彼女の瞳には目の前の戦場ではなく、あの日血を流したあの駐車場が映っている。
「小早、落ち着け……! 俺を見ろ、中山だ!!」
空中で激しく身をよじらせる小早をその腕の中に力一杯引き寄せた。
俺は震える左手で、小早が必死に押さえている彼女の腹部——あの古傷の痕にそっと触れた。衣服越しに伝わるその場所は、確かに衝撃で熱を持ってはいるが、刃物で切り裂かれたような裂傷はない。
「大丈夫だ……小早、俺を見ろ。刺されてない。いいな? 傷は開いていないぞ」
俺は折れた足の痛みを奥歯で噛み殺し、彼女の小さな身体を、俺の体温が骨まで届くようにしっかりと抱きしめた。
俺の掌から、彼女を落ち着かせるため、熱を伝えるように優しく摩る。 彼女の呼吸が、わずかに、本当にわずかにだが現実へと引き戻されるのを感じた。
これほどのパニックを起こしながらも、小早の両手は一度も止まってはいなかった。 彼女の指先からは、前線で孤軍奮闘する関を支えるためのベースが、途切れることなく空中に生成され続けている。
……凄いな、お前は……。
過呼吸で意識が飛びかけ、肺にガラスが刺さるような激痛を思い出しながらも、あいつは「関を守る」という役割だけは、本能の域で完遂しようとしていた。
「小早、偉いぞ。……関の防御はしっかりできている。だから、今は自分の呼吸だけに集中しろ。……吸って、吐いてだ」
「中山っ……、……教官っ、……っ、はぁっ、……ひゅう……っ!!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、小早が俺の名前を何度も呼び、見上げてくる。
折れた足が燃えるように熱い。 俺も、小早も、もうボロボロだ。
「……吸って、……吐いて。……そうだ、上手いぞ」
絶望的な戦場の騒音のなか、俺の腕に伝わっていた彼女の激しい鼓動と引きつった呼吸が、少しずつ、本当に少しずつですが凪いでいくのを感じた。彼女を縛り付けていたトラウマの鎖が、現世の温もりによってようやく解けていくようだ。
「……よかった……。小早、……もう大丈夫だ」
落ち着きを取り戻し始めた彼女の小さな背中を、俺は安心させるように何度も、何度も不器用に摩った。




