生へ手を伸ばす
「はい……申し訳、ありませんでした……」
ようやく重い口を開き、謝罪を終えた小早を抱えて、病室へと戻る。
あの子の肩はまだ小さく震えていて、その横顔は相変わらず透けるように白い。俺が何を言っても、関がどれだけ傍にいても、あの子の魂はあの日、安宅たちが消えていった瓦礫の下に取り残されたままだった。
部屋に戻ると、小早はふらつく足取りで椅子に座り、これまで見向きもしなかったトレイの上の食事に、ゆっくりと手を伸ばした。
俺と関は、息を呑んでその光景を見守った。
ここ数日、小早は何も受け付けなかった。無理やり一口流し込んでも、すぐに胃液と一緒に吐き戻してしまう。命を繋ぐための「水」を一滴も溜めることができなくなっていた。
震える指先が、スプーンを握る。
小早は、覚悟を決めたように一口、食べ物を口に運んだ。
……頼む、戻さないでくれ……
祈るような心地でその喉の動きを見つめる。小早は、ひどく苦しそうに、けれど今度は吐き出すことなく、その一口を飲み込んだ。
あんなに拒絶していた「生」を、あの子がようやく受け入れた瞬間だった。
「……うち、間違ってた」
不意に、小早が掠れた声を漏らした。
「関は……他の隊に配属されて、うちはまた、ひとりになると思ってた。……うち、もう、安宅くんの所に行きたくて……。だから、食べれなくて……」
その告白に、俺の心臓は鋭利な刃物で抉られたようだった。小早が食べられなかったのは、身体が弱っていたからだけじゃない。あの子自身が、安宅のいる「あっち側」へ行くために、自ら餓死を選ぼうとしていたのだ。
関すらも自分の前から消えてしまうと思い込み、たった一人の絶望の中で、あの日散った仲間たちの後を追おうとしていた。
「……バカ野郎」
喉の奥が熱くなり、視界が滲む。
教え子にこれほどの孤独を感じさせ、死への道を選ばせようとしていた。教官として、俺がいかにあの子の心の深淵を見落としていたかを突きつけられ、不甲斐なさに胸が焼ける。
だが、小早は今、俺たちの目の前で、不器用ながらも次の一口を口に運ぼうとしている。
あの子の冷え切った背中にそっと手を置いた。
安宅たちが命を懸けて繋いだこの命を、今度こそ何があっても手放させはしない。
咀嚼する微かな音だけが響く静かな病室で、俺は小早が「今」という時間を繋ぎ止めてくれることを、ただ祈り続けていた。




