このままでは勝てない
中山教官の鋭い怒号が脳を直接揺さぶる。
「一旦、距離を取れ! 全員、後方へ退避だっ!!」
その号令と同時に、私たちは重い神力を振り絞り、押し潰されそうな圧力を逃れるように急速後退を開始した。 だけど、機動を反転させたその瞬間、逃れようのない「正解」を導き出してしまった。
……勝てない。これには、このままでは絶対に勝てない……
目の前で蠢く、天を覆わんばかりの超重装甲種。 あの分厚い殻、絶え間なく放たれる神力の奔流。 それに対し、私たちの中山隊は神力の余裕があるものの、致命的な打撃を加えられていない。
死ぬ。このままここにいたら、私たちは確実に……全滅する。
脳裏をよぎるのは、今までの戦闘。
合格発表の日の、土煙に塗れた食堂。笑い合っていた仲間たちの肉が弾け、運ばれていく姿。取り残された時のあの絶望的な冷気が、いま再び私の指先を凍りつかせている。
震えが止まらない。ガタガタと歯の根が合わないほどの戦慄。
もしここで私たちが落ちれば、立川の街は、そして私を「ただいま」と迎えてくれたあの平和な日常は、すべてこの怪物に喰い尽くされてしまう。 だけど、退却を命じられたいま、私たちの戦力ではこの絶望を止める術がない。
放置すれば世界が終わり、立ち向かえば全員が死ぬ。
視界の端で、必死に私の死角を埋め、攻撃をしようとしている関の背中が見える。 なんとか隙間から攻撃を仕掛ける桜木教官。共にシールドを展開しなんとか打開策を練ろうとしている中山教官。
私が大好きで、この「大切な居場所」が。いま、私の目の前で、無慈悲な肉塊へと変わろうとしている。
いやだ……死なせたくない。でも、助けられない……!
暗い空の向こうから、漆黒の死がゆっくりと、確実に鎌首をもたげてこちらを見つめている。相手に目などないはずなのに、目が合った気がした。 私は壊れた人形のように震える手で、空を切るような無力な神力をただ、必死に練り上げることしかできなかった。
「どれだけ硬くても耐久上限はあるはずだ。ここまで弱点を隠されて、隙間も見つからないようなら……火力で一点を叩き続けるしかない」
中山教官の低く冷静な声が、私の脳を震わせた。目の前に立ち塞がる「超重装甲種」の巨躯は、私たちのあらゆる攻撃を撥ね返し、不気味に脈動している。
「敵は攻撃を私たちに散らさせるために仕掛けてくる。小回りを効かせて、どこからでも同じ場所を叩けるように動き回らなければならない。……いくぞ!」
教官の指示とともに、私たちは再び絶望の渦中へと突撃を開始しました。陣形は二組。中山・桜木両教官のベテランコンビと、私と関の若手コンビで空に跳ねる。
「小早、頼む!」
「了解!」
関は神力による圧倒的な破壊力を持つが、急激な方向転換や小回りの利く機動は少し苦手だ。私は「神気タンク」としての全出力を解放し、空中に無数の神力の足場を大量に展開した。
敵に軌道が悟られないように、私が空中に固定した複数の光のステップを、関が鋭い踏み込みで蹴り上げる。私のベースを足場にすることで、彼は重力と慣性を無視した超機動を実現し、怪物の装甲の一点へ正確に火力を叩き込み続けた。
しかし、敵も黙ってはいないようだ。私たちの連携を断ち切るように、全方位から暴力的な衝撃波の豪雨が降り注ぐ。
「っ、……っ!!」
回避不能のタイミングで放たれた一撃。咄嗟にシールドを展開したが、私の防御を、敵の質量が容易く食い破る
鈍い衝撃が、私の左肩を直撃した。
パリンッ――!!
念の為付けていた特注のプロテクターが、耐えきれずに木っ端微塵に砕け散る。
「小早っ!!」
関の悲痛な叫びが聞こえる。
まだ……まだ、落ちるわけには……いかない……!
「大丈夫!こっち見ないで!前向いて!」
「っ……了解!」
プロテクターがもしなければと思うとゾッとする。
砕け散ったのは私の骨だったかもしれない。背中を伝う冷たい汗。早く、倒さなければ。




